ソーニャ文庫、水月青先生の『仮面の求愛』に激しくだぎったのでレヴァン→神田でそれっぽくやってみました。是非読んで頂きたい!




名前の行方がわからなくなっていた。
彼女が何処へ行き、何処へ消えたのか知る者はいない。ただ名前の行方がわからなくなる前まで、彼女は医療班フロアのベッドで大人しく療養していた。名前は任務時にアクマの毒ガスを吸ってしまった。少量ゆえ命に問題はなかったが、戦闘で傷付き弱った体にそれは追い打ち以外の何物でもなく、しばらくの任務不参加と療養が司令室と医療班から出ていた。ゆえに彼女は絶対医療班のベッドにいたはずだった。それなのに彼女は消えた。失踪、とは言えない。まるで何者かに連れ去られたようにベッドの上は彼女が寝ていた時そのままで、点滴も外されてそのままだった。確かに彼女の体は回復に向かい、あとは様子を見て退院だろうというところだった。しかし常に礼儀正しく優しい彼女が医療班に一言もなしに出ていくということはない。だからこそ、彼女の行方がわからない。彼女が生きているのか、はたまた―


「っ、あ、んんっ」


ずんっと後ろから突かれる、痛みというにはあまりにも官能的すぎる刺激に名前はシーツに顔を埋めた。腰を抱かれ、もう何度目かわからないこの行為にいつ終わりが来るのかどうしたらこれが終わるのかを考えつつも、浅ましくもその行為にもっとと感じている自分がいた。


「はっ、ここが、好きみたいだな。」

「あっ、やぁ、ゆ、ゆう、やめて…!ひゃぅっ」


彼女を熱い楔で打ち付けるものは、神田ユウ。彼女と同じエクソシストであり、親しい友人だった。艶やかな黒髪に端正な顔立ち、冷たい瞳が印象的だが、今その瞳は快楽に溺れ堕ちる名前を愛おしげに見下ろしていた。彼女が指通り滑らかだと好いていた彼の黒髪は汗で顔、首、肩に張り付き、名前の胸を揉みしだくように抱きかかえれば名前の白い背にそれが蔦のように絡みつく。


「おねが、…っ、ゆう、も、う」

「イきたいのか?」

「違っ、はなし、て、おわり、もう、おわりぃっ、」

「まだ駄目だ。」


それはどちらに対してだろう。
名前の太ももは汗と愛液にまみれ、ぐっしょりとそこを濡らす。汗が気持ち悪い、酸素も薄くて眩暈がする、体が彼だけを求めていて甘く苦しく残酷。それが気持ちいいなんて。


「名前、俺を好きだと言え。」


ぐちゅり、と奥へ奥へと押し込まれるそれに、彼の囁く声に思わずその言葉が出てきてしまいそうになり唇を噛む。
好き、ユウが好き。大好き。そう言えたらなんと素敵なことだろうか。彼が自分を求めている、求めてくれている。それに応えてあげたい。応えたい。しかしそれを言ってしまえば彼は何かもを捨てて自分を選んでくれる。
それでは駄目なのだ。


「名前、好きだ。」

「っ、ぁああ…!」


切なくも甘い彼の囁きから逃げようと顔をそらせば、彼は目の前に現れた耳朶に甘く噛みつく。そして中に舌を這わせ、水音をたてる。直に聞こえてくるそれに耳を塞ぎたくとも塞げない。逃げ場のないそれになんとか逃げようと体を起こすも、空いた隙間から神田の手が名前の胸を包む。先端を指先で遊ばれ、更に楔が最奥へと押し込まれると頭が真っ白になり、ぎりぎりまで引っ張っていた何かが急に弾ける。


「名前…」


弛緩する名前の体に神田の唇が落とされる。どっと汗が噴き出す体から神田はそれを抜こうとはしない。また彼が回復するまで愛撫され続けるのかと思うと終わりのない行為に気が遠くなりそうになるも、神田の指先舌先に以前まで知らなかった欲が膨らむ。


