キスの攻防
ナマエはこう、重ねるだけのキスが好きらしい。だけど俺は残念、深い方のが好き。いわゆるベロチュー。息苦しそうにしてるナマエの顔と声が堪らない。あとナマエを喰ってる感覚に近い感じがして好き。つまりはナマエが可愛くて堪らなくなるしナマエをばくばく食べれる感じになるからいい!出来るのならずっとしていたいくらいだ。
「んっ、ふあ、」
そうそう、あとヤラシー音と離れた時に糸引くの好き。それするとナマエが顔真っ赤にするんだ。それがなぁ、可愛いんだ。いや、色っぽく可愛いんだよ。ナマエはというと俺の舌にその小っさい舌で一生懸命に応えようとしてえくれて、俺って愛されてるとか思う。可愛い。俺の可愛いナマエ。細い腰を抱き寄せてベッドの位置を後ろ目で確認して(一秒もナマエから目を離したくないんだけどこればかりは仕方がない)(もしナマエが怪我したかと思うとベッド爆砕陣で破壊したくなるからな)ベッドに倒れ込む。俺を押し倒すようにベッドに倒れたもんだからナマエがおろおろしてて可愛い。…可愛い。
「あ、あの、ユーリ、重くない?今どくから、」
「待て待て。全然重くないからどくな。」
「でも…」
「この態勢がいーの。」
「そう、なの…?」
「そうなの。」
顔だけ持ち上げてナマエの額にキスをする。首を竦めたナマエは小動物みたいだ。猫、仔猫だ。みーみー鳴いてて可愛い。俺がこの態勢でいいって言ってるにも関わらずナマエは少し居心地悪そうで…、ま、確かにナマエみたいにふわふわ柔らかいのならまだしも俺は固いからな。申し訳なさそうに耳を垂らしている幻覚が俺には見える。くそ、可愛い!
「ナマエ、」
「なぁに?」
「ナマエからキス、ちょーだい。」
「わ、わたし?」
「そ。」
いつも俺からだろ?というとナマエはかああと頬を赤くして「え、」とか「う、」とか何とか言った後、俺が腰に手を回したことで逃げられないと悟ったのか(逃がす気もないがな)小さくこくんと頷いた。
「目、瞑ってね?」
「おう」
「途中で目開けるの無しだよ?」
「お、おう」
「何でどもったの…!」
俺の胸にナマエの手が置かれてナマエの匂いが近くなった。近くなる距離に自然と俺の目は(紳士的に)閉じて柔らかい唇を今か今かと待ち受ける。そして、ちゅ、と微かに触れて口先からじんわりと熱帯びた糖度が全身を巡って脳内を一瞬だけショートさせる。ああ喰いたい、今すぐナマエを喰いたい。性的な意味でも物理的な意味でも。ナマエの小さなキスで確実に俺のエンジンはフル稼働して喰らい付いてやろうかと身を乗り出そうとしたが、ナマエの唇はまだすぐそこにあった。いや、すぐそこっていうか、なんていうか。
「ナマエ、く、くすぐったいんだが…」
「………いやだ…?」
「いや全然ちっともまったくこれっぽちも」
「続けて、いい?」
「…どうぞ。」
ナマエの小っさい舌が俺の唇を舐めている。ほんと、擦れるぐらいの感覚でぺろぺろされて、こりゃガチで仔猫だな、とそのくすぐったいのを受け入れた。
「…なんで舐めてんの?」
「…ユーリの唇、好きだから。」
「なら俺も舐めていい?」
「駄目。ユーリ、すぐディープキスしたがるんだもん。」
そりゃ、だって好きだから。キスもナマエも。
って今すごい嬉しい言葉を聞き流した気がする。
「ナマエ、好きなのか?」
「う?」
「俺の唇。」
「…………………すき。」
はい、録音した。録音と共に録画した。ナマエは俺の唇が大好きで夜も眠れないぐらいで無いと泣いちゃうぐらい大好きだそうです息できなくなるくらいだそうですもう死にたいくらいだそうです。奇遇だな、俺もだ。ナマエとキスできないなんて世界中の魔物殺しても気が紛れない。代わりに甘いもん喰ったってナマエより甘くて美味しいもんなんてあるわけがないからそれも無理。むしろこの世界にナマエが存在しないとかあり得ないわ。世界壊すわ、星喰みがなんだ。
「…ん?舐めるの、もういいのか?」
「うん。ユーリが大人しいから、いっぱいしとこうと思って。」
ぺろぺろしてたナマエは俺がナマエについて世界規模で考えていたのをいいことにちゅ、ちゅ、とナマエが好きなキスをしてた。短くキスしたり、ちょっと長くキスしたり。こんなのでキスした気になれるっていうからすごい。俺ならもっともっと深くキスしないとキスした気にならない。だからいってきますのキスした後にナマエが恥ずかしそうに笑ってる姿とか見るともうたまらなくなる。こんなので足りるかよもっと寄こせ本体全部寄こせってなるが自分を殺して俺はいつも出掛けている。これはあれだ、好きの大きさの違いだ。俺のナマエを愛する気持ちが形状化して仮にこの世界ぐらいの大きさだとする(十分小さいがな)(全然足りないくらい小さいけどな)。そしたらナマエが俺に向ける愛情なんてアップルグミみたいなもんだ。ほんのちょっとだ。一回そんな話をして「私の方がもっともっと大きいもん!」って泣かせたことあるけど(あん時のナマエすっごい可愛かったなー。)あの時はナマエが泣いたから謝ったが内心好きの大きさは勝てる自信がある。むしろ仮にだ、ナマエの好きの大きさが俺より勝っているとする。そしたらもう、俺自分を殺してしまうかもしれない。ナマエからそんな気持ちを受け取ってるヤツ殺す。例え自分だとしても、自分に向けられている感情だとしても殺してしまいたい。ナマエは、俺に愛されてればいいんだ。そう、愛されてばそれでいい。
「っ、んん、」
「もうそれ終わりな。俺の番。」
「は、ユーリが、私にキス、言ったの、に」
「悪いな、もう我慢できねぇ。」
乗せていたナマエの体をゆっくりと横に押し倒して、今度は俺がナマエの上に乗る。柔らかい。ああなんでこんなにふわふわした柔らかい体で生きていけるんだろうな。体重をかけないよう、でも俺の重みも味わって欲しくて、適当な重さをナマエに押し付ける。
「ナマエちょーだい。」
そして俺は、今日も小さな唇を、貪る。
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