趙雲


本当はちょっとぐらいなら黙っていようと思ったのだが、だんだんとその手つきに顔が歪み、しかも彼ならばそんなつもりはないだろうと思い、名前は恥ずかしいのを我慢して小さな声を出した。


「ちょ、趙雲様…あの、少し、い、痛い…です…」

「…っ、す、すまない…!こ、これくらいならば痛くないか…?」


なんて、乳房を揉みながら言わないで欲しい。と言っても、衣服が肌蹴た状態の二人はつまりそういう行為をしているわけで、名前は頬に熱がこもるのを感じながらも弱く頷いた。趙雲が自分を後ろから抱いて腕を回している状態で良かった。正面ならともかく、後ろからならば頬が赤いのがばれずに済むだろう。


「名前の胸は、柔らかくて、気持ちがいいのだ…」


それで、つい…。そう耳元で、熱っぽい声で囁かれてしまうと全身が粟立ってしまう。自分の体より一まわり二まわりも体が大きい趙雲に抱かれてしまっているこの状態では、自分の肌にぷつぷつとしたものが出てしまっているのが肌を通してばれてしまっているような気がしてたまらない。武人としての大きな手が名前の小さな乳房をすっぽりと覆い、その形が変わる様を楽しむように趙雲の手は名前を揉みしだく。
名前はその手つきに、自然と口から溜息に近いものが出そうになるのを必死に噛み殺す。先程の趙雲が言った、名前の胸『は』、とは一体どういうことなのだろう。いや、考えなくてもわかる。趙雲は自分以外の女性との経験がある。当たり前だ、若き龍と言われつつも年齢は結婚適齢期を迎えているわけだし、武人としても一人の男としてもこんなに逞しくも美しい顔立ちをしているのだ、世の女性が放って置くわけがない。つまり、趙雲は自分以外の女性と比べて、そう言ったのだ。そうなるとその手を振り払って逃げ出したくなる一方、でも趙雲に抱かれ、こうして心地いいと感じてしまう手つきにずっと閉じ込められていたいという思いがせめぎ合い、名前は自然と涙を浮かべていた。


「……名前…?」


しかし、その名前の様子に気付かないはずがない人だ、趙雲という男は。戦場では龍のように槍を片手に突き進む彼だが、その心根は誰よりも繊細で、ひどく優しい。


「すまない…、まだ痛かったか…?」

「ちが…、違うの…、いたくなんて…、」


痛くなんてない。確かに先程は少し痛いくらいだったが、言ってからはまるで生まれたての仔犬を扱うように優しくされて溜息が出そうだったのだ。痛いはずはない。しかし、名前の胸は痛みを感じていた。この優しい腕と手が、自分以外の女性を知っていると思うと醜い嫉妬がじわじわと襲い、泣き出してしまいそうだった。彼を独り占めするなんてこと、できやしないのに、してもいけないのに、自分以外の女性に振り向いて欲しくないなんて、なんて傲慢な嫉妬心なんだろう。


「名前、泣かないでくれ。わたしはお前に泣かれるとどうしていいか…、」

「な、泣いてないです…、泣いてなんか……。」


声が上擦ってしまって上手く喋れない。まるで泣き声のようで、これ以上喋ってしまえば涙が出そうで唇を噛むのだが、噛めば噛むほど目に熱がこもり視界が歪む。せっかくの夜なのに、趙雲が泣きそうな自分に優しく揉みしだいていた胸から手を離してしまう。それに名前は、最中に泣き出す自分など御免だと、この夜はもう終わりだと、彼が何処か違う女性のところに行ってしまうような気がして「いやっ」とその手を掴んだ。しかし掴んだ大きな手は名前を振りほどくということはせず、ゆっくりと腕を去なされたと思えば、ぐんと体が持ち上がった。びっくりした名前は思わず趙雲の逞しい肩に手を置くのだが、その必要がないくらい、優しく彼の膝に再び戻された。今度は後ろからではなく、横抱きに。背中に趙雲の腕が回って、うまく呼吸を促すよう、撫でられた。


「名前…、何か嫌なことがあったのなら言って欲しい。私はお前を無理矢理抱くつもりはない。」

「ちっ、ちが、違います、あの、わたし、わたし…」


趙雲に抱かれたくないということではない。むしろ抱かれず放って置かれた方が…、辛い。しかし名前の口元に出かかっているのは、紛れもない醜い自分の心だ。言えやしない。優しい趙雲にそんなあさましい想いを抱いているなんて。ついその心は言葉にはならないも、涙として名前の頬を濡らした。そんな名前に趙雲は悲しそうに、切なさそうに眉を寄せるので、そんな顔をさせてしまったことで更に涙が溢れる。


