近侍のはて(5/5)

  ***

帯を結び、身なりを整えて手入れ部屋を出れば、数歩歩いた先に山姥切長義が立っていた。
まるで待ち構えていたかのように回廊の真ん中に立つ山姥切長義を膝丸はじっと見据え、ふっと口端を上げた。

「近侍の件は一時保留となった。主はまだ休養が必要だ。怪我もしているしな」

そう告げると、膝丸を見る瑠璃色の目が弓を引いたようにきつく細まった。

「……『保留にさせた』の間違いだろう」
「…………」
「そもそも、その怪我も君のそばにいて治るものかな?」

声を低く落とし、鋭く矢を放った山姥切長義の言葉に膝丸は暗く笑って見せた。

「治るだろう。俺じゃあるまいし」

ひやりとした笑みを浮かべ、膝丸が横を通り過ぎる。
通り過ぎる小さな風と共に、山姥切長義はひくりと喉を引き攣らせた。膝丸の足音が遠のくのを聞きながら、山姥切長義は冷えた喉に手をあてた。

「よく手入れされた刀だ……」

歩き去った膝丸から、見えない刃を首に突き付けられたような気がした。
山姥切長義は去っていく膝丸の背中を睨みながら、見舞おうかと思っていた手入れ部屋を一瞥しては静かに後にした。

――俺は一体、何という名の刀で斬られたのか。

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