ユーリ
ちょっとユーリが痛いかも。(あ…いつもの事だった!)
***
長い。
名前の溜息が。
でもそれはきっと名前自身無自覚なもので、ああまた色んなもん背負い込んじゃってるなってすぐわかった。名前はあまり世渡り上手な方ではない。人が良いから、なんでも「大丈夫です」「わかりました」「なんとかします」って答えてしまう。できないものはできないって言えばいいのに、甘えればいいのに、でも彼女はできないって言えない子だし、甘えることもできない子。可哀想なやつ。でも、そこが愛しいよ、名前。
「名前」
名前を呼んで、なんでも詰め込んでしまう名前を唯一解き放たせるものを片手に、ソファに腰掛ける名前の前で膝を折る。顔が白い。先週から体調が悪そうにしてたの引き摺ってるんだろ。だって今週残業どころか終電帰りだもんな。
「名前、はい。」
「ゆー、り………」
名前の手に、名前が俺に甘えてくれるきっかけをくれるものを握らせる。それに名前は怯えた目を見せて、子供が嫌がるように首を振った。
「なんで、捨てた、のに……」
「ごめんな。こっそり回収した。」
これを一度捨てようとした名前。もうこれが無くても踏ん張ってみせるから、と名前は言っていたけど、まず踏ん張るって言ってることがおかしくね?我慢しなくていいよ。せめて俺の前では、我慢なんかすんなよ。
「やだ、捨てて……、いらない、それ」
「いーや。今の名前にはこれが必要だろ?」
いらない、いらない、と弱々しくいう名前に、それを握らせる。はっと丸くなる目。形を確かめるような手つき。
これがないと、俺に甘えられないくせに。
「名前、俺にそれ、絞めて。」
名前はもう何も言わなかった。ただそれを指で撫でて、それから俺の首に目をとめて、ゆるゆるとそれを俺にあてがおうとする。
可哀想な名前。これがないと俺に素直に甘えることもできない。そこが愛しいよ。これを絞めることを許されるのは俺だけだもんな。俺にしか名前のそれは理解できないもんな。こんな異常なこと、他の奴らにはできないもんな。俺だけ、だもんな。
そうやって、名前は俺だけしか求めなくなって。
俺だけのものになる。
「…久しぶりだな、首輪。」
俺の首に、黒皮の首輪を絞めた名前の指がびくりと震え、幸せな夢から残酷な現実に覚めたような目をした名前の手を掴んで握る。
「いい。これでいいんだよ、名前。」
逃げようとする名前を宥めるよう、自分でも気持ち悪いぐらいの甘い声を意識する。
「さ、これで俺は名前の飼い犬だ。」
飼い猫だったか?まぁ、細かい設定はいいや。名前の目がじわりと歪む。
「ゆーり、」
「うん」
伸ばされた細い腕は俺の首を抱き締めて、俺の顔に名前の胸があたる。柔らけぇ、あったかいし、いい匂い。
「ゆーり、ゆーり」
「はーい」
何度も名前を呼ばれて、何度も返事をするだけ。
首輪をすることで、よくある変態プレイをするわけでもない。この首輪は、俺が名前のペットになるためのアイテム。名前が人ではない、完全に名前に信頼を寄せるペットの俺に甘えるための、鍵。
名前は人が怖い。人の視線を気にする。人が自分をどう思われているかを。
だから何でも引き受ける。断れない。自分に悪い印象を与えたくない、嫌われたくない。要は不必要なものを捨てられない甘ちゃんだ。
そんな名前が唯一甘えられるのは、名前だけしか世界のないペット。
つまり首輪をした俺だ。
「名前、俺にキスちょうだい。」
「……私のキス、欲しいの…?」
「名前のキスが、欲しい。」
俺が首輪して俺がお願いして。
これ完璧なSMシチュだよなって思うけど、そうならないのは名前がちゃんと普通の子だからだ。名前は普通の子だ。これがないと俺に甘えることもできない、自分の意志が何もない、普通の女の子。
「ん…」
「名前、もっと俺抱いて。強く、そう。」
唇が合わさって、名前が俺に縋るように抱き付く。ソファに腰掛ける名前の腰を抱いて、そのままソファに押し倒す。ゆっくりと、沈ませるように。
「なぁ名前、俺にどうして欲しい?」
首裏にあった名前の手を捉えて、俺は従順な名前のペットだと意識させるように首輪を撫ぜさせた。それから指先に口付けて、忠誠を誓う、素振り。
「いっぱい…、好きって、言ってほしい…」
「それだけ…?」
「それから……、いっぱい、」
「いっぱい?」
「きもち、よく、して…」
名前のお願いをきいているのに、なんか誘導させちまってるのはー…まー、俺の心ん底にあるもんが名前の求めてる『忠実なペット』じゃないからだろうな。でも今の名前は俺を、名前を傷付けない名前だけに甘えるペットだと思ってる。ま、間違いじゃない。俺は名前を傷付けないし、名前だけに甘える。
