近侍のはて(4/5)

   ***

審神者から暇を告げられた時、膝丸は目の前が真っ暗になった。
近侍を髭切に預けることがあっても、この審神者の近侍は膝丸ただ一振りだったからだ。もちろん、任務の都合上、膝丸や髭切以外のものがそこにおさまることもあったが、それが終わればまた近侍は膝丸となったのだ。
それが、今回は暇を告げられての近侍交代だ。期限は審神者の仕事が落ち着くまで。いつ終わるのか、いつ審神者の側に戻れるのかわからない状態で告げられた事は初めてで、それが膝丸には突き放されたように感じたのだ。
優しい審神者はそのような感情を膝丸に向けることは無いとわかっていても、膝丸の中ではどうしようない黒雲が渦を巻いていた。
審神者の近侍となり、恋人同士にもなり、彼女の心に一番近いのは自分だと。いっそ、あの心に触れることができるのは自分だけだとも思っていた。
誇らしかった。彼女の刀としても、恋人としても、彼女の一番側にいることが膝丸にはとても誇らしかったのだ。
そうだというのに、いとも簡単に告げられた近侍交代に膝丸はぞっとした。

――あれは、近侍が膝丸でなくても何も思わない。隣にいるのが膝丸でなくても、何も感じないのだ。

……いいや、違う。そんなことはない。彼女も言っていた。ただ、仕事の整理をするだけだ、と膝丸はすぐさま悪い考えを振り払おうとするも、それは小石を池へ落としたように波紋を広げていく。

――そもそも、あれは近侍というものに、最初から重きを置いていなかったではないか。

だからこそ、審神者にとって近侍が膝丸である方が何かと都合が良いと思えるよう、膝丸は審神者の仕事を少しずつ預かるようにしたのではないか。審神者の元へと届く案件の中、審神者の決裁を必要としないものを膝丸の元で管理し、処理することで、審神者の側により近い近侍であろうとしたのではないか。
そうすれば、審神者の負担も減るであろうし、早く執務を終わらせれば審神者との時間も増える。何より「膝丸が近侍だと、お仕事が捗る気がする。いつもありがとう」と可愛らしい花が自分に向けて咲きこぼれる。
その花は、笑みは、この膝丸だけのもの。近侍という、審神者の側にある自分だけのものだと、膝丸はその位置を誰にも譲らないよう仕向けていたではないか。
まさかそれが、審神者の手により奪われることになるとは思いもしなかったのだが。

「――ん……」

審神者の寝息を聞きながら、膝丸は額と頬にある痛々しい爪痕を指の背で撫でた。
審神者が休みやすいようにと部屋の明かりを落としていたが、外が暗くなった分、部屋も真っ暗となり、今しがた行灯に明かりを灯したばかりだ。
その暗がりの中、審神者を撫でた膝丸の手には、血止めの包帯があちこちに巻かれていた。本丸薬師である薬研藤四郎の適切な処置で血は止まったものの、それで傷口が塞がる気配はない。それもそうだ。膝丸は刀であり、審神者に手入れをしてもらわねば直らないのだから。
あの後、荒れた部屋で審神者を休ませるわけがなく、審神者は空室だった手入れ部屋へと運ばれた。怪我としては膝丸の方が重傷ではあるのだが、血を止めることができても審神者に手入れをしてもらわねば直ることは無い。ゆえに、審神者の治療を先にしてくれと譲ったが、人間の体こそ手当てをすれば簡単に治るものではない。塗り薬を塗って処置をしたものの、審神者の顔に残る傷は痛々しい。

(辛かっただろうに……)

しかし、膝丸はその傷を何処か遠くで嬉しくも思っていた。膝丸がこめかみに血を飛ばした瞬間の、あの取り乱した審神者の顔を見て、膝丸は心の中で仄暗い幸せが込み上げてきたのを覚えている。
自分が傷付くことで、そのような顔をしてくれるのかと。審神者は、膝丸が傷付くことを、恐ろしいと感じてくれたのだ。
あの時、あの瞬間の審神者の表情と心は膝丸へと焼き付いた。悲痛な顔であったというのに、あの時の審神者の顔が忘れられない。いっそ、興奮さえも覚える。

