ミルクティーの淹れ方




ぼんやりと俺を見詰めているナマエの視線が気になり、俺は雑誌(俺の愛読書オレンジページ。安いのにレシピたくさん載っててこれあればおかず困らないよな。)から顔をあげた。


「どーした?」


小首を傾げてみせると、ナマエは俺に声を掛けられて"自分が俺を見詰めていること"に気付いたようにはっと瞬いた。


「あ…、いや、…とくになんでも。」


ごめん、と苦笑するナマエはどう見ても特に何でもないようには見えない。
ナマエはたまにこうなる。ぼんやりと俺をもの欲しそうに見詰める(もちろん性的な意味ではない)。そしてだいたい無自覚。そんなナマエを見るのは初めてではないし、その時のナマエが『何』を求めているのかを俺は知っている。


「ナマエ」

「?」


雑誌を端に置いて、ナマエを手招く。人差し指でちょいちょいとすればナマエはそのままちょいちょいと俺まで近寄ってきて、目の前にきたところを、やんわりと腕を取り抱き締めてやる。


「ゆーり?」

「んー?」


俺にどうしたの?という声を出すが、こういうときのナマエは、『人肌に飢えている』。…言い方が悪いがホントそんな感じ。ナマエは悩み事やストレス、不快に思ったこと全部自分に溜め込む。俺とか親しいやつに(できれば俺がいいんだケド)相談すればいいのに、ナマエ曰く『悩みという悩みはない』らしい。ナマエの中で悩みという不安要素には必ず結論は出ているそうだ。ただ『相談』をするというのであれば、それは『話を聞いて欲しい』時だそうだ。なんとなくわかる。しかしナマエはそれさえも溜め込むことがある。
ナマエのストレスを壺に例える。ナマエのストレスの壺は底が深い。誰よりも深く容量が多い。だから確実にストレスは溜め込んでいるはずなのに、まだ空きがあるからと次々と溜め込んでいく。その栓抜きは誰がするのだろうか。俺でありたい。


「あとでミルクティーいれてやろうか?」

「…んー…ダイジョブ。」

「そーか。」


ナマエを抱き締め、頭をやんわりと撫でてやると、俺の肩に顎を置いたナマエから深い息が吐き出された。鼻から大きく吸い込み、口からゆっくりと吐き出す。ナマエが安心し始めたようだ。その証拠に固くなっていた体からゆっくりと力が抜けていく。うまく全身の力が抜けるよう、頭、肩、腰を大きく撫でてやる。
ナマエは人と身体的接触を持つと(だから性的な意味ではない)安心するそうだ。多分、人に甘えることができないからだ。言葉や態度で人に甘えることができず、だから触れ合うことでそのストレスを緩和しようとしている。そしてそれをダイレクトにほぐせるのがこうして抱き締めてやる事。甘えてくれていいのに。むしろ甘やかしてやりたいのに、ナマエは変に気ぃ使いだ。もっと俺に弱いとこ見せて欲しい。全力で頼って欲しい。
でも見てて危うい、そんなナマエが好きだ。


「ユーリ、」

「んー?」

「やっぱ後でミルティーいれて?」

「甘くする?」

「んー…おまかせ」

「りょーかい。」


ふにゃりとナマエが笑った気がした。
俺からナマエに「何かあった?」なんて聞かない。ナマエがそれを言わないのは、言う必要がないからだ。内心、そこまで踏み込んで聞いてやりたい、ナマエの中の不安要素を全て取り除いてやりたいが、ナマエがそれを望まないのなら俺はあえて踏み込まない。でも、少しは甘えてくれたっていーじゃねーかよって拗ねてるのはここだけの話。いや、今はナマエの体温、香り、存在に全てを捧げよう。俺に預けてくれる、小さな体を抱き締めてやる事が俺にできる唯一のナマエの甘やかし方。



ミルクティーの淹れ方


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