「趙雲様、違うの…、そんなんじゃ、なくて、わたし…」

「…ゆっくりでかまわない。ゆっくりで。」


零れる涙を趙雲が一つ一つ拭ってくれる。自分で拭おうとしたのを、やんわりと制されたのだ。
優しい、優しい趙雲様。きっと自分が今思っていることを告げたら「なんて我儘な女だ」と言って部屋を出て行ってしまうかもしれない。自分のいた世界と彼がいるこの世界ではそのものが違うのだ。彼を束縛していい権利など、自分は持ち合わせてはいない。それなのに、名前の唇は勝手に動き、胸のつっかえを勝手に吐き出していた。


「いや、じゃないの……、いやじゃない。」

「ああ」

「わた、わたし、趙雲様のこと、すき、すきで…、」

「ああ…、ありがとう。」

「だから、だから、趙雲様が、私以外の女のひとと、こんなこと、してほしく、なくて…、」

「…名前?」

「ご、ごめんなさい、わかってるの、自分でも我儘なおんなだって、でも、どうしても、思っちゃって、わた、し、」

「名前、待て、待ってくれ。」

「わたし、」

「名前!」


強く、名前を呼ばれて名前はハッと顔をあげた。涙目の彼女の目に映る趙雲は、ひどく困ったような顔をしていた。それでも、ぽろぽろと零れる名前の涙を再び拭ってくれた。「ちょう、うん、さま…?」と涙と一緒に出た声は、趙雲の人差し指にあてられ、途中で消えてしまった。そして趙雲は眉を下げ、名前の頬を撫でる。


「わたしが、いつお前以外の女性を抱いたと…?」

「…ちょううんさま、抱いたこと、ないの………?」


涙を浮かべたまま首を小さく傾げる名前に趙雲は気まずそうに咳払いをした。


「いや、その、なんだ。無いと言ってしまえば、嘘になるが……」

「………」

「いや待て!違う、そうじゃなくて……!その、」


再び零れだした涙に趙雲は狼狽えたが、言いなおそうと「その、あの、」とまるで先程の名前のようになっていた。きょとりとした顔の名前を、真摯な瞳が追いかけた。


「お前を好きになってからは、一度も抱いていない。」

「……すきになってからって、いつ…?」

「い、いつ……!?」

「すきになるまえは、たくさんエッチしてたの…?」

「え、えっち……?い、いや、たくさんは、してない、と、お、思う……いや、してない…、してない!」


えっちとは何なのだろうか、と口にするよりも多分そういう意味の言葉なのだろうと趙雲は自己解釈し、必死に名前に食い付く。そんな様子の趙雲はとても珍しく、今まで見た事のない必死な様子に、名前は涙を浮かべながらも、つい、口元にふっと笑みを浮かべてしまった。


「名前…?」

「あっ、う、ううん、ごめんなさい……っ、あの、違う、これも違くて、」


彼が懸命に自分に伝えてくれた言葉を笑うなど、嫉妬心以上に失礼なことだと慌てて取り繕うも、口元を緩めてしまってからでは遅く、名前は小さな手で顔を覆い「違うの、違うの」とひたすら首を振った。


「う、うれしくて……、」


―趙雲様が、私に必死になってくれるのが、とても嬉しくて。

そう名前がくぐもった声で告げると、彼の腕が名前の体をきついくらいに抱き締め、牀の上へと横たわった。ベッドのように弾むわけがない牀の上へなだれ込むと趙雲の腕が緩み、ごろりと牀へ転がされたと思うとすぐ趙雲の体がのしかかった。目を丸くして趙雲を見上げた名前だが、その距離の近さに思わず顔をそらそうと手を再び覆うとするも、あっけなく阻止されてしまう。


「趙雲様、やぁ、ちか、近い」

「わたしもだ。」


百歩譲って自分の顔が人並みで見れたものだったらこの距離もまだ良かったものの、大したことのない顔でその上泣き顔なんて見れたもんでも見せれたものでもない。そう顔をそらすも、趙雲の唇が耳に触れた。カッと熱くなる名前に追い打ちをかけるように、趙雲が名前の耳たぶを甘く吸った。


「私も、嬉しい。」

「…あっ、」

「名前が、私のことをそう思っていてくれたなんて。」


耳たぶを吸った唇は頬を滑り、いまだ残る涙をすくい、涙のあとを口付ける。再び趙雲の手が名前の胸を覆い、その先を指先が遊ぶ。


「あ、いやっ、」

「私は、お前以外の女性など愛せないよ。」

「んん、」

「お前が可愛すぎて、他の女性など目に入らない。」

「う、嘘…」

「嘘じゃない。」


いきなり未来からやってきた、この乱世を終わらせる神の子だ、とひょっこり出てきてただの女子高生の小娘を?そんな小娘を若き龍が?蜀の五虎大将軍が?殿に「全身肝なり」と言わせた趙子龍が?馬鹿な。そんなことあるはずがない。
そう首を振る名前に、趙雲はゆったりと唇を下へ下へとおろし、手ですくいあげた乳房の先端へと口付けた。


