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「おはようございます!本日もスピカ駅前店にご来店頂き、誠にありがとうございます。
本日は皆様お待ちかね、新台オープン日です。4円パチンコにCR森物語マックスタイプ10台、CR雪のソナタ10台、またスロットコーナーには前作で大好評頂いた紫ドン2を20台導入致しております。どうぞお遊戯、ご挑戦くださいませ!
また、当店ではお客様が心置きなくご遊戯できるよう、耳栓やマスク、各種アメニティも数多く取り揃えております。
本日、コンシェルジュにはわたくし、ミョウジがついております。何かご不明な点、お困りの際はお気軽に、お近くのスタッフ、またはミョウジまでお申し付けくださいませ。
それでは、スピカ駅前店、本日も元気いっぱい営業させて頂きます!オープンまで、今しばらくお待ちくださいませ!」


1、2、3。とお辞儀した顔をあげてにっこりと微笑む。一連の動作はもう染み付いている。オープン前のお客様挨拶を終わらせたあと、インカムで合図を送りすぐにオープンさせると、扉を開くと同時にお客様がお目当ての台へと小走りに向かう。今日の朝稼働は目標値からすればまぁまぁなスタートだろう。いったん事務所に戻り、配布物がないか確認するとシフトボードに先月の接客調査の結果が貼り出されていた。


「ナマエさん!」


配布物ボックスを手で探りながらそれを見ていると、後ろからナツキに声をかけられた。仕事用に髪をワックスで後ろに撫で付け、制服のシャツ、ベスト、スラックスをきっちりと着こなした背の高い私の可愛い後輩。犬のようにハッハッと短く息するような晴々とした笑顔で私の横に並ぶ。


「ナマエさん先月の接客調査全店一位じゃないっすか!さすがっすね!」

「まぁね、ナツキは?」

「俺8位!」

「その先月は?」

「10位!まぁまぁっしょ。」

「まぁまぁだね。点数は?」

「86点!次も85以上取れたらゴールドバッチもらえるんすよね?」

「次も取れたらね。」


俺、取るし。
にししっとナツキが笑った。
その笑顔を見て、ああ平和だなぁ、と思った。いや、今の今まで十分平和ですよ。とてつもないイレギュラーが昨日から居座り始めたけれど。ナツキを見ているとそんなこと無かったんじゃないかと思えるほど日常を思い出させてくれる。


「それにしてもナマエさんはさすがですね、98.9点とかほぼ満点じゃん。」

「一番お客様と接するコンシェルジュだからね。点数稼ぎやすいよ。」

「でも先々月はカウンター入って二位でしょ?やっぱすごいよ。」

「ありがと。」


まるで自分のことのように嬉しそうに言われると、見慣れた上位点数が誇らしくなる。ナツキはいいヤツだ。


「で、アンタ何してんの?サボり?」

「え!違いますよ!手配りチラシ裁断してくれって言われたから事務所きたのに。」

「あ、ナツキが作るのね。じゃぁ、それ切り終わったらカウンターに置いといて。カウンターとコンシェで配っちゃうから。20分あればできるよね。」

「はーい。かしこまりました。」

「じゃ、よろしくー。」


仕事ができる後輩を持つと仕事やりやすいね。
20分といったけど、多分ナツキなら15分後にはホールに戻ってる計算で間違いないでしょう。それまでに会員カードとワンデイの準備でもしてよう。
と思ったけど、そうだ、その前に!


「あ!ナツキ!」

「はい?」

「アンタこの前、衣替えしたって言ってたよね?」

「うん、したよ。」

「いらない服ない?ナツキ、身長179だよね?」

「あるはあるし、そうだけど…。何ですか?」


何に使うんですか…、と訝しげに私をみるナツキに、実はお家に身元不明な男が住み始めました、なんて言えるわけもなく、私はナツキから目をそらしまくりながら、あーえっと、と答えた。


「いとこがさ、身一つで家出してきちゃって。」

「なにそれ。」

「だから、着替えとかなくて。いらないのくれたら助かるなーって。」

「え…ナマエさんそれ、男だよね?」

「ん?まぁ…」

「ええーっ!はぁー!?聞いてないし!」

「言ってないし!てか昨日急に来たし!」

「なにそれウザいじゃん!」

「ウザいとか言わないでよ!本人も困ってるんだから!」

「はぁ〜〜〜!?」


ナツキのまるで地球一回転させるような「はぁー?」(語尾が上がって下がってまた上がった)に思わず後ずさる。おおう、いつも大型犬みたいなフレンドリー顔してるのにそんな顔しないでおくれよう。怖いよう。


「家出って…、そいつが出てきたんすよね?身一つで。だったらナマエさんそいつにあれこれする必要なくないっすか?てか家出するなら自分一人で全部やるような気合いで出てくるもんっしょ。何身内に頼ってんすかそいつ。だいたいナマエさんが独り暮らしってわかっててきたんすよね?そして俺とタッパ変わんないってそれもうオトナっすよね?泊めたの?オトナ、男を、いとこを。」

「あうあぁ…そ、そんなんじゃないって…。まじ、いとこっす…。」


確か下に二人の妹がいるナツキは面倒見がいい。そしてお兄ちゃん気質。人生なんとなくで生きてる私よりしっかりしているところがある。


「だから今日帰りナツキの家寄っていい?」

「えぇー…」

「頼むよー!こんなの頼めるのナツキしか居ないんだってー!」

「ちょ…っ!ずるっ!そんな言い方されたら聞いてあげるしかないじゃん!」

「さすがナツキちゃん!ありがとう!!大好き!」


まじ無いんすけど…。とがっくり肩を落としたナツキに、今度ジュースおごってあげると肩を叩ければ、不服そうな目でじっとりと睨まれた。
ナツキは本当にいいヤツだ。


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