オオカミ青年とレイヴン


狼である俺だって一応一通りのことはそれとなくできるのだが、ここまで音もなく侵入、背後から一発で相手を気絶させる、息の殺し方、移動の素早さには拍手を通り越して怪しかった。


「…おっさん、マジで何者?」

「え?おっさんはおっさんだけど。」

「…あっそ。」


食えないっていうか怪しさぷんぷん。
まるで侵入した屋敷内を全て把握しているかのような迷いのない進みにレイヴンというカラスの存在が気になった。こいつ本当何者だ…?今のところ、信用してはいいみたいだけど、この件が終わったらどうなるやら。敵でもない、味方でもない。掴めるようで掴めない雲みたいな存在。


「おっさんの事気になる?」


壁に身を潜め、使用人が通り過ぎるのをやり過ごす。


「…ま、気になるわな。」

「やだ情熱的。」

「焼き鳥にするぞ。」

「やだ灼熱的。」


こんなふざけた態度も怪しさを募らせる。今更だがこんなヤツについてきて良かったのか…?でもナマエの弟、テッドが「レイヴンなら役にたつから!」「ちょっと役に立つとか上から目線!?」って言ってたし、一応のところって感じだな。


「安心してチョーダイ。前にも言ったけど、ナマエちゃんには色々借りがあるから悪いことはしないって。」

「ふーん」

「ありゃりゃ、信用ないわね。」


やり過ごした使用人を見送り、二階へと駆け上がる。そして何人目かわからない見張りの男を手刀で気絶させる。レイヴンのその動作には、迷いや躊躇いもない。あまり敵には回したくない(というか何がコイツにとって敵になるのかわからないが)男だと睥睨すると、レイヴンはそんな俺の目にやれやれといった感じに肩をすくめた。


「俺っちのご主人様さ、二人いるの。」

「…んだよ、突然。」

「まぁまぁ。で、この間腰を痛めた方ね、そっちのご主人様はナマエちゃんのことちょっとした経由で前から気にかけててね。で、もう一人のご主人様は、この村のことっていうかキュモール家を前から憂いてさ。」


憂い、なんて随分と変な言い方をする。もう一人はどうかしらないが、後者はそれなりの地位のものなのだろうか。…この家を気にするってことは。


「一人のご主人様はナマエちゃんを何とかしてあげろって言われてて、もう一人の方からはキュモール家をなんとかしろって言われてるの。」

「…つまり、ナマエを助けることはキュモール家を何とかするのに繋がるってことか?」

「そゆこと。俺はナマエちゃんを助けるために青年に協力してるわけじゃない。二人のご主人様の命令で青年に協力してるってわけ。」


だから安心して、なんて言われて正直すごく複雑な気分になった。…聞かなければ良かった。いや、聞いて少し安心した面もあったが…。別にナマエのために協力しろって言ってるわけじゃないが、自分のため、主人のためだったか…。


「まだおっさんの事心配?」


そう俺の顔を覗き込むおっさんに、今度は俺が肩をすくめてみせた。


「…いや、それ聞いてちょっと安心した。アンタの目的がわかって。」

「そ。なら二人で力を合わせてナマエちゃんを助けましょ。」


なんて、おっさんにウインクされても全然嬉しくねーよ、と肘で小突いた矢先。
その『音』に俺の耳がピリリと小さく震えた。


「…今の音。」

「この先からみたいよ。」


何かが縺れ落ちたような物音に、全身の毛がざわついた。ざわついたと同時にせり上がってる感情を何とかぐっと落ち着かせる。焦るな、落ち着け。そう自分に言い聞かし、鈍い物音がした先へと足を進めようとした時、その先を遮るようレイヴンが前に出た。


「青年、一応言っておくわ。殺さないでね。」

「…相手次第、だな。」



オオカミ青年とレイヴン


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