オオカミ青年とガットゥーゾ
「何これ。」
小屋の前で先程狩ってきたガットゥーゾをどさっと投げるとナマエは大きな溜息を吐いて額に手を当てた。何だよそのやれやれみたいな反応。せっかくお前のために狩ってきてやったというのに…。ま、それでこそナマエ、か。
「ガットゥーゾ。」
「…犬?狼?」
「さぁ、どっちだろうな。」
「…どっちでもいいわ。で、何かしら、これは。」
また溜息を吐いたナマエに俺が少し口をムッとさせても…まぁ、やっぱり効果はない。ナマエは目の前の犬とも狼とも言い難い、自分の二、三倍もの大きさの四肢魔物を足先でつんつんと小突いている。ちゃんと死んでるんでしょうね、と聞かれて当たり前だと返す。ガットゥーゾなんて普通の人間には殺せねぇよ。
「いつもタダ飯もらってばっかじゃ悪いと思ってな。狩ってきた。」
「私は普通に『買ってきた』ものが食べたいわ。」
「文句言うなよ。これだけあれば一週間は肉に困らないだろ。」
「三食肉にしても半月は余るわよ。」
うんざりしたように言う割にはガットゥーゾに興味があるらしい。完全に息絶えているものだとわかるとナマエはガットゥーゾの朱色の耳を引っ張ったり、空色の鬣をさわさわと触れて楽しんでいるようにも見える。これ座布団に良さそうね、なんて言ってるから何だかんだ気に入ってくれているのかもしれない。
「でもこのままじゃ食べれないわ。もちろん、解体してくれるんでしょうね、ローウェル。」
「は?丸ごと焼いてかじり付くに決まってんだろ。」
「狼と人間の食生活を一緒にしないでちょうだい。」
「じゃぁどうすればいいんだよ。」
「部位で分けてくれるかしら。」
「面倒だな…」
「その分美味しく料理してあげるわよ。」
…俺はそんなお前を美味しく料理してやりたいけどな。なんて言っても軽くあしらわれるだけだし、ナマエのために持ってきたわけでもあるし、やってやるか。面倒だと思いながらもナマエににっこり笑われると俺はどうも弱い。なにこれ惚れた弱み?ガットゥーゾを前に腕捲りしてみせるとナマエは「ありがと」と一言残して小屋へと戻っていった。…うまく使われてる気がしなくもないがな。取り合えず、テキトーに部位に分ければいいんだろ?と横たわるガットゥーゾに手を掛けた。
「ローウェル。」
「ん?」
「はい、あーん。」
小屋に戻ったと思ったナマエが何やら嬉しそうに戻ってきて、素直に口を開ければ柔らかいグミが口の中に入ってきた。
「……レモングミ?」
「正解。」
「…一瞬マグロかと思った……。」
「そっちが良かった?」
「冗ー談。」
「ふふ、でもマグログミはまだ試作段階なの。出来上がったら一番に食べさせてあげるわ。」
「それは…光栄だな。」
奥歯の奥が萎むような酸っぱさが口の中に広がった後、それを癒すような甘みが口一杯に広がる。まるでナマエみたいだ。俺の気持ちを弄ぶとまではいかないが適当にあしらったり遊んだりしたと思えば、途端に美味しそうに近寄って来る。遊ばれて…んだろうな…。ホント。
「ガットゥーゾありがとね。すごく嬉しいわ。」
「どういたしまして。」
でも、それでもいいと満足してしまってる自分はとんだ笑い物だ。
オオカミ青年とガットゥーゾ
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