キャンパスラブ
二人だけの密室に私と神田くんの荒い息遣いだけが聞こえる。もう何度イカされたかわからない私の体はびくんびくんと跳ねて、神田くんはそんな私の体を覆いかぶさるようにして抱き締めた。ちゅ、ちゅ、とキスが目尻に、頬に、口の端に、私の体を宥めるように降ってきて心地いい。ふわふわとした視界の中、ふと目が合うと、ゆっくり目を細めた神田くんが呼吸をするように唇を重ねてくる。足もお腹も胸も唇も、ぴったり隙間なく重なると溶けてしまいそうになる。(め、目、細めた神田くん、か、かっこいい…)
「はぁ…、あっ…つい…ね、」
優しく髪を撫でられると、いっぱい汗をかいているのがわかる。私だけじゃなくて、神田くんも。肩に手を滑らせると、汗と、大丈夫かと不安になるくらい熱くなってる神田くんの体に、いつも小さくびっくりする。神田くんも「…あぁ」と返事をして微笑んでくれた。(ああ、な、なんて綺麗な顔をしているんだこの人は…っ!)神田くんは達した私の体をいたわるようにキスをしたり、髪を撫でたり、耳を擽ったりとしてきて、もう私は溶かされるんじゃないかと思うくらいだ。でも恐ろしいことに私は何度も気をやっているのにも関わらず、相手のこの人はまだ一度も達していない。い、一体いつイッてくれるのだろうか。しかしまだまだ余裕そうな彼に自分は最後まで意識を保っていられるか不安になる。
「か、神田くん…、」
「…ん?」
「す、少し、休憩、しませんか…。」
もう何時間こうしているだろうか。というか、神田くんいつもこれでもかってくらい前戯長くて、い、いれるまで時間かかるんだけど、今日は本当長くて、私はわりともう体力の限界を感じてしまっている。けど、か、神田くんの方はまだだし。あむあむと私の耳朶を噛んでいた神田くんがそっと顔をあげて、「ちょっと疲れたなー」って顔で私が笑えば、神田くんはまた構わず私の耳に顔を埋めた。
「やだ。」
「や、やだって……っひゃぁんっ、」
耳朶に小さく歯を立てられ、ゆっくりと腰が動かされた。ずるずると抜くのかと思えば、ぐんっと奥に攻め込まれ、思わず喉がのけぞる。し、しかも恥ずかしいくらい高い声が出た。再度ゆるゆると抽挿が始まって、まだ達してすぐの私はまた神田くんの熱に蕩けさせられる。
「か、神田くっ、ぁっ、おねがぁっ、…ま、まだ、だめぇ…っ」
「やだ。誰かさんが、チョコ、焦らすから。」
チョコって…。と神田くんを見上げれば、意地悪そうに薄く笑っている顔がそこにあった。
「ちゃ、ちゃんと、あっ、用意、してた…んんっ、」
「でも、最初渡そうとしてなかった。」
「や、ぁんんっ」
神田くんの指が繋がっているそこより少し上にある突起を指の腹で撫でる。
神田くんが言ってるのは、今日のバレンタインの出来事だ。恋人同士のイベントにあまり強い興味を示さない私達だけども、それが無いわけではない。私はバレンタインということで、神田くんへ前欲しそうに見てた財布を買って用意していた。もちろん、チョコも用意していた。(本当は購入しようと思っていたのだけど)リナちゃんに言われて、本っ当恥ずかしいくらい下手っぴなトリュフを。
「俺が気付かなかったら、渡してくれなかったんだろ?」
「あっ…、だ、だってぇ…!」
けど、いざバレンタインになって神田くんのお家に遊びに行けば、次の新作デザートの味見をしてくれとそれはそれは見目麗しいクリームブリュレとティラミスとフォンダンショコラを試食させられ、すっかり渡せなくなってしまったのだ。おまけにものすっごく美味しかったし。中にベリー系のフルーツ入ってるんだよ!?すごくない!?美味しいし!!『試食』する意味あるわけ!?美味しいにきまってるじゃん神田くんが作ったのなら!(だいたい甘いもの好きじゃないとか言いつつ作るの上手ってズルくない!?)
「だって?」
「か、神田くんの、ぁっ、あれ、出されたらっ、私のっ、なんて、あっ、んっ」
「なんで。」
なんではこっちの台詞だ。ここまで言ってどうしてわかってくれないのか。顔の横に置かれた腕に少し爪をたててやろうと思ったけれど、揺さぶられる体に、まるで縋りつくような感じになってしまっている。
「は、恥ずかしいよ…っ、わたしの、手作り、なんて…!」
あんな可愛くて綺麗なドルチェを出されて試食してくれなんて言われたら、私のやっと形になったようなトリュフなんて不細工な石ころだ。神田くんの前に出すのも恥ずかしいし、食べられるのなんて絶対無理だ。…結局、財布を渡す時に誤ってそれも袋から出ちゃって神田くんに見付かったのだけど。
神田くんの腕で顔を隠すように埋めると、その腕が私の頭裏を持ち上げて、体がぐんと上向きにさせられる。
「…ぁっ…、」
神田くんの足に乗って向かい合うような体勢を取らされると、目の前の神田くんは「かわいい、」と一言つぶやいてキスをしてきた。か、可愛くないから!ていうかその流れでどうしてかわいいなるのかわからない!と思いながらも私はゆるく揺さぶられながら神田くんのキスを受けていた。
「甘いの、苦手な、くせに…。」
「それとこれは別だろ。」
嫌いなものに別なものなどあるのだろうか。そう言って神田くんはベッド近くにあるガラステーブルから、私のチョコを取って、あろうことか私の目の前で開封しだした。リボンの結び方がいまいちだとあれこれ苦戦しながら結んだリボンを一瞬で取り去り、ネイビーとグリーンどっちがいいかな、と悩んだ包装紙に手を突っ込み、私が作った石ころもといトリュフを一粒つまみ上げた。
「や、ヤメテッ!」
せめて私が居ない時に食べてよぉ!
と顔を両手で隠すも、指と指の隙間から、ぱくりとそれを口の中に放り込んだ神田くんを見た。もぐもぐと咀嚼する神田くんを引き続き指と指の間から様子を窺うと、神田くんはそんな私にふっと笑い掛けてくれた。
「美味い。」
「…………ほんと…?」
「ほんと。」
「本当の本当?」
「ほんと。」
ほら、と指についたココアパウダーを舐めるよう口元に持ってかれて、一応、舐め取ってあげるけど、でもこれココアパウダーだし。ほろにがい。
神田くんの指を綺麗に舐め取ると、今度は私の口についたパウダーを取るように神田くんが口付けてきた。とろけるトリュフを食べるような、甘い啄むキスだ。
「食べるのが勿体ないな。」
「いや、開封後はお早目に召し上がってクダサイ…。」
チョコだから、溶けちゃうよ。と言えば、神田くんは「少し溶けた方が美味い」と私をベッドに寝かせた。甘いの苦手な人にチョコの食べ方なんて言われたくないと顔をそらせば、「誰がチョコの話をしたんだよ」と甘い声で囁かれた。