オオカミ青年と紙袋


「買い過ぎだろ…。」

「女の子は色々必要なの。」


何が女の子だ。今まで女の子女の子してたことなんて一度も見たことがないぞ。両手に持たされた紙袋を抱え直して、軽そうな買い物籠を機嫌よく抱えるナマエの背中を睨む。「今日は街に出て薬を売ってくるわ」と言ったナマエの迎えに行けば、森入口ででかい紙袋二つ持った何かがあっちへふらふらこっちへふらふらしているのを発見した。


「薬は高値で売れたのか?」

「この間作ったパナシーアボルトをいい値段で買い取ってくれてね。なにやらどっかの村でビリバリハの花粉を食らった人がいるらしくて、万能薬って言ったら嬉しそうに買ってくれたわ。」

「どこの村だろーなー。」


ビリバリハなんて何処にでも咲いているわけではない。ちゃんとビリバリハが咲いている場所に行かなければ見ることも触ることもできない。つまり、そこに近付かなければ花粉なんて食らうわけもなく。間違いなく何処かの魔女さんがやった時のであろう。自分もその魔女から花粉を食らったが、あれはもう浴びたくない。


「にしても、買い過ぎじゃないのか?いつもこんなに買ってるのか…?」


確かにあの小屋からあそこの街は結構な距離だから買溜めするのが一般的だろうがこの量は何なんだまったく…。一か月くらい小屋に閉じ籠もる気か?


「あら、そんな訳ないじゃない。一か月家に閉じ籠もるわけでもないんだし。」

「じゃぁ何だ。また新薬にでも使うのか?」

「そうね、次はマグロをグミにしてみようかと思ってるの。」

「嘘だろ…」

「色んなグミ作ったら一攫千金できるかしら。グミ、意外と人気なのよね。」


マグログミ、なんて想像しただけでもぞっとする。やめてくれ。しかもそれ味見役また俺だろ。流石にマグログミは嫌だ。マグロのみでくれ。もういっそここでマグロを無かったことにするか。落とすか、落とすぞ。なんか生臭いからこっちの紙袋か、こっちの紙袋だなマグロ。


「ま、一攫千金は冗談として。」

「マグログミの方は冗談じゃないのかよ。」


そっちの方が冗談であって欲しい。でもマグログミを話してる時のナマエの顔を見る限り作る気マンマンだぞコイツ…。機嫌良く振り動く腕と一緒に買い物籠も揺れる。それをナマエは後ろ手に持ち替えて、先を歩く足を止めてこちらを振り向いた。


「最近変な狼さんが住み付いたから、食糧の減りが激しいの。」

「………」


誰かさんがたくさん食べるから大変なのよ?と上目に見上げられて…、上目遣いと言ったら…。きっとそれは甘えたり、おねだりをする時に使う女の立派な手段だ。だけど、こんなに挑発的に男を見上げる女は俺に何を求めているんだろうか。


「……ナマエ、」

「なぁに?」

「キスしていい?」


俺の心臓にジリジリ火を付ける目に、つい欲望という名の本音が零れる。俺の言葉にナマエは二、三度睫毛を上下させ顔を俯かせ、数秒考えるフリした後、にっと笑って顔を上げた。


「ばか。キスしてください、でしょ?」


両手が塞がっている俺に向かって踵を上げて、頬にナマエの唇が触れた。


「狼風情が、私にキスをねだるなんて生意気よ。」


タダ飯食らってるクセに。と残された言葉と頬の柔らかい感触に一瞬何があったのか理解に遅れた。頭に鮮明に焼けついた勝気な笑みにまだ目の前にナマエがいるような気がしたが、ナマエはひょいひょいと草木を抜けて先を歩んでいた。その後姿に取り残された俺はやっと意識を取り戻して急いでその背中を追った。


「待てナマエ!この紙袋今だけどけろ!頼む!」

「いやよ、狼さんに食べられちゃう。」




オオカミ青年と紙袋


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