氷室

俺は、皆が思っているよりも黒くて暗くてどろどろしたもので出来ている。
周りは、俺を綺麗だ美人だと口ぐちに言う。自分が普通の人よりも整った容姿で生まれ育っている自覚は少しだけあるけれど、でも俺は皆が言うように綺麗でも美人でも何でもない。俺は、心がとても汚い、醜い。憧れ、羨望、嫉妬、渇望、嫉妬、嫉妬、嫉妬。欲しいものが手に入らなくて、でも俺の隣にいる奴等は俺がどんなに欲しても手に入らないそれを簡単に手に入れてしまう。気が狂いそうになる。だってそいつ等は確かに俺と同じ場所に立っていたのに、あっという間に俺を引き離してその差を見せつける。何でもないかのように。苦しかった、辛かった、縋れるものが無くて、それが欲しくて必死に水面に上がろうとするのに、奴らが俺の頭を押さえこんで苦しんでいるのを笑っているんだ。殺してやりたい。同じ場所に立たせてやりたい。そして俺がそこに取って代わって、立ちたい。
―ほら、俺の心はこんなにも醜い。汚い。
俺は多分、黒く濁った油みたいなものなんだと思う。
一度火気に触れると、自分でも抑えがきかないくらい手がつけられないところとか。

でも、そんな俺の前に彼女は現れた。
彼女は、名前はそんな俺の心を綺麗だ、とても澄んでいると言ってくれた。そんなはずはない。幼い頃から一緒にいた弟分にも、同じチームメイトにも、こんな感情をぶち当てては困らせているのに。
それでも名前は、それでいいのだと俺を包んでくれた。それ以上言わずに、ただただそのままの俺を抱き締めてくれた。認めてくれた。汚くていいのだと。醜くていいのだと。それの何が悪い。醜くない人間の方が時には醜いものだ、全て綺麗にできあがっているものよりも、私は少し不細工なものの方が愛着がわく。名前は俺にそう言ってくれた。
名前は空気のような女の子だった。悪い意味じゃない。俺にとって、名前は空気なんだ。無くては俺が生きていけない。名前と出会う前までは自分はどうやって呼吸をしていたのか思い出せないくらい、名前は俺にとって大事な女の子だ。
名前の隣は気持ちがいい。空気が澄んでいる。夏のよく晴れた真っ青な空を思い出させる笑顔に俺は何度救われただろう。時にその笑顔が眩しすぎて卑屈な俺は嫌になるけれど、でも名前はそんな俺さえも抱き締めてくれる。大丈夫、私はそんな氷室くんが好き。そんな氷室くんも好き。せっかく俺からキミと離れようとしたのに、名前の方から俺を欲してくれた。
あの時から俺はもう彼女を手放さないと決めた。もうどんな事があろうと、彼女がどんなに嫌がろうとも、絶対、絶対ぜったい、名前が死んで1ミリも動かなくなるまで放してやらないと決めた。いや、動かなくなっても俺は名前を手放さない。ずっと一緒に居る。ずっと二人で一緒に居て、ずっと二人のままでいるのだ。心も体も全部一つ。


「……んっ、ぁ」

「名前のここ、柔らかくなってきた。」

「やぁ…!」


俺の名前はどこもかしこも澄んでいて眩しくて、綺麗だ。醜い俺なんかが触っていいのかと我にかえるくらい。でも俺は彼女に触れざるをえない。だって愛しているから。もう彼女なしでは生きていけないから。どんなに汚い俺の手で触れて彼女が汚れようが、俺は彼女に触っていたい。一つでありたい、溶け合いたい。もちろん、最初は躊躇した。俺なんかが名前に触れたら、彼女はきっと穢れてしまう。俺の醜さで濁ってしまうかもしれない。そう思っていた。


「わかる?名前のここ、すごく気持ち良さそう。」

「い、言わない、でぇ…!んんっ」


でも彼女は今でもずっと澄んだまま。俺がどんなに醜い心で彼女を独占しようが何をしようが、彼女は汚れることを知らない。汚してみたい、いやだ汚したくない、でも汚してみたい。ああ今日も俺の心はひどく歪んでいる。でも、彼女はそんな俺でもいいのだと言ってくれる。優しい、愛しているよ、名前。どんな俺も受け止めてね。黒く濁ったどろどろした俺の油をキミにそそいであげる。俺色に染まればいいよ。名前も俺と同じ色になればいいのに。と思いつつも、名前は名前のままで、穢れのない名前のままで。と思う自分が葛藤する。


「名前、いれてもいいかな。」

「んっ、や、…ま、待って……」

「嫌だ、待てない。」


彼女が好きだ。好きで好きで、気が狂う。バスケ以外の事でここまで気が昂るのは初めてで、その捌け口が名前しか居ないから、もうどうしようもない。彼女を愛することがたまに辛い。綺麗で、澄んでいて、眩しくて、傍にいるのが辛い。でも俺以外の存在が彼女の傍にいるのはたえられない。嫌だ、殺してしまいそうになる。彼女も、俺以外の存在も。


「…あぁっ……、ひ、ひむろ、く」

「…っ……、すごく、気持ちいいよ、名前」

「や、な、何で、そんなこと、言う、の…っ」

「だって、事実だから。」


ひくひくとうねる名前の中がとても気持ちいい。散々苛めて涙目になっている名前も、汗ばんだ線の丸い体も、俺の名前を呼ぶ甘い声も、全部全部俺の。誰にも渡したくないし渡さない。触れもしないし、見せもしない。できる事なら本当は、名前が呼吸している空気も誰にも共有させたくない。全部俺の。
セックスしている時が一番安心する。だってそこには俺と名前の世界しかないから。他の心配をしなくていい。俺と名前以外誰も居ない。ドアも窓も全部閉めて、俺と名前だけの世界を作る。本当はシーツも被って名前が吐いた呼吸で俺も息をしたい。けれどそれをやろうとして以前名前が酸欠をおこしたから、これだけは譲ってあげた。でも本来はそうしていたい。名前が与えてくれる全てで俺は生きていたい。


「名前、名前名前、」

「あ…っ、や、やぁぁっ」


名前も、俺と同じように俺でいっぱいになって。俺の事以外考えないで。俺だけを見ていて。俺の事しか頭に入れちゃ、駄目。そう俺は名前を穿つ。もっと、もっと、名前の奥に入れば入る程、物理的にも精神的にも肉体的にも名前は俺の事しか考えなくなるだろう?堕ちて、もっと、俺のところまで。俺という油にまみれて、汚くなって、そして俺がどんなに汚いものか思い知ってくれ。
がんがんと掘るように腰を振れば、名前は膣も目をぎゅっと瞑って俺の体も心も締め付ける。気持いいいのかい?俺がここにあって、傍にいて気持ちいいんだね。今、俺の事しか考えていないんだよね、名前。気持ちいい。今、この瞬間が果てる以上に気持ちがいい。名前が俺の事を考えている。気持ちいいって、もっとって、俺がもっと欲しいって。あげる。全部あげる。俺を全部あげるから、名前も俺に全部ちょうだい。心も体も全部ちょうだい。


「ひむろ、くん…っ、ん、き、キス、」

「うん、それくらい、いくらでもあげる。」


―窒息するまで、俺をあげる。
俺は、皆が思っているよりも黒くて暗くてどろどろしたもので出来ている。
でも、俺の名前はそんな俺を好きだと言ってくれたから、俺はそんな俺を名前に注いでやるんだ。黒く濁った油みたいな醜くて汚い俺を。(骨の髄まで)





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