オオカミ青年と魔女の噂



左手首に光る金色とピジョンブラッドに俺の顔が映る。その顔はやけに嬉しそうで、まー、本当に嬉しいんだから仕方ないよなと片付ける。暇さえあればバンクルを持ち上げてにやにやしてる俺に何かの病気でもかかったんじゃないかとラピードが見上げてきていたが、それももう飽きたのか、わふ、と溜息を漏らしてる。


「気持ち悪いぐらいに嬉しそうだね、ユーリ。」

「おう、嬉しいぞ。」


今ならどんな暴言も笑って流してやるよ。群れの外れで腰を下してる俺の横にフレンが座る。ナマエからもらったバンクルに付きっきりで今日はまともに相手してやれていない俺に代わり、フレンがラピードを撫でる。


「それ、ナマエ…さんから?」

「ああ、ガットゥーゾのお礼だとよ。」

「お礼って、毒飲ませたのにかい?」

「…あれは事故だ。」


一瞬ナマエを呼び捨てにしようとしたフレンを睨んでから、あれは故意にやったわけじゃないと首を振る。むしろ故意にやるものか。やったとしても後でどんな返り討ちが…違う、そうじゃなくて。


「朝からずっと眺めてて、よほど嬉しいんだね。」

「まーな。」

「そんなキミの意中の人の話、聞いたんだけど。」

「………は…」


いつも群れの仲間に対して優しく細められる空色の瞳が、空気を切るように鋭くなった。それを感じ取ったのか、ラピードも顔を上げた。


「誰かが彼女のこと、探してるらしい。」

「誰だ…?」

「誰か、だよ。けど、その誰かは彼女のこと、魔女って呼んでるみたいだよ。」

「魔女…」

「心当たりは?」

「あるようで無いな。」


十中八九、この間おっさんが言ってた事だろう。おっさんは『例の野郎』って言ってたな…。まだナマエのことを探している…。俺に守れと言った。ナマエに害は100%あるのだろう。ナマエ自身あまり話したそうにしてはいなかった。無理に聞いてやりたいが、あんな顔されちゃ無理に聞けなかった。


「僕もそれとなく調べておくよ。」

「わふ。」

「ああ、悪いな。フレン、ラピード。」


話が終わるとフレンが立ち上がり、ラピードもその後ろにくっ付いて行った。
…魔女、ねぇ…。ナマエを魔女と呼ぶのはナマエを追い出した村ぐらいだろう。俺もふざけて呼んだりはするが、フレンの言ってる魔女と俺が呼ぶ魔女じゃ全然意味が違う。誰かがナマエを探している、例の野郎、ナマエを守る。村から追い出したのに今更探し出して何しようってんだ。


「縄張り、広げとくか。」




オオカミ青年と魔女の噂


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