オオカミ青年と相棒



「ユーリ!」


フレンの声で、今自分の横を獲物が走り去ったのに気付いた。獲物は作戦通り追い込んだ仲間達により随分と手負い傷を受けていてあと一撃を食らわせていれば間違いなく今日の俺達の食卓に並んでいたであろう。だが、そうか、俺が欠伸をしていた横を逃げたのか、そうかそうか。どうりで皆の視線が痛ェ。ユーリ、とじっとり睨まれる皆に「悪ぃ」と笑って返せば各々嘆息が返ってきた。


「ユーリ、狩りに参加するならそれなりの態度を見せてくれ。」


一番落胆したように溜息を吐くフレンにあーはいはいと相槌を打てば冷やかな目をされた。おーおー、フレン様もそんな目をするんだな。


「久し振りに狩りに参加するっていうからどうしたものかと思ったけど…、狩り真っ最中に欠伸なんて随分と余裕のようだね。」


だから悪いって言ってんだろ、と強く言い返せないのはそれなりの事をした自覚があるからである。狩りは群れの皆が協力して獲物を狩り、群れの皆の腹を膨らます立派な『仕事』だ。それを欠伸一つで…っていうのはフレンの説教の始まり文句だ。くどくどと始まったフレンの有難いお説教を適当に聞き流しつつ適当に相槌を打っていれば大抵俺に説教するだけ無駄だと気付いたフレンが溜息をして説教は終わる。ほら溜息した。今日は短かったな。


「まったく…やれば出来るのにやろうとしないんだから。」

「やる気を出す出さないのは俺の勝手だろ。」

「はぁ…もういい。で、今日はどうしたんだい?」

「何が。」

「珍しく狩りに参加するなんて言って…。どうせ例の子と何かあったんだろう?」

「わかる?」

「バレバレだよ。」

「それがなぁ…。」


聞いてくれよとばかりに大袈裟に肩を竦めてみるが、昨日の事を思い出すとどうもだらしなくにやけてしまう口元を隠すことができない。にやにやと口元を緩める俺にフレンはまるで汚いものを見るような…って最近フレンにひかれてばっかりだ。


「アイツが納品するつもりだったものを俺が全部喰っちまったんだ。」

「最低だね。そんな最低な事をしたのにどうしてそんな最低な顔ができるんだい?」

「流石の俺も最低を連呼されると傷付くぞ。」


いやでもナマエに言われるのならちょっとアリかもしれない。なんて考えてしまうのは昨日のナマエがものすごくあれだったからである。事の始まりはあれだ、俺が納品するはずだったグミを全部食べてしまった事にある。ナマエが外で薬草をちょちょっと摘んでいる間に俺もちょちょっとグミを口に運ばせたのだ。どうもクセになってしまう味と食感に手が進みに進んで空にしてしまった袋にナマエが「ローウェル…!」と声を上げた時にそれが納品するものだったというのを知った。それからのナマエはもう全身の毛という毛を逆立てたみたいに怒ってきてそれを宥めきれなかったけど宥めるのが大変だった。それから、「何て事してくれたのよ!」と肩を怒らすナマエに「また作ればいい話だろ?」と俺が言ったら包丁と一緒に罵声が飛んできた。


「…………。」

「…ユーリ?」

「『ローウェルなんて大っ嫌い』って言われたんだけど。」

「……大嫌いと言われたわりには顔が嬉しそうだね。」


だって、なぁ?大嫌いって、大っ嫌いて…。間に小さい『つ』入れる程大嫌いって。思い出すだけでも顔がにやける。きっと感情が昂り過ぎてあんな子供みたいな言葉を発したんだろうけど駄目だ可愛すぎた。何なんだよ大っ嫌いって。そうか、ナマエは俺のこと大っ嫌いなのか。そうかそうか。
それなりに緩い口元を隠しているつもりなのだがフレンが俺を見る目を見るとどうも隠しきれていない。そりゃそうだ。目まで緩くなってる気がする。フレンが空気で「その緩みきった顔を群れの皆には見せるなよ」と言うので話し込む俺らを遠巻きに見てる群れの皆に背を向ける。


「あれ…ユーリ。」


するとその向こう側から見慣れた姿がテッテッと軽い足取りでやって来た。


「ん…ラピード…?」


しなやかな四体は然る事、藍色と白の毛を身に纏わせるそいつは俺の良き理解者でもあり良き相棒のラピードだ。群れとは別に俺個人が気分で狩りに行く時はコイツを連れることが多い。でも今日は気まぐれで群れの狩りに参加したから連れてきた覚えはないが、ラピードが一人でふらふらしてたのか…?ラピードは真っ直ぐ俺の所に向かい足に体を擦り寄せてきた。そして何かを伝えるように微かに俺の好きな香りを運んできた。


「ラピード、お前…。」


香るその匂いにラピードを見下せば「どうする?」とばかりに見上げてくる隻眼。俺はそれに口端を上げてラピードの前で腰を落とす。


「駄目だ。あれは俺の獲物だからな。これやるから見逃せよ。」


腰に下げてた袋からアップルグミを出してラピードの口に放り投げる。ラピードはそれを上手く口でキャッチし返事代わりに長い尻尾を一振りした。ぴんと立った耳のあたりを撫でながらフレンに向き直り、ゆっくりと立ち上がるとラピードがフレンの元へと行った。


「フレン、俺の代わりにラピードが狩りに出るってよ。」

「出るってよ…って…。ラピードいいのかい?」


わふ、とフレンの横で腰を落としたラピードが答えるとフレンはやれやれと肩を落とした。


「キミよりラピードがいてくれた方が何倍も心強い。早く行くといい。」

「おう、そうさせてもらうわ。」




オオカミ青年と相棒


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