猫の視線

研磨は、事の最中よく私を見詰めている。
猫みたいな縦長の瞳をいつもよりずっとぐっと熱っぽくさせて、鋭く、でも時折切なく甘えるような目で。
研磨は普段、目を合わせたくても、視線が重なるよりも早くそらされる。それが研磨だと言ったらそこで話は終わってしまうし、そういうところに惹かれた自分も僅かにあって、諦めと呆れの溜め息を心のなかでもう何十回も吐いていたのだけど、どうしてか研磨はこの時だけ視線を外さない。ただでさえ自分の乱れっぷりをさらけ出して恥ずかしいのに、視線が欲しい時に全然くれない研磨がここぞとばかりに見詰めてくるので今度は私が必死に研磨の目から逃れている。


(あ…また……)


研磨に組み敷かれ、いつもの希薄な存在感なんて全て嘘だったのではないかと思うほど求められるこの時、研磨は私を穴があくほど見詰める。その目から逃れるように両腕を顔の前で交差すると、毎度荒っぽく片腕を掴まれてシーツに縫い付けられる。


「駄目、隠さないで…。」


私に対して滅多に聞くことのない強めの言葉。研磨は私に対して駄目とかしないでとか言わないのに、どうしてかこの時だけ。場違いなほど私の脳裏に男は狼なのよ気を付けなさいのフレーズが流れるけれど、研磨に狼は似合わない。かといって猫科の別の動物を探すけれどそれも違う気がする。腕を取られ絡まる視線に顔をそらす。火照った顔を見られたくない。けれどそれすらも咎めるように研磨が腰を深く私に打ち込む。溢れる声に指の背を口許に当てると、研磨の目が刺さるほど鋭くなった気がした。


「可愛い。もっと見せて。」


見せて、なんていつもは目も合わせてくれないくせに。そう避難めいた顔をするも、研磨は熱っぽくうっとり息を吐き出すだけ。ずるい、研磨の息遣いがすぐそこで聞こえるなんて私をぞくりとさせる要因でしかない。弱々しく研磨を見上げると、研磨は腰の動きを緩める。ゆるゆるとした動きにまた違った波が私をさらう。


「ペース、早い?…大丈夫…?」


ふと、いつもの研磨も織り交ぜるのも憎い。けれど私に覆い被さる研磨から男を感じざるを得ない。決して研磨が女の子にみえるとかそう言いたいわけじゃなくて、この時の研磨はいったい誰なのだと思うほど違う一面を見せられて困惑してしまうのだ。汗粒を含んだ、伸びきった髪を耳にかけるしぐさはバレーをしてる時とはまた違う。無意識に研磨へ指先を伸ばして、額に張り付いている細い髪を横へ流そうとすれば、その指先をとられていとおしげに口付けられる。


「気持ちいいの?…もっとしていいってこと?」


縦長の瞳が柔らかく細まる。研磨、と名前を呼べば足を開かれてまた深く研磨が身を沈めて唇を重ねてきた。
私はいったい誰に抱かれているのか。それは研磨なのは間違いないのだけれども、いつもの研磨とは違いすぎて別人ではないかと不安になる。けれど私に触れる手から髪の毛の先まで研磨は研磨だった。はじめて体を重ねた時のたどたどしい研磨はもうどこにもいない。重ねるたび、研磨の男の人という色が濃く香るようになった。香るたびに、嗅ぐたび、私は心地よい息苦しさを覚える。研磨の背に手を伸ばして、上目に研磨を見詰める。あんなに目を合わせたくて仕方なかったのに、いざ合うとこんなにもぎこちなくなってしまう。


「可愛い…。」


これが終わると、また研磨は私から目をそらしてしまうのだろう。私が研磨の気を引きたくてどんなに可愛い格好をしても研磨は気にしてくれない。髪型を変えても研磨は目をそらす。
それなのに、何も見につけず、髪も振り乱した私のことはじっくりと見詰めてくる。恥ずかしくてたまらない。私が目をそらしたいこの時にだけ、研磨は一滴も溢さないとばかりに私を見詰める。


視線




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