張り裂ける口


神田がフォークにぶっさしたのはあの小さな口では入りきらないであろう肉が刺さり、それを前にナマエはひくりと顔を引き攣らせていた。神田が肉を、ナマエの口に入れようとしている。それはつまり恋人同士が「はいあーん」をしている図なのだが、何だろう、この緊張感は。きっと神田の仏頂面、そしてナマエの恐怖に近い表情がそれを出しているのだろう。きっと(いや絶対)ふざけてでも「はいあーん」なんてやろうとしない二人に思わずユーリ達の目がそちらに向く。
ごくり、とナマエの喉が鳴り、神田のフォークと目が光る。


「喰え。」

「じ、自分で食べるよ…」

「うるせえ喰え。」


今のナマエにきっと拒否権なんてないのだろう。小さく首を振ったナマエに神田の手が伸び、がしっと顎を容赦なく掴んだ。


「また体重落としやがって。死にてぇのか。」

「い、いや…どっちかと言うと私今死んでしまいそ…ゔっ…!」


顎を掴んだ指がぐっとナマエに食い込み、ナマエの口がぐぐぐと開かれる。その行動に迷いなどない。むしろ手慣れた感がたっぷりだ。無理矢理開かれていく小さな口に突っ込むように神田がフォークを構え直したのを見てユーリは慌てて立ち上がった。


「待て神田…!落ち着け!その大きさじゃナマエの口に入らない!」

「ユーリそこじゃないです!まずはナマエを解放してもらいましょう!」

「解放…?」


解放、というエステルの言葉に神田は不快そうに目を細めた。そして苦しそうにアヒル口をしているナマエを一瞥した後、分厚い肉が刺さったフォークをエステルに向けた。


「エステル…!」


それを見たリタが立ち上がりかけているエステルの肩を掴んだが、エステルはそれを目で制した。緊迫した空気をエステルは呑み込み、ここは任せて欲しい、とリタに頷いた。


「解放…です。無理矢理ご飯を飲み込ませるなんて、苦しいですし、何より、美味しく…ありません。」

「黙れ。それ以上言ったら殺す。」

「黙りませんっ…!せめてそのお肉を一口サイズに切っていただくまで私はっ…」

「エステル…!」


エステルの言葉に神田の空気が凍り付いたのがわかってユーリはエステルの肩を掴み座らせる。案の定、エステルがそのまま座った瞬間に神田のナイフがユーリの頬を掠め赤い線を真っ直ぐに引いた。がつん、とすぐ後ろの壁にナイフが刺さった。


「ッ、」

「ユーリ!」

「無理矢理…だと?…ふざけんのも大概にしろ。」


神田がナマエの顎に力を込め、フォークを構え直した。氷柱のような神田の気が、痛くて苦しい。


「コイツは元々痩せすぎてんだよ。おまけに放って置くと食事もまともに取りやしねぇ。無理にでも喰わせずまた体重を落とさせたのは、テメェらだ。」

「…っ、さっきからテメーは…!!」


ナマエの小さなに口にフォークの肉が捩じ込まれようとした瞬間、ユーリの頭が沸騰したかのように熱くなった。気が付いた時にはユーリはナイフを捩じ込まれそうな肉に向けて斬りかかろうとしていた。瞬間、エステルに「ユーリ!せめて一口サイズに…!」と言われたのが聞こえた。神田のフォークの肉が、ナマエの唇に触れようとして、全身がゾッとした。


しかし、


ぎぃんっ、と鈍い鉄の音と一緒にユーリのナイフは神田の一太刀に弾き飛ばされた。ナマエの所にあったナイフを神田が握っていた。ざくっ、と今度は机にナイフが刺さり、それにエステルが悲痛な声を上げた。


「…どうして…!どうしてそこまでしてナマエにお肉を…!」

「…聞いてどうする。」

「他にやり方があるはずです。…せめて、食べやすい形に切ってあげるとか…」

「…………。」


エステルの面持ちに神田は眉を寄せた。そして少しの間、考えるようにナマエから目を外した。

そして神田は肉を下げ、皿に戻した。ああやっと一口サイズに、誰もがそう思ったが、肉は切られず皿の上で二つに折り畳まれた。


「折り畳めばいけるだろ。」








悲鳴が上がった。


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