オオカミ青年と毒




――誰に頼るのよって俺がいるじゃねぇか。
ナマエから他人の名前を聞いたことがない。家族も友達も。あるとしたら薬を買ってくれる街の商人くらいだ。それでも名前なんて出された事がない。つまりそれ程親しくしてないってことだ。前にいた村だって追い出されてんだ。知り合いなんて俺しかいない。頼れるやつだって俺しかいないはずだ。それなのに、なんで。


「荒れてるね。」

「荒れてるからな。」


群れに戻っても何をしなくてはいけないという事はなく、そもそも暇を潰しに毎日毎日ナマエの小屋通ってるから今更群れに戻ったってすることもやることもない。一応群れの中にはいるようにするも誰とも会話なんてしたくないから隅の方で座るが、しばらくしてフレンが声を掛けてきた。


「どうかしたのかい?」

「どうかしたんだよ。」


言葉遊びをしているつもりはないが、言われた事が全てそのままだからそのまま返す。フレンはそう、と短く言った後、俺の隣に座った。


「群れの皆がキミの苛々した態度に脅えてるんだ。」

「悪かったな。一応考慮して隅の方にいるだろ。」

「それでも皆怖がってるから来たんだよ。」


ふう、と溜息交じりに言われて返す言葉が無くなる。わかってる。ここにいる奴等が俺を気にしながらビクビクしてるのは。脅えさして悪いとも思ってる。だけど考えても考えてもナマエナマエナマエで腹が立つ。何が「帰って」だよ。


「獲物の子?」

「それ以外何があんだよ。」

「この間ガットゥーゾ狩ってあげたんじゃなかったのかい?」

「昨日の夜二人で喰ったよ。」

「今日喧嘩したのか…。」


喧嘩?一方的に帰れ言われただけだ。喧嘩でもない。あの女、俺が心配してやってんのに何だあの態度。素直に看病されてりゃいいものを…。だいたい何であんなに弱ってたんだ?吐きたそうにしても吐かなかったし。顔も真っ青で。ただの風邪にも見えなかったし。


「そう言えば、ちゃんとガットゥーゾの毒は抜いてあげた?あれは成長しきってる僕らなら問題ないけど子供狼や人間が食らうとキツイからね。たまに大人が毒抜きを忘れて子供狼に食べさせちゃうらしいけど、しばらくは安静にして毒が抜けきるまで吐かせないといけないからすごく辛いんだって。まぁ、ユーリが狩ったのなら心配ないだろうけど。」

「…………」

「ユーリ?」

「…毒…?」

「ああ。」

「ガットゥーゾに?」

「狩りの時に気付かなかったのかい?」

「…………」


何か、底知れぬ罪悪感が俺を襲った。
フレンは俺を呆れたような最低なものを見るかのような目をしていた。その目から逃れるようにして俺はその場から立ち上がり、群れの外へとずんずん歩いた。足先をもちろん。


「ナマエんとこ行ってくる。」

「ナマエっていうんだ。」

「…………」


やはり最後は意味ありげな笑みを浮かべて、フレンはいってらっしゃいと手を振った。


オオカミ青年と毒


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