「いや…、ゆう、おねがい…はなして…」

「離さない。名前はもう、ここから出さない。お前がここから行方不明になればもう任務に出ることはない。お前が傷つくこともなくなる。俺の知らないところで怪我することがなくなる。俺とずっとここにいて俺と過ごす。お前はそれだけでいい。俺のこと以外考えるな。」


普段、必要最低限のことしか話さぬ彼がこのように話すなんて、彼は今正常ではないことは名前にはわかっていた。しかしそれでも彼を振りほどけないのは彼が抑えつけるように名前に圧し掛かっているだけではなく、この腕に抱かれていたいという名前の気持ちもあった。どれだけ頭でここにいてはいけない、逃げなければと理解していても、体と心が彼を求めていた。
いつも一緒にいた。食事も睡眠も任務も鍛錬も、ずっと彼と過ごしていた。ただ手を繋ぐこと以上のことはしていなく、いつか、いつか告白しようと思っていてもなかなか決心が纏らなかった。しかしある日、神田から、この任務が終わったら聞いて欲しいことがあると言われ、名前も自分もだと交わす。やっと繋がり始めようとする心に二人して穏やかに微笑んで任務に出掛けた。別々の任務に出掛けても、心は繋がっている。そう思った時だった。


「名前、俺を好きだと言え。」


再度落とされる言葉に、唇を噛む。しかしそれを解くように彼の指先は名前の唇を割り、口内に侵入する。


「あっ、ふ」


彼の指を噛むわけにもいかず、それを受け止めてしまう。すると彼が愛おしそうに微笑むのが見えて、名前の胸が切なく締め付けられる。
その時だ。


「…神田…いる…?」


控え目なノックの音と共に、扉の向こうからリナリーの声が聞こえた。


「…なんだ。」


静かな舌打ちと一緒に、神田が体を起こす。


「…まだ、名前が見つからなくて落ち込むのはわかるけど、もう部屋から出てきて…。みんな心配してるよ。」

「部屋なら出てる。メシも食ってる。」

「ご飯の時だけじゃない!それも、わざと皆がいない時にご飯だけ持って行って部屋で…。顔も見せないで何してるの?塞ぎこんだって名前は…名前は……、お願い神田…、こんなの、名前だって望んでないよ…」


扉の向こうからすすり泣くような声が聞こえ、名前は大事な友人の名前を呼ぼうとしたが、口の中の指がそれを許してくれなかった。
…ユウ、リナリーが…。そう訴えるような名前の目に神田は不快感を露わにする。
何故その眼を向ける。せっかく閉じ込めたのに。せっかく自分と名前だけの空間なのに。せっかく、せっかく。


「…チッ、」


今度はきっと、扉の向こうのリナリーでも聞こえそうな大きな舌打ちだった。それから神田はずるりと名前の中からそれを抜く。


「……あっ…ぅ」


急に引き抜かれたそこにぞくりと名前の体が震え、零れだしそうな声をシーツに埋めた。ぴくんっ、と体を揺らした名前に神田は気を良くしたのか、柔らかく細めた目を名前に向け、一つキスを落としてベッドから離れた。それから散らばった衣服を拾い上げ適当に羽織る。
扉の向こうで泣いているであろうリナリーに出てくれるのか、と名前は安堵したと同時に、神田が行ってしまうという気持ちが湧き上がり、ついそんな目を神田に向けてしまった。それに気付いた神田が広げた毛布で名前を包み、額に唇を落とした。


「すぐ戻る。」


短く言われた言葉に小さく頷いて、名前は神田の背中を見送った。神田は部屋の中を見せないよう自分が通れるだけの隙間だけ開けて部屋を出ていった。
カチャリと鍵がかかった音を聞きながら名前は俯いた。


(なに…わたしは彼を見送っているの…)


出なきゃ。ここから逃げなきゃいけないのに。
長ければ長いほど、彼が自分を閉じ込めた言い訳は苦しく取り返しのつかないものになっていく。それなのに、それなのに。
彼の愛を独り占めできたように感じて、ひどく心地良い。
体の奥から、どろりと注ぎ込まれた愛が溢れ出た。




彼らはいつ間違えたのか。




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