「………………」

膝丸は寝ている審神者の横に手をつき、何度目かわからない口付けをする。唇から息を吹き込み、預かった霊力を審神者へと流し込んだ。
審神者が霊力を暴発させる前、場違いにも口付けたのは、何も傷付いた自分を見せないために視界を塞いだだけではない。審神者の霊力が全部溢れ出るとわかったから、吸い込んで膝丸の中で預かる意味もあった。こうして、霊力を出し切った審神者へ、また霊力を与えることができるように。
審神者の怪我の処置が終わるまで、膝丸は審神者の霊力を一時溜め込んでいたということになるのだが、手入れや鍛刀とは違い、資材も何も介せず審神者の霊力を預かるのは正直苦痛であった。味付けや調理もされていない米や麦をそのまま飲み込んでいるようなものだ。
しかし、こうして預かった霊力を少しずつ戻しては審神者の顔色が良くなっていくのを見るのは気分がいい。治療、とはいかないが、それに似たようなことができている気がして、膝丸の心が落ち着いた。
今、審神者は、膝丸の口付けで意識を取り戻そうとしているのだ。

「…………膝丸……」

離した唇から微かな息遣いを感じ、膝丸は顔を上げた。
審神者の頬から、膝丸の髪が滑り落ちる。

「気が付いたか……」

目を覚ました審神者にほっと息を吐き、まだぼんやりとこちらを見上げる審神者の頬を撫でる。すると、揺蕩うようにしていた審神者の目が急に見開き、膝丸の下から這い出ようとした。

「い、いや……っ」

突然もがいた審神者を膝丸は落ち着かせようとしたが、審神者はその腕を振り払い、部屋の隅へと逃げ出した。しかし力の入らない体では腕で体を支えるのが精一杯らしく、審神者は腰を抜かしたようにずりずりと動くことしかできなかった。

「動くな、傷に障る」

逃げ出す審神者を追い掛け、壁へと追い詰める。角まで追い詰められた審神者は逃げ場を失い、背中を壁へと押し付けるようにして身を捩っては涙を浮かべた。
まるであの時の顔を見ているようで膝丸は背筋がぞくぞくと粟立ったのだが、起き抜けで混乱している審神者を落ち着かせようと興奮を飲み込み、震える審神者の体をそっと抱き寄せた。

「駄目っ、はな、してっ……!」

もう行き場など無いというのに、審神者の足が床を蹴る。審神者は優しく抱き込もうとする膝丸へ腕を交差させた。押し退けようとする審神者を、膝丸は力を込めて抱き締めた。

「嫌だ、放さない。絶対に」
「け、怪我、させちゃう……いやだぁっ……!」

気を失う前の記憶を引き摺っている審神者はいやいやと首を振り、膝丸の腕の中で暴れようとするも、膝丸はそれをきつく抑え込んだ。
腕の中で審神者ががくがくと震えているのを感じ、可哀想な事をした、と思いつつも、膝丸を思って震えてくれる小さな体が苦しいほどに愛おしい。

「もう大丈夫だ。落ち着きなさい」

幼子をあやすようにして背中を優しく叩き、ゆっくりと呼吸をするよう促す。すると、肩で息をしていた審神者の呼吸が徐々に鎮まっていく。しかし、それでもまだ混乱しているのか、それとも無意識か、膝丸の体を細い腕が押し退けようとする。

「拒むな。君に拒まれると傷よりも胸が痛む」
「……っ」

傷、という言葉に審神者がびくりと反応する。一瞬だけ押す力が弱まり、膝丸はそっと腕の力を弱め、審神者の額に口付けた。審神者の引っ掻いた痕を避けるように、額とこめかみに優しく唇を寄せ、緊張と恐怖を和らげた。

「そう、ゆっくりと息をしなさい」

段々と、審神者の荒い息が治まっていく。小さな体で激しく息をしていた背中を何度も擦り、呼吸の仕方を教えるよう上下に撫でていると、審神者の目の焦点が定まってきた。

「見なさい。傷付いていないだろう」

審神者の目をこちらへと向けるよう頬を撫でると、潤んだ瞳がやっと膝丸を捉えた。審神者の目は、穏やかに微笑む膝丸を見ると、また新たな涙を生んではぽろぽろと頬を濡らした。