「や…っ」

「名前、こっちを見て」

「やだ、はずか、し」

「名前。私を見て。」

「やぁ…!」


ちゅく、と音と一緒に唾液を含んだ趙雲の唇が名前のぴんと立ったものを含んだ。ぱくりと乳房が食べられ、体全身が趙雲という唇に支配された。舌先で乳房を舐められ、甘噛みを何度もされたと思えば強く唇で先端を吸われた。そのたび名前の体がびくびく震えても彼の唇と体は動じることはない。抑えつけるようにして名前の体に乗っている。


「…はぁ……ぁ、」

「…嬉しいものだな。好いた女性に嫉妬されるというものは。」


―体中の血が湯のように沸き上がるかと。


「名前、どうかお前で私を静めてはくれないか?」

「し、しずめ…?」

「ここで、私を愛してくれ。」

「ひゃぁっ、」


着物の合わせ目から趙雲の手がするりと忍び込み、熱く潤うそこに固く太い指が触れた。ぴたりとその中心へと指が這わせられ、追い詰められた名前は怯えた目で趙雲を見上げるも、見上げた趙雲の目はいつもの優しい瞳ではなく、野性味溢れた男のものだった。


「名前、頼む。」

「あ、だ、だめぇっ、」

「どうして?こんなに濡れているのに。」

「や、ひ、ひど、…ん、濡れてな、んか、…あ、やぁっあ、」


つぷり、趙雲の指が名前の中に入った。あんなに大きく重い槍を扱う手だ、指も厚い皮で太く逞しい。指一つ入るだけで名前の体は異物感でいっぱいになる。おまけに趙雲から恥ずかしいくらいの言葉が聞けて心の泉が溢れているのだ。体はひどく趙雲という存在に敏感になってしまう。


「ぁ、…だ、だめ……」

「名前は私を愛してくれないのか?」

「そんな、こと、…んん、い、いって、な、ぁっ」

「では、ここに私をいれても…?」

「あっ、あぁっ…!」


くちゅくちゅと卑猥な音が室内に響き、甘い趙雲の声が名前をせめ立てる。逆手に敷布を掴めば、その手は趙雲の手に取られ指が絡まる。一本いっぽん、一つひとつ、趙雲にほぐされ愛撫されていく。趙雲の声と言葉、愛撫に胸が苦しい。締めつけられたように、焦がされたように。


「名前、愛してる。」


その声だけで、喘いでしまいそうだった。…実際名前は喘いでしまったのだが。


「名前、もう一度言ってくれないか。」

「…ぁ…は、…な、にを…」

「私を、好きと。」


きっとその声と瞳は、名前を愛撫する一番のものだった。彼女は気付いてはいないが、趙雲が甘い言葉を囁くたび、名前の膣は趙雲の指を愛らしく締めつけていた。だからこそ趙雲は彼女にとびきりの言葉を囁くのだが、それを言ってしまえば名前は拗ねてしまうだろう。もう少し無自覚に自分を締めつけている様を見ていたい。もちろん、拗ねている名前だって勤務中に思い出せば一日中にやけてしまうくらい可愛いのだが。


「ぁ…、い、言って、いいの…?」

「もちろん。たくさん言いなさい。」

「い、いやじゃ、ない…?きらわない…?」

「何故嫌う必要がある。」


名前の言葉の最後はどうも同調しかねない、と趙雲は眉を寄せたが、すぐに名前の唇が微かに動いたため、静かにその言葉を待った。小さな、桃の花色のように可憐な唇が、趙雲の耳を擽った。


「好き…」


―体中の血が、


「趙雲様が…、苦しいくらい、好き、です…」


―ふきこぼれそうだ。


「名前、」

「ん、んんっ、ふ、……趙雲、さま、ん」


何をそこまで遠慮したがるのかわからない程、謙虚な名前の言葉に自分はちゃんと表情を保っていただろうか。勢いよく口付けた趙雲は貪るように名前の唇に噛み付いた。彼女はわかっていない。わかっていないのだ。自分がどんな気持ちで、どんな目で彼女をいつも見つめているか。蜀の神子だと言われながらも、中身は普通の少女で、いや、普通の少女よりも無邪気で、繊細で、無防備で、傷付きやすくて。この愛しいという想いと一緒にいっそ壊してしまいたいと思っている自分に、この娘は早く逃げるべきだ。それなのにこの娘は、自分を縛り付ける。まともに呼吸をさせてくれない程に。手も足も使わず、その目と、声と、表情で。


「好き…趙雲様、大好き…」

「ああ、わかった。わかってる。」


わたしは、この人を
わたしは、この娘を



愛してる







「趙雲お前キモイって知ってるか。」

「は…?なんです、馬超殿…」

「名前の世界の言葉でな、今のお前の顔のこと言うらしい。」

「はぁ…(…幸せって意味だろうか…)」




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -