オオカミ青年と喧嘩



今日もナマエの小屋に遊びに行けば何だか小屋の雰囲気がいつもと違ってドアを開けるのを躊躇った。ナマエが好きな草花が飾ってるのがいつもそこから見える窓がぴっちりとカーテンを閉まって中が見えないようになっている。煙突も、いつもは薬品か菓子か何か作ってるのが匂いと煙でわかるのにそれがない。街に出てるのか?そう考えるも街に出るなんて聞いてない。街に出る時は必ず俺に言えって言ったから黙って出るような事はしないと思う。送り迎えしてやるって言ったし。多分、ナマエの中では良い荷物持ちぐらいしか思ってないけど。


「ナマエ?」


手を掛ければいつも通り開くドア。しかし小屋の中は誰もいない。外套も斜め掛けの鞄もアンティーク調のコートハンガーにかかっているし、出掛けている形跡はない。トイレってわけでもないし、風呂ってわけでもない。まさかまだ寝てんのか?もう昼過ぎだが…。


(ああ、クソ…。)


ナマエが居ないと一日暇なんだよ。ナマエの声聞かないと落ち着かない。ナマエの顔見ないと苛々する。獲物がちょろちょろすんなよ。焦りに似た苛立ちが俺の腹ん底からじわじわと滲んできて、少し荒っぽく寝室のドアを開ける。俺が気を失って目を覚ました部屋だ。ラベンダーが香る部屋。


「…何だよ…。」


――寝てたのか。
ベッド上の膨らみに、張っていた全身の力が抜けていくような気がした。悪いとは思いつつも、いや正直思ってない、寝顔を拝見しようと蹲るようにして寝ているナマエの顔を覗き込めば流石に足音に気が付いたのか、薄っすらと目が開いた。


「おはよーさん。もう昼だけどな。」

「ロー、ウェル…?」


ダルそうに名前を言われたのは寝起きだからだろうか。いや、違う。


「なんか顔色悪いな。具合悪いのか?」

「別に…、」

「別にって顔じゃねぇだろ。真っ青だぞ。」


息もなんかか細いし、誰が見ても体調は良くなさそうだ。嘔吐きたそうに眉を寄せたナマエに毛布の上から体を擦ってやった。


「おいおい無理すんな。洗面器…バケツでもいい、何処にあんだ?」

「…いい。いらない。帰って。」

「帰ってって…」


そんな酷く気持ち悪そうにした病人を放っておけるかよ。こういう時はあれだ、あんま気にすんな。どんな美人でも排泄はする。お前は特に美人でもないから問題ないが女として矜持が許されないっつうならそれも気にするな。吐く時はお前を別モノとして見る、ああ。


「ったく、何してそんなになったんだよ。新薬で失敗でもしたか?」

「うる、さい。帰って、ローウェル。」

「お前な、心配してるヤツにそんな態度はないだろ。」

「帰って…」

「だから、」

「帰って…!」


喋るだけでも吐きそうにしているクセにナマエは熱を計ろうと首筋に当てた俺の手を思いっきり払った。険しく眉を寄せるナマエを見て、俺は、俺の体温が急激に冷えていくのを感じた。それと同時にこの部屋の空気も、重くなる。


「お前さ、前も思ったけど、何で弱ってるクセに誰にも頼んねぇの。」

「…頼る…?誰によ…。」


真っすぐ返された目に、溜息しか出てこない。あっそ、そういうこと。俺はお前の中でそんなもんなんだな。頼る存在でも価値でもないってか。ふーん、そう。


「なら、勝手にしろよ。」


ナマエに背を向けてブーツをゴツゴツ鳴らした。知らね、こんな女。こんな可愛げのない女。


オオカミ青年と喧嘩


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