仔猫の躾け方




「ここは人が通るかもしれませんから。」


声は出さないでくださいね。そう言えばナマエ様は頬を薔薇色に染めて小さな両の手で口を、というよりも唇を押さえられた。可愛い。あんなに嫌だ嫌いだと僕に言っていたのに追い詰めるとすぐ大人しくなる。まるで仔猫のようだ。警戒はするものの、臆病。そして好奇心旺盛。


「っ、」


ナマエ様の絹糸のような柔らかい髪を耳にかけて、露わになった耳を舐める。少し冷たい小さな耳は僕がちょっと舐めるだけで赤く色付き、じわじわと熱を帯びる。ナマエ様の指と指の隙間から洩れる吐息が僕をたまらなくさせる。ぞわぞわとも、ぞくぞくとも言えるこの感覚。触れたい、もっと触れたい。閉じ込めたい。僕だけのモノにしたい。


「フレ…、少し苦しい、わ」

「あ、あぁ、申し訳ありません。」


もっと貴女に触れたいと、ナマエ様を壁に縫い付けるようにすると、僕の甲冑がナマエ様の柔らかい体を押し潰していたようだ。柔らかいから、このまま一緒になれるんじゃないかと思ってしまった。薄く笑って、謝罪を込めたキスを額にするとナマエ様は嬉しいクセに不満そうな顔をわざとなさる。そんな頬を綺麗に染めたお顔で顔を逸らしても、意味などない。


「痛かったですか?」

「い、痛かったわ。」

「押し返せば良かったじゃないですか。」

「お、押し返そうとしたわ。でも、貴方がのしかかってくるから。」

「すみません。のしかかりたくなるお体をされているから…」

「ッ!?そんな事言って…!は、恥ずかしくないの…!?」

「ナマエ様、」


今は人の気配を感じない、庭に面した廊下で声を上げたナマエ様の唇に人差し指を乗せる。手甲越しでもわかる、お菓子みたいな唇。しー、と小さく言えばナマエ様はハッと唇を噛んだ。それから俯いて、さらりと髪を肩に落として僕にうなじを魅せた。白い。細くて白い。噛み付きたくなるのを必死で我慢して、両肩に手を置いてその首筋に吸い付いた。「ぁ、」と切なげに漏れた声に今すぐ吸い付いた唇を下へ下へと落としてその中にしゃぶり付きたくなる。


「んっ、な、なに、」


痛くないよう、適度に吸い付いたそこからゆっくりと唇を離せば、そこには僕が咲かせた赤い痕が綺麗に色付いていた。ああ、ちょうど今の貴女の頬の色だ。陽に晒したことなんて無いんじゃないかと思う程白い肌にそれはまるで傷のようだった。僕が付けた、僕だけの。


「ナマエ様は私のだという印をつけてしまいました。」

「は…?」

「でも、百戦錬磨なナマエ様にこれはあまり意味はないのでしょうね。」

「…っ、あ、貴方まさか…!」


ぱちん、と音がするぐらい勢いよくそこを押さえたナマエ様は今にも泣いてしまいそうな程瞳を潤ませて、ああ、まだそんなに頬が赤くなるのですね。本当はこんな事をするのもされるのも初めてなクセにわざと見栄を張る貴女はきっと、今ぱくぱくと口を金魚みたいにさせた後こういうのでしょうね。


「あ、ああ、あ、あ、当たり前でしょ…!あ、貴方みたいな、お、男なんて、私にはたくさん、い、いるんだから!」

「そうでしょうね。」

「だ、だからって気安くこんなの付けないでくれるかしら!?マナー違反じゃなくて!?」


それは一体何を基準にして作られたマナーなのでしょうかナマエ様。そう続けたくなるのだけど、あまりにも必死なナマエ様のお顔につい笑ってしまう。ああ、なんて可愛らしいお方なのだろうか。貴族らしく気高く、自信に充ち溢れ、傲慢。美しい容姿は数多の男を無意識に誑かし、いつも僕を嫉妬の炎で焦がす。貴女がパーティに出席なされる度、僕は何人の男を脳内で殺さなければならないのでしょうか。


「ナマエ様が、あまりにも可愛らしい反応を見せてくださるので、つい。」

「つ、次、私の許可なくつけたら、ゆ、許さなくてよ…!」


尻尾を太くさせた仔猫みたいだ。フーッと毛を逆立て、今にも鋭い爪が僕の頬を引っ掻きにきてしまいそうだ。いや、それもいいな。貴女の事だから、きっと引っ掻いた後に泣きそうな顔をして後悔するのだ。そして僕が声を掛けるたび「あれは貴方が悪いんだから!」と言いながらも引っ掻いた傷を心配してくれるに違いない。それはつまり、傷が治るまで彼女は僕の事しか考えなくなるのだ。それは、なんという充足感。


「はい。その時は思いっきり私を叩いてください。」

「あ、…貴方ってマゾなの…?」










「フレン、どうしたんだよその傷…」

「あぁ、仔猫に引っ掻かれてしまって…。」


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