けどごめんな、ペットっていうのは、フリだけ。
俺は常虎視耽耽と名前とその子宮を狙ってる。
名前を喰い散らかす、隙を。
「好きだよ。」
「わたしも、ユーリ、すき…」
「ほんと?」
「本当…、ユーリ、だけ。」
「そっか。じゃ、これからも俺は名前のものだな。」
シャツのボタンを一つ緩め、少し開いた白い肌に唇を落とす。耳のすぐそばで名前が息をのんで、俺の下肢がぐっと熱くなる。
ぷつぷつとボタンを取って、シャツを脱がせて胸に口付ける。柔らかい名前の胸に、俺の唇が埋もれそうだ。それから胸の先の、色の変わる境目を舌先で舐め、何度も、何周も円をなぞる。
「……っ、ゆー、り…っ」
「んー?」
わかっててやってる事に、自然とにやついてしまう。一方の名前は膝を擦りわせてて、俺にねだろうとしている。
「ほら、言わないと。」
俺は何もしてあげないよ。
って、これじゃどっちが指導権握ってんだか………と思うのはいつもの事。
首輪してても、俺はご主人様に牙をたてる猛犬のようだ。いや、牙はたてねぇな。舌か。
それか、名前を貫く楔か。
「っ…、ゆーり、…な、めて…」
「喜んで。」
じゅ、と吸いつけば名前から堪え切れない声が出る。ああ、いい声。可愛いな。
それからまだかまだかと誘う太股に手を伸ばし、しっとりと濡れてるそこに指をあてる。
「…んっ、」
「既に濡れてるじゃないですか、名前サン。」
「やぁっ、い、いわない、で…」
そんな顔されると、もっとひどい事言って辱めたいんだケド。
ごくりと生唾を飲んで、引き裂いてやりたいストッキングを丁寧に脱がせて、柔らかい太股の感触を指で楽しむ。
「それから?どうしてほしい?」
ここまで来ると、俺はもう首輪をつけてるだけになる。これでいいんだって。名前はそれをつけることで、俺に甘えるスイッチが自分の中で押せるから。あとはもう、俺の通りに。
「も、もういいの、ゆーり、ちょうだい…」
「いいの?まだならしてないから、痛いかもよ?」
「んっ、いい、ゆーり、ほしい」
指の先を挨拶程度に入れて、くちゅりと音を鳴らす。入口はここだよって指先をくいくいと動かせば、それだけでも名前は可愛い声をあげてそこを濡らす。
イイネ、準備万端っていうか、俺を待ってたって感じで。
名前に求められるのは大好きだ。いつでも求められていたい。だからだ、俺は名前に首輪を渡す。これが無くても、と名前が捨てた首輪を拾って俺に甘えさせる。
「痛かったら、言えな。」
「いい、いいの、いたくて、いい、の…んっ、んんっ」
や、ばい。
名前が可愛すぎて、入れただけでイキそうなんて。かっこ悪いだろ俺……。先をゆっくりと入れて、じわじわ、じわじわと名前の中を侵略する。名前は俺のをぎゅうぎゅうとしめて、あ、熱くて、狭くて、気持ち、良すぎる。おまけに、久々に締めたからか、いつもより、ちょっと首苦しいのもあって、な。結構、追い詰められる。
「名前、好き、好きだよ。(あ、今キュンってなった)(可愛い)」
「ぁっ、わたし、わたしも、」
「名前は、俺だけ、だもんな。」
「うん、うん…っ」
キスをし、舌を交え、下も上もどろどろになるまで一つになる。
細い指先が俺の首輪を撫でる。「ゆーり、ごめんなさい、ごめんなさい、あ、す、好き、」って言いながら首に手を添える名前に、名前だけのペットらしからぬオスの顔をしてしまう。馬鹿だな、名前。謝るくらいなら、こんなもん無くても俺に甘えてくりゃーいいのに。でもこれがないと、名前は俺に甘えてくれない。
まぁ、それもいいさ。こんな首輪、誰が見ても受け止められる奴はいない。もし受け止める奴がいたとしても、名前に選択肢を与えないために先に消しとく。名前は、俺だけ、俺だけに甘えて、首輪で、俺を束縛する。俺は名前を裏切らない。名前も俺を裏切らない。首輪は俺と本当の名前を繋ぐための、鎖だ。
「ぁっ、ゆ、ユーリ…!ぁ、ん、ぁあ、…っ、あぁぁっ…!!」
「ああ、くそ…っ、」
名前はそうやって、
「……は、ぁ………ん、ゆーり……」
「…は、名前んなか、きゅんきゅんしてる。」
「そ、そういうこと、なんで言うかな……」
俺に首輪をつけることによって、
「名前が好きだから。」
「う……、わたしも、好き…。ユーリがいないと、いや、だもん。…たぶん、寂しくて、しんじゃう…。」
「ああ。」
俺という名の首輪をつけている。
「俺もだよ。」
(死んでも外れないぜ、それ。)