オオカミ青年とボス
枝も幹もちょうどいい大木の上に寝転がり、空を眺める。ナマエが居ないと暇だ。昨日、「明日は街に出るから家にいないわよ」と言われ仕方なく群れに残り暇しているが、暇だ。一人狩りにでも出掛けて、いいのが獲れたら小屋に持って行ってやろうか、いやでもいつ帰ってくるのか聞くの忘れたな。そんな事を思いながら流れる雲を眺めていると、木の下から声が掛かる。
「最近楽しそうだね、ユーリ。」
よく一人でふらふらしてるから属してんのか属してないのかよくわかんねぇけど、俺ら狼の群れのボスであるフレンが言った。くっそ真面目なヤツだから融通はきかないし頭でっかちだが俺と一緒に育ってるだけあって根は一緒だったりする。だから仲良くもしてるし、仲悪くもしてる。
「何か美味しいものでも見付けたのかい?狩りにも参加しないし。」
「俺が一人でふらふらしてるのは今に始まった事じゃないだろ。」
「もちろん、今更そんな事を取り上げるつもりはないよ。僕は、キミの事を聞いてるんだよ。」
群れの統率に関してはガキの頃よく喧嘩になった。ガキの頃からフレンがボスになるのは皆周知の事だったからフレンは次期ボスであろう、と一人気張っていてその矛先が小さい頃からふらふらしてた俺に向けられるのは当然のことだった。ま、それは昔の話であって、今はフレンも諦めてくれたようだ。
「まー…変なものは喰った、かな。」
「へぇ。」
まるで珍しいものを見たようにフレンは目を丸くし、意味ありげな笑みを浮かべた。
「美味しかった?」
「…いや、美味そうなんだけど、味見もさしてくんねー。」
「手強そうだね。」
「でも、そこがいい。」
「手伝おうか」と無粋な事を言わないのはフレンのいいところだ。なんか歳を重ねるごとに性格がねじ曲がってきている気がしなくもないが、こいつは俺がこの狩りを楽しんでいるをよく理解している。誰の手も借りず、邪魔もさせず、俺が俺だけの方法を使ってそれを狩る。『手伝う』というのが一番の『邪魔』だという事をわかっている。
「キミがそこまで夢中になる獲物に僕も会ってみたいけど、今はまだ声も聞かせてくれなさそうだ。」
「やめとけ、返り討ちにあうぞ。」
体が痺れて30分くらい動けなくなる覚悟と勇気があるのなら。でも、そんな覚悟と勇気があったとしてもそこまでに辿り着かせないがな。あれは俺の獲物。誰の牙も爪も触れさせない。あの挑戦的な目、笑うと意地悪く見えるそれ。照れた顔は一度見るともう一度見たくなってまた悪戯したくなる。
「あー…どうしてくれんだよ。会いたくなった。」
「今日は居ないの?」
「出掛けるんだとさ。」
「迎えに行けばいいじゃないか。」
「………」
一見優しそうに見えるこの男の容姿に騙されてはいけない。群れのボスとして俺の居ないとこでイロイロ学んだのか元々の性格なのかわからんが、ヤツの目の奥に隠れるギラギラしたものは俺と一緒だ。
「良いこと言うな、お前。」
「美味しそうなものは一秒も遠ざけたくないだろ。」
オオカミ青年とボス
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