「ほ、包帯が……」
「痛くない。君が傷を作る方が俺は痛い」

審神者の目が膝丸の至る所に巻かれた包帯へと向かう。額、肩、腕、とあちこちに巻かれた血止めの痕に、次々と涙を流す審神者の頬を膝丸が優しく包み込んだ。

「大丈夫だ、ほら」

こつん、と額を合わせば、審神者の両目から涙が落ちた。
包んだ手の中で、ひくりとしゃくりあげる審神者を感じつつ、だいぶ落ち着いた審神者へと膝丸は唇を寄せ、ゆっくりと口付けた。審神者の唇はまだ少し震えてはいたものの、膝丸の唇を拒むことはなかった。

「……ひ、膝丸」

ぽろぽろと零れる涙を膝丸の親指が一つずつ拭っていると、その手に審神者の手が恐々と重なった。そこには血止めの布があてられていたが、審神者はその奥にある痕をゆっくりと撫でるようにして膝丸に触れた。

「ごめん、なさい……、たくさん、傷付けて、ごめんなさい……。痛かった、よね……ごめんなさい」

謝罪を繰り返す審神者の姿は可哀想で胸が引き裂かれるようだった。それは膝丸を痛々しく、切なく、苦しい思いでいっぱいにさせるのだが、それと同じくらいに愛おしく、頼りなく、可愛らしく映った。いや、正直に言おう。弱々しい姿に下肢が熱を持って疼いた。
最早邪悪とも取れる自分の感情に膝丸はひっそりと笑みを浮かべ、その笑みを誤魔化すように審神者へと口付ける。優しく合わせた唇から、ふっと息を吹き込む。

「やぁっ……、な、なにっ」

吹き込んだそれがただの息ではないとわかった審神者が、すぐに膝丸から顔を反らそうとした。

「落ち着け、預かった霊力を返しているだけだ」

暴れようとする審神者の顎を膝丸が掴み、再度唇を重ねる。

「いやっ、い、いらな、……んんっ」

体の中が空に近い状態だったゆえ、審神者は入ってくる霊力をありありと感じてしまっているだろう。戻ってくる霊力にまた暴走してしまうのではないかと審神者が膝丸の胸を押すも、膝丸は強く抱き込むことで封じた。

「ふ、ぅ…………っ」

抵抗する力を奪うほどの抱擁の強さに反し、霊力を吹き込む唇はいやらしいほどに優しくしてやった。そうすれば、相反する膝丸の行動に審神者は軽く混乱し、体の力が抜けていくのだ。
だんだんと膝丸を押し返す力が弱まり、審神者は膝丸の衣服を掴む。審神者が膝丸へと縋るようにすれば、唇はやっと離された。

「……君、見なさい」

審神者のぼんやりとした目を覗き込みつつ、膝丸はおもむろに自身の目尻にあてられた血止めの布を引き剥がした。ぴりっと聞こえた音に審神者の止める声も間に合わず、膝丸は剥がしたそこを撫でる。

「ほら、もう直った」

そう言って傷のある場所を撫でた。
手元に資材がないゆえ完全にとはいかないが、しかしそこは膝丸の言う通り、切れた傷が塞がりかけていた。

「君が俺を傷付けたというのなら、この傷を直すのも君だ。君だけだ」

審神者に傷付けられ、直されたこの一連の流れを喜ぶかのように微笑んだ膝丸に審神者は呆気に取られていた。膝丸はそんな審神者の手を取り、その小さな手の平に自身の頬を擦り寄せた。

「癒してくれ。君しか癒せぬ傷だ」

言葉を失う審神者へと、膝丸は乞うようにして長い睫毛を伏せた。
審神者から戸惑う息遣いを聞いた。まだ迷いのある息を止めるよう、膝丸は閉じた目蓋をそっと開く。そして、鈍い光を放つ梔子色の目で審神者を見詰め、その目で彼女を抱いた。

