オオカミ青年とローリエ


底が深い鉄鍋を火にかけ、今日も俺の魔女さんは薬造りに勤しんでいた。俺はというとそんなナマエの背中を見詰めながら色んな草や花が散らばった机の上に顎を置いてぐーたらしている。名前もわからん草花達は流石魔女が使うだけあって色々匂いがキツくって苦しいっちゃー苦しいんだが、「匂いキツイんだけど」と言えば「なら帰れば?」と言われたのは数分前の話だ。


「なーナマエー。」

「何かしら、ローウェル。」

「暇ー。」

「なら帰…」

「…らないぞ。」


ナマエの言葉を遮って言い被せた。誰が帰るか。俺は、ナマエと、暇を潰すために、小屋に来たのだ。そしてあわよくば、と今日こそナマエを俺のものにするべく来たのに、ナマエは薬造りになると一度もこちらを見てくれないから退屈だ。薬の配分を間違えるとまったく違うものが出来たり失敗してしまうから、とナマエは薬を造ってる時はすごい集中する。そう、俺の存在なんて無いもののように。


「いつ終わるんだよ。」

「んー。」

「何作ってんだよ。」

「んー。」

「今日のメシは何。」

「んー。」

「…俺のこと好き?」

「んー。」

「………。」


…嬉しくねぇ。そんな返事これっぽちも嬉しくない。むしろ返事以前の問題だ。俺的にはだな、こう、目と目がちゃんと合ってる状態で、かつ俺がナマエを抱き締めててだな、キス手前みたいに顎持ち上げて、「ナマエ、俺のこと、好き?」「………好き…。」なんてちっさい声で恥ずかしそーに言うナマエが欲しいんだ!くれ!いますぐ!


「ローウェル。」


しかしそんな現実はいつ来るのだろうか、机に伏せたまま頭を抱えているとナマエが俺の名前を呼んだ。お、なんだ終わったかのか?と嬉々として顔を上げれば相変わらずの背中に、腕だけ伸ばされている。


「ローレル取って。」

「は、俺?」

「馬鹿、ローリエよ。」

「ローリエ?」

「月桂樹の葉を乾燥させたもの、そこにあるでしょ。多分、そこにあるので匂いが一番強いんじゃないかしら。」

「あー…」


コイツか、と乾燥して茶色くなりかけている葉を手に取る。紛らわしい名前しやがって。匂いもなんか…薬っぽい気がしなくもない。ぐつぐつと煮えたぎる鍋を木製の大きなスプーンでかき混ぜながら空いた反対の手が早く早くと俺を急かしている。はいはい、『ローウェル』じゃなくて『ローレルさん』ね。ほらよ、と俺はにやりと笑った。


「……何のつもり?」

「ローウェルさんは要らない?」

「要らないわ。これっぽちも。」


これっぽちのところを強調させて目だけこちらを見たナマエの手には俺の手が乗ってた。乗ってた、言っても乗っけたの俺だけど。もちろん手を乗っけるだけじゃ満足する俺じゃないので、空いてる指と指の間に自分の指を滑り込ませる。うわ、小っちせぇ、ナマエの手。


「ちょっと…」

「このまんまじゃ陽が暮れちゃいそうなんでな。」


このまま陽が暮れてナマエと飯喰ってハイさよならおやすみー、じゃ狼の腹は膨れねーつうこと。もう片方のナマエの手がスプーンを握ってるのをいいことに俺はナマエの腰に腕を回して抱き寄せる。薬品の匂いは、まぁ…、するがナマエの首筋に鼻を持っていけばナマエの匂いが嗅げる。香りが甘い花みたいな匂い。


「ローウェルー」

「いいだろ、これくらい。ずっと大人しくしてやってたんだから。」


呆れたようなナマエに構わず首筋に顔を埋めるも、ナマエからはうざったそうな空気しかしない。…ま、振りほどかれるよりはマシなのかもしれない。それにしても抱き心地いいな。


「なぁ、キスしていい?」

「お鍋ひっくり返されたい?」

「冗談です。」



オオカミ青年とローリエ


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