むぎゅっと。


「蒼破ァ!」


ユーリが剣を振るうと同時に蒼色の衝撃波が地面を走り魔物の体を真っ二つにした。魔物は断末魔と共に叫び散り、ユーリは振るった剣を頭上で左手から右手へと回した。


「物足りねぇな。」


ユーリは回した剣で肩をとんとんと叩き、その姿からは言葉通りまだまだ戦い足りないと言っているのが見てとれる。その余裕を含んだ挑戦的なユーリの笑みと一緒に彼の左手首の武醒魔導器(ボーディブラスティア)が光り輝く。ナマエはそれを黒目がちの瞳で見つめ、瞬きを数回繰り返し手を出した。


「ユーリ、」

「ん?」

「ユーリのそれ、ちょっと見せてもらっていい?」

「それって…、この魔導器か?」

「そう。そのブラスティアってやつ。」


アーモンド形のくりくりとした瞳はじっと魔導器を見ていて、ユーリは剣を鞘におさめてからナマエに左手首にある魔導器を見せた。赤く光り輝く魔導器を金色のバンクルにしたもので、ユーリはそれをまた一回り大きい金色のバンクルで固定していた。ナマエはそれを鼻先が当たるのではないかと思うぐらい近くで見つめ、小さく唸った。


「う〜〜〜〜ん…。前からなぁんか感じるって思ってたのはこの子かぁ。」

「俺の魔導器がどうかしたか?」

「イノセンスって言ったらイノセンスのような……。でもイノセンスっぽいものと言えばイノセンスっぽいもので終わりそうだし……。安定はしてるから特に平気そうだけど…。」

「ナマエ?」

「ごめん、そのまま動かないで。」

「あ、あぁ…。」


急に難しい顔をしてユーリの魔導器を睨み始めたナマエに他のパーティ達は「どうした?」と首を傾げたが、ユーリも「さぁ?」と肩を竦めてみせた。


「ユーリ、触ってみてもいい?」

「どーぞ。」


魔導器を前にぶつぶつと言うナマエが顔を上げて魔導器を指さし、ユーリは苦笑した。一体この魔導器の何が彼女の興味を刺激したのか。ナマエは「ありがとう」と小さく言ってユーリの手首を持ち上げた。ピンクの爪がついた細くて白い指先だ。自分の腕の二回り、いやもしくはそれ以上かもしれないナマエの細い手首が見える。


(本当に細いんだな…。)


ユーリはナマエの手が自分の魔導器をくまなく触っているのを感じながらナマエを見下ろした。

強い光と共に重傷で現れたナマエ。悪魔にやられただの黒の教団だの千年伯爵だの訳のわからない事ばかり話し、個人的に関わりたくはなかったがエステルの放って置けない病が発病し一緒に旅することになった。初めてナマエに会った時、重傷の体を宿まで運んだのは自分だ。びっくりする程軽くて、可哀想な程細かった。それは今も変わらなくて、彼女の服から見える首とか、手首、あとミニスカートから伸びる足は彼女の細さを如実に現していた。


「…でも安定しているってことはシンクロしてるってことよね。えぇ、でも改良もなしで?いやいやそんな…。」

「おいナマエ…」

「あー待って待って。そのまま。」

「ちょ、待っ…」


ナマエの体がぐっと近付いた。魔導器を色んな角度から観察しようとしているのかどうなのかよくわからないが、何がどうしてこうなったか、ナマエがユーリの腕を抱いている。


「気配はイノセンスっぽいのよね。でも確信が持てないのがイノセンスっぽくて……。」

「おい……。」

「皆の魔導器はそうでもなかったよね。でもこの子だけ……。」


おまけにナマエの白い指先が魔導器、バンクル、とユーリの腕をなぞる。そして嬉しいことに…。


(……胸が……。)


当たっている。自分の腕に。
見える所が随分と細いため、あまり気にしたことはないが…、これはなかなかだ。質量も柔らかさもなかなかのものが当たっている。しばしこのままでもいいかもしれない、そんな下心がユーリを擽りユーリは口を噤んだ。そんなユーリにレイヴンが眉を寄せる。


「ちょちょちょ、ちょい待ち。」

「なんだよ、おっさん。」

「ちょっと青年、おっさんと場所変わらない?」

「あ、ユーリまだ動かないで。」

「……だとよ。」

「待ってナマエちゃん。魔導器ならおっさんも良いものもってるわよ。」

「んー後で。」

「ナマエは俺の魔導器がいいんだとよ。」


そう口元を緩めたユーリにリタが「馬鹿っぽい…」と目を細め、ジュディスは「あらナマエは形もいいんだから」と笑った。そんな三人にレイヴンが地団駄踏み、カロルとエステルは首を傾げる。犬はつまらなさそうに欠伸をするだけ。


「ほら、こうすれば見えるか?」

「あ、ごめんね。うん、ちょっとそのままで。」

「はいはい。」




ユーリ・エローウェル(21)
健康な男の子です。


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