必殺聖職者
「っ!?」
気付いた時にはもう鞘から剣を抜く間もなく、ユーリは目の前のぎらぎらと光る刃を必死に食い止めた。少しでも力を抜けば確実にその刃は振り下ろされ、ユーリの首と胴体を二つに切り離すだろう。刃も、その刃を振り下ろした主の眼光も恐ろしいほど鋭利だ。現にユーリの鞘に彼の剣が少し食い込んでいる。
「…聖職者が闇討ちとか、していいワケ…ッ?」
「別に。俺は聖職者でも救済者でもない…。」
その圧倒的な力強さにユーリの足が砂を削る。もともと急に仕掛けられた攻撃だ。守る体勢など作れる暇が無かったため、この体勢は少し苦しいという前に不利だ。いつ斬り殺されてもおかしない。しかしそう簡単にやられる程ユーリも弱くない。辛くもその攻撃が防がれている事に、ユーリの瞳より深い宵闇の瞳が細められる。
「…これ以上、アイツに近付いたら殺す…」
「アイツって…何、ナマエのこと?」
力の圧し合いに震える剣と鞘に互いの腕も細かく震える。今にもユーリを殺しにかかりそうな(いや、既にかかれているが)神田の殺気と切っ先にユーリの喉仏が上下した。
「どう、した?ナマエが寝言で俺の名前でも呼んでくれた?」
「それ以上喋るな殺す」
図星、だろうか。更に増した殺気に頬が切れそうだった。しかしその神田の反応とユーリの予想に思わず頬が緩む。以前までユーリ達の前では決して寝ようとしなかったナマエに彼女の寝床である神田の登場はユーリにとって邪魔で仕方が無かったが、そうか、まさか彼女の夢に自分が、それも寝言で呟いてくれたとは。それが間近で聞けなかったのは残念だが、今はその事実だけで嬉しい。
「心配なら…っ、首輪でも付けて、部屋から出れないよう監禁でもしてろよ」
「黙れ」
「俺ならそうする、ぜっ…」
「ペラペラと…、五月蝿い奴だ…っ!!」
「っと、」
ふと、神田の姿勢が低くなり剣の圧力が弱くなった。マズイ、とユーリは神田に蹴り飛ばされる前にバックステップを二回踏んで避けた。一陣の風を吹かす様に空を切った神田の蹴りに、流石にあれは喰らいたくないとユーリは鞘を飛ばし剣を構えるが、神田は足をロングコートに仕舞うと共に剣を収めた。
「……なんだ、やらないのか?」
「部屋に戻る」
「…………」
くるり、と踵を返した神田に、何しに来たんだよコイツは。とユーリは目を細めて少し警戒しながらも飛ばした鞘を拾いに行く。鞘を拾って収めれば神田は宿のドアを閉めた後で、消えた黒い影にユーリは大きな溜め息を吐いた。
「馬鹿だろ、あいつ」
首筋にキスマークつけた男が何妬いてんだよ(あぁ腹立つ)
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