「……私で、いいの……?」

審神者からか細い声で尋ねられた。膝丸を傷付けてしまったことにより、すっかり心が折れてしまった審神者の手へと膝丸は口付ける。この手が、体が、存在が、唯一無二だと目で訴えて。

「君がいい。君以外はいらない」

審神者の濡れた睫毛が落ちると同時に、新しい涙が零れる。それと同時に膝丸は審神者へ口付け、審神者の体を抱き上げた。唇を合わせたまま、審神者の細腕が膝丸の首へとまわり、抱き返される喜びに膝丸は打ち震えた。

(――……ああ、今は笑うな。全て思惑通りだと)

小さな体を硝子細工か何かのようにそっと布団の上へと下ろし、寝かせた審神者の体を膝丸は組み敷いた。零れる涙が赤い傷痕に触れる前に拭い取り、また涙を生み出す前に目尻へと吸い付く。

「ん……、お、お手入れ、は……」

膝丸の唇を擽ったそうに受け止める審神者へ、くすりと笑いかける。

「君に触れていればいずれ直ろう」
「そ、そんな手入れ、聞いたこと、ない……っ」

ちゃんと手入れをさせてくれ、と審神者は膝丸の唇から逃れようとした。膝丸は身を捩る審神者の体をなぞるようにして手を滑らせ、頬から首、首から胸元へと、撫でるようにして着物の合わせ目から手を差し入れる。

「膝丸……っ、お願いだから、手入れをさせて……っ」

そのまま審神者を脱がそうとする膝丸の手を審神者は掴んだ。

「うっ……」

すると、膝丸はその手に顔を歪め、息を詰まらせた。
それを見た審神者がはっと手を離す。

「っ、ごめんなさい!」

審神者が掴んだ場所には包帯が巻かれており、痛みに顔を顰めた膝丸に審神者が申し訳なさそうに手を引く。
まるで自分が痛めたかのように泣きそうにする審神者へ、膝丸は顔を伏せては肩を揺らした。

「……くっ、君は、優し過ぎる」

膝丸の口からおかしそうに吹き出した息が聞こえ、審神者は「あっ」と短く声を上げた。膝丸がわざと痛めたふりをした事に気付き、下がった眉がつり上がっていく。

「膝丸……」

やっていい冗談と駄目な冗談があると睨まれるも、自分を心配してくれる審神者はやはり愛くるしい。癖になりそうだ、と膝丸は口端を歪め、審神者の引いた手を取る。膝丸は謝罪を込めて審神者の指を吸うように唇をあてた。

「そう怒るな。実際、癒えている」
「そんなわけ、……っ」

ない、と口にする審神者の前で腕の包帯を取る。丁寧に手当てされたものを解くと、そこには傷口が塞がり、赤く盛り上がった傷痕が残っていた。

「ほら」

どこか自慢げに見せられたそれに審神者は眉を寄せた。

「……治っていないわ」
「いい。君の素肌を感じることができれば直ったも同然」
「……っ」

手入れをしようと、傷の残る腕を取ろうとする審神者を交わし、膝丸は審神者の襟を開く。滑らかな肌を撫でつつ、胸を隠す下着をずり下げては手の平いっぱいに審神者の胸を包んだ。

「んっ……、膝丸、手入れを……させて……っ」

ここまでされてまだ手入れを諦めない審神者へ、膝丸は退く気はないと審神者の胸へと指先を埋めた。

「んぅっ……!」

指を動かした通り、柔らかく形を変える胸の弾力を味わいながら、膝丸は反対側の淡く色付く場所へと唇を寄せる。怯えたように顔を出す胸の先を誘い出すようにして、乳首を舐め上げた。

