オオカミ青年とハニーミルク



もう深夜だというのにそこからは明々と灯がともっていて、まさかこんな時間に明日は納品があるからと言っていたナマエが起きてるわけないだろうと思うのだが、窓を塞ぐカーテンからは光が漏れている。消し忘れか?そうだとしたら火事にでもなったらどうすんだよ、なんて表向きはそう言って内心こっそりナマエの寝顔を見てしまおうと思っている。そしてあわよくば…なんて疾しい妄想をしてみるのだけど。


「何で起きてんだよ…。」

「私が起きてたら何か不都合でも?狼さん。」


ドアを開けたら俺の可愛い魔女さんが可愛い寝顔を…なんてこたァなかった。ナマエは膝下のワンピースみたいな夜着を着て机に向って本を読んでいた。片手にはマグカップが握られていて、俺の登場に目だけこちらに向けてナマエは何てこともないようにその中身を啜っていた。匂いからして…ホットミルクだろうか。でもなんかホットミルクにしては変に癖のある匂いがする。また変な薬草でもいれて飲んでんのか?俺はごつごつとブーツを鳴らして、ナマエの向かい側に座る。


「今日は随分夜更かしだな。」

「寝れなくて…ふあ…」

「欠伸出てるケド?」

「だから困ってるのよ。」

「あー…。欠伸が出る程度の眠気はあるけどベッドに寝る程の眠気はないって感じか。」

「そう…、明日は納品なのに。」


そうだ、ナマエは明日納品しに街へ行くのだ。だから俺は夕飯食べたら早々に帰されたんだ。いつもなら夕飯食べて甘いカフェオレ飲みながらそれなりの時間になるまで駄弁って過ごすのに。今日はその納品のためにナマエの甘いカフェオレが飲めなかったんだ。滅べよ納品日!


「それで本読んでたのか?」

「文字読んだら少しは眠くなるかしらと思ったけど駄目ね。薬草の本なんて…実際に誰かへ試したくなっちゃう。」

「なるべく害のないやつにしてくれ。」


本から顔を上げたナマエがあまりにも意地悪そうな顔で笑うものだから若干引き攣った。コイツなら俺で試しかねない。家の屋根修理とか水汲みとか面倒な頼まれごとをされても俺は常にマグログミという魔物をチラつかされているのだ。


「あー、えっと……、今飲んでるの何?変な匂い。」

「あら、ハチミツ入りのホットミルクよ。」

「その匂い、ハチミツか。」

「飲む?」

「ちょっとくれ。」


可能なら今すぐ実験に付き合ってくれと言わんばかりのナマエにわざとらしく話をそらせばナマエが苦笑していた。ちょうど目に入ったマグカップを指させば言われて気が付いたハチミツ独特の匂いが鼻を一杯にした。手渡されたマグカップの湯気を息で軽く飛ばして口付ける。


「…甘い。」

「でしょうね、ハチミツだもの。でも好きでしょ?」

「まぁな。…確かに眠れない時に良さそうだ。」


一口付けてマグカップを返した。口ん中にハチミツの柔らかい甘さが残ってやっぱもう一口と言いたくなる。でも優しい味わいは心なしか気持ちが落ち着く。今日はカフェオレ飲めなかったが、別に良いのが飲めた。


「ところでローウェルはどうしてここに?」

「別に、散歩。」

「若いのに徘徊症があるのね…。薬出す?」

「あのな。」


ナマエのくすくす笑う声が耳にくすぐったい。ま、夜の散歩も正解っちゃー正解だけど、実はナマエの家の周りに俺の匂いつけて他の誰かが来ないようにしてたり、小屋近くをうろつく魔物を倒したりと色々やってんだよ。でもそんなこといちいち口にするモンでもないし。ナマエは俺の獲物だから俺が守るのは当たり前だし、所有物だから、どんな存在でも近付いて欲しくない。こくこくとハニーミルクを飲むナマエを眺めつつ、早く俺のモノになんないかな、と常々思う。そしたらあんな事やこんな事、でもナマエは変なとこで意地を張るからここはこうしてその後の展開は…。


「なんか、ローウェルと話してたら少し眠たくなってきたかも。」

「それは…一応褒め言葉として受け取っておく。」

「そうしておいて。」


マグカップの中を全て飲み終えたナマエはまた浅めの欠伸を一つして席をたった。そのままマグカップを片手に流しへ行き洗おうとするのを俺の手で制す。


「俺が洗っといてやるから、もう寝とけ。」

「いいわよ、カップの一つくらい自分で。」

「明かりも消しとくよ。朝早いんだろ?」


夜着姿可愛いな、なんて思いながらナマエの横に立って頭を撫でた。生意気そうな目がきょとんと丸くなって、眠気を促すように優しく頭を撫でていればその目は優しく細まった。


「ありがとう、ローウェル。」


そして軽く腕を引っ張られ少し前屈みになったところを、いつものキスを頬にもらった。


「おやすみなさい。」

「はいはい、オヤスミ。」


寝室へと向かうナマエの背を追い掛けて一緒にベッドん中入って寝てやろうかとも考えるんだが、どうも俺はこの魔女キッスに弱いな。今日はやけに甘く感じられるそれを食らった頬に手をあてて、ナマエの姿を見送った。

可愛い可愛い俺の魔女さんがよく眠れますように。




オオカミ青年とハニーミルク


[*prev] [next#]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -