スキエッタメンテ


「お世話になりました。色々と、ありがとうございました。」


ユーリ達の顔を一人一人見て、ナマエは頭を下げた。下げた際に見えた彼女の首筋はびっくりする程細く、ひどく脆そうだった。ユーリはその小さな体を見下ろしながらそう感じ、また皆も同じ事を思いエステルが口を開いた。


「やっぱり一人は危険です。ナマエさえよろしければ私達と一緒に…」


そうエステルがナマエの手を取りながら一歩前へ出ると、言われたナマエは微苦笑を浮かべていた。


「エステルさん…、でも私はあなた達と目的が違うし…」


黒の教団、と彼女は言っていた。はたしてそれが一体どういった組織で何をして何を成し遂げようとしているのかサッパリわからないが、彼女の胸に輝くクロスには自分達にはわからない強い何かがありそうだった。そう、だからはっきり言わしてもらえば厄介事なんてもう勘弁して欲しいユーリなのだが、あのエステルの様子じゃ今確実に片足を突っ込みそうな勢いだ。


「それに、エステルさんが良くても皆さんが…」


と言ったナマエが一番に自分と目が合って一瞬ひやりとする。いや、もう彼女はわかっているのかもしれない。自分が彼女を警戒していることを。むしろ彼女はそれでいい、とばかりにユーリを見ている気がする。


「そんな事…!そんな事、ないですよね?みんな!」


ナマエの言葉にエステルがユーリ達を振り返る。強く頷いたのはカロルだけで、後は「どうぞご自由に」とエステルの放って置けない病を諦めに近い何かで受け止めていた。エステルはそんな皆を流し見て、最後にユーリを見上げた。


「ユーリ…」

「何で俺?」


許しをこうような眼差しを向けられて思わず肩をすくめる。一体どうしろとエステルは言うのだ。
得体の知れない誰かが一人でもう大丈夫だ、と言った。怪我も治ったし心配してあげることなどない。そこは両手をあげて良かったね頑張ってと手を振ってあげればいいものを。このお姫さんは……。とユーリは溜め息と一緒にすくめた肩を落とした。


「エステルがそう言ってんだ。好きにすればいい。」

「………………」


きょとん、と丸くなった瞳が可愛かった。小さな顔にくりっとした瞳が自分を見ていて、ユーリは何故か少しだけ、居心地の悪さを感じた。


「ここら辺の魔物は手強い。一人でっつーのはあんま得策じゃねぇな。ま、アンタがどうしても一人がいいって言うなら止めないが。」


ぱちぱちと長い睫毛が上下して、小さな顔が少し傾いた。そしてユーリを不思議そうに眺めてから、ゆっくりと、桃色の唇が微笑んだ。その一瞬に、ユーリの何かが静かに擽られた。


「優しいんですね、ユーリさん」

「…は…、」


まるで、蕾が綻んだかと。


「あと、素直じゃないですね」


くすくすと笑うその笑顔にユーリは妙な焦りを感じた。何でつい最近会ったような女にそんな事を言われなきゃいけないんだ、と思いつつ、ハズレでもないその言葉に何だか調子が狂って焦る。

…なんか、まずくないかこの感じ。




(その感情に名前が付くのは、あとちょっとのこと。)


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