オオカミ青年のモノローグ


踏み荒らされている。
俺が、マーキングしてる場所が。

俺が木に土に「ここは俺のテリトリーだから」と印しているのを一切無視して無遠慮に複数の足跡によって踏み荒らされている。これを見れば狼はもちろん、大抵の魔物は近付かないはずなんだけど。獣の縄張りってやつ。それがわかっていない存在はただ一つしかいない、人間だ。アイツらは獣のルールとやらからはまったく関係ないからな。理解しているわけでもなく、理解しようとしているわけでもない。踏まれた土の足跡は喜ぶべきなのか、ナマエの小屋とは正反対の場所に向かっている。まぁ、まだここはナマエの小屋からだいぶ距離があるからすぐにってわけでもないが、ここまで『何かが』来ているのは一目瞭然だ。

(俺に守らしてもくんないのかな、魔女サンはよ。)

最近気が付いた。俺の大事な魔女さんは相手に気付かせないようボーダーラインを引くのがお上手だ。ナマエは俺に不可侵の境界線を張っている。普通の奴等だったら気付かないだろうがな、群れで暮らす狼はそーゆー事に敏感なんだよ。そのボーダーは、俺を嫌っているのか、またはその事に突っ込んできて欲しくないのか。どっちでもいい(いややっぱ前者は嫌だ)、引かれてるラインが邪魔だ。俺はナマエを、自分のモノにしたいだけなんだケド。


「ナマエー?…ってこりゃひでぇな…」


近付いてくる『何か』にこの場所を知らせないよう、なるべく足跡が付かない場所を選んで小屋に到着。扉を開ければいつもナマエが実験やら読書やら、俺らが食事をする机が散らかっていた。薬草も、なんかよくわからん液体も。これは、夜通し薬でも作ってたな…。そこから寝室へと繋がる扉はまるで俺を呼び込むよう開いていて、まー不用心だこと、と嘆息した。


「ナマエ、まだ寝てんのか?」


もうすぐ昼なので遠慮とかそういうの要らないだろ、とブーツをごつごつ鳴らして寝室へと入るとベッドに倒れ込むようにして寝ているナマエがいた。一瞬何事かと思ったが、気持ち良さそうに枕を抱いている姿に安堵する。おい枕その場所代われ。足音を鳴らしても起きないナマエにかなり夜更かししていたのがわかる。そして寝顔が穏やかなことで、実験の塩梅は良かったらしいのもわかる。服も昨日のまんまじゃねーか。


「まー無防備に寝てくれちゃって。」


すうすうと聞こえる寝息に、自然と自分の顔が緩むのがわかる。寝息に合わせてゆっくりと動く肩とか、長い睫毛とか、少し開いた口とか、見ていて、なんかいいなって思える。そこから足音を消して、ナマエが寝るベッドへと近付いて膝を折る。少し触っても、起きないだろうか。そう躊躇しながらも伸ばした指先は案外すんなりとナマエの頬に触れていた。オスの俺と違って、柔らかくてすべすべしてる。へー、メスってこんなところも柔らかいんだな。あんま意識して触ったこととかないからわからなかったが、結構ずっと触っていたくなるもんだな。と思って苦笑する。違ェや。ナマエだからだな。


「おーい、ナマエさんよ。昼だぞー。」


ぷすぷすと柔らかい頬に人差し指をさしてみるが…、あまり効果はないようだ。随分ぐっすりだこと。なんか、いいな、可愛いな、コレ。起きないナマエをいいことにぷすぷす突いてるのを続けていたらナマエが、んー、と眉を寄せて、流石に起きるか?って思ったがまだまだ夢の中みたいだ。すげーな、爆睡だ。ということは、もっとイロイロしていいってことだなっ。


「駄目なら早く起きるこった。」


なんて起こす気もない程度の声量で呟いて、ナマエが寝るベッドに腰掛ける。少しベッドが沈む程度じゃ今のナマエに起きる気配はない。これはこれで、ちょっと心配だな。ナマエを探し出してる奴を前にこれだったら簡単に連れてかれちまうじゃねぇか。とか、まー、そういう対策は後で考えよう。今はこのナマエを楽しんでからだ。
深い深い眠りについてるナマエの頭を、指に髪を絡めながらゆっくりと撫でる。ナマエの髪は一本一本艶々で、さらさらしつつも俺の毛と違ってふわふわしてる。細いんだよな、きっと。ラピードを撫でる時とは違う自分の撫で方になんとなく苦笑する。こんなとこフレンに見られたら間違いなくまた気持ち悪いとか言われるんだろうな。ナマエの呼吸に合わせて頭を撫で、ゆっくりと身を屈めた。途中ナマエの顔に自分の長い黒が落ちそうになって慌てて片方の手で抑える。まだ、まだ起きるな。もう少し、もう少し、お前の近くに。

頬に触れた唇は、それだけでも熱を持った。

(もう俺重症かもしんない…。口にしたわけでもねーのに。)

そうだ、別に唇にキスしたわけでもない。こんな無防備にキスしたって気付かれない(…多分)のに、何を今更遠慮して頬とか…。付き合いたてのガキでもあるまいし!それなのに、それなのに。

(やべぇな…。絶対、今、顔赤い…。)

彼女に触れた唇の温度がやけにリアルで、手の甲をあてがう。ああどうする。こんな、絶世の美女でも何でもない女に、成人をとっくに済ました俺が、頬にキスしたくらいで。守ろうともさせてくんない可愛げのない女に、どうしようもないくらいの、デカイ感情を抱いた。窓から入った光に金色のバンクルが輝いて目を瞑った。クソ、最悪だ。俺はもうこれ以上、ナマエに触れない。触ることができない。今から力任せにこいつの服を脱がすことだって切り開くことだってできる。けど、そんなの、

(無意味だ。)

コイツが欲しい。俺の獲物だ。なんてよく言う。俺が欲しいのはこの女の心、視線の先、俺を求める声言葉。俺がコイツをモノにする前に、俺がコイツのモノになってる。

「ナマエ…。」

一房指に絡めた髪は柔らかく、彼女の香りと温かさが残る。


「早く、俺を求めろよ。」


ローウェル助けて、って言えよ。


オオカミ青年のモノローグ


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