「あっ……」
「諦めろ。君の泣き顔を散々見せられて我慢できん」
「な……、あっ!」

ひどい言葉だが、事実であった。審神者の泣き顔はひどくそそる。
審神者が何か言いたそうにしていたが、小さく立ち上がった先に膝丸が吸い付くと、言葉は嬌声へと変わる。

「ひ、あぁっ」
「……いい声だ」
「いやっ、ち、違うの……っ、膝丸……!」

何が違う、とぷくりと膨らんだ先に歯をあて、きつく吸い上げると審神者は口元に手をあてがい声を上げた。

「あぁっ……!」

切なげに目を伏せる審神者を見詰めながら胸の愛撫を続けていると、審神者が膝丸の肩を掴んだ。弱い力ではあるが、その手は膝丸を押し戻そうとしており、審神者は甘い声を交えつつ、必死に訴えかけてきた。

「ひ、ざまる……、んっ、傷が……、治さ、なきゃ……っ、あぁ、んっ!」

まだ手入れの話を続けようとする審神者に膝丸は牙の先を軽く突き立てる。今はこちらに集中しろとばかりに小さく埋めると、審神者がびくりと反応した。
少し痛いのが心地よかったのか、それとも噛み千切られるとでも思ったのか、審神者の手が膝丸の袖部分をきつく握り締めた。
すると、膝丸の肩口が開き、そこから新たな血止めの包帯が巻かれているのを審神者が見つける。

「あっ……」

途端、頬を染めていたはずの審神者の顔がさっと白くなった。手入れをされていないままの処置だったゆえ、血止めとして大袈裟に巻かれた場所に審神者の目が怯えたように揺らいだ。

「包帯よりも俺に集中してもらおうか」
「そ、そんな事言ってる場合じゃ……っ」

愛撫よりも膝丸の包帯ばかりに意識を向ける審神者へ膝丸はやれやれと嘆息した。せっかく審神者を抱こうとしているのに、包帯が目に入るたび審神者の気が散って仕方がない。
心配されるのは嬉しいが、今は目の前の自分に集中して欲しい。そう膝丸は着替えさせた審神者の帯を掴み、しゅるりと音をたててそれを解いた。

「ま、待って、何……!?」

解かれた帯に審神者は慌てて胸元を掻き合わせ身を捩った。はだける前を隠すように膝丸へと背を向けようとしたところを、膝丸は手に取った帯で審神者の視界を塞いだ。手早く帯を巻き付けながらも、審神者の傷に当たらないよう気を付けた。

「ひざまるっ!?」
「他が目に入って目移りするというのなら、その視界、遮ってやろう」
「い、いや、解いて、膝丸っ」

膝丸は驚きの声を上げる審神者へと跨り、帯を頭裏で結ぶ。

「きつくはないか」
「な、ないけど……、そ、そうじゃなくて……っ」

戸惑う審神者をよそに、膝丸は結んだ帯から手を離しては審神者の衣服と、胸の下でずらしたままの下着を剥ぎ取った。大事な場所を隠す小さな下着だけを残し、全て脱がされた審神者は身を縮めるようにして背を丸くさせたが、膝丸は構わずその上に覆い被さる。

「そう。そうじゃない」

今は傷だの手入れだのと注意が散漫になる時ではない。
視界を塞がれた審神者が衣擦れの音と覆い被さる膝丸の重みにびくりと跳ねた。
膝丸は後ろから審神者の胸を包み、両手で揉みこんだ。零れる胸をそっと掬い上げれば、審神者の肌は膝丸の手を満たすように吸い付いてくる。

「余所見をするな。君は俺だけを視界に入れていればいいんだ」
「あっ、んん……っ」
「俺以外をその目に入れてくれるな。気が狂いそうになる」

もちもちと柔らかな胸を可愛がれば、膝丸の手の中で審神者がひくひくと震えた。目の前で蹲る白い背中へと膝丸は舌先を伸ばし、腰から肩甲骨の間をそっとなぞる。

「ひぁ……っ」

尖らせた舌先を追うようにして審神者は背中をしならせた。肩から首へ舐め上げると、審神者はそのまま力が抜けたように上半身を布団へと預ける。膝丸はその背中を追い掛けるようにして唇を寄せ、審神者のうなじ、頬、耳へと口付けた。

「……っ、み、みみ、やだぁ……っ」

小さな耳殻に舌を這わせ、耳の形にそって舌を動かすと審神者の手が敷布を強く握る。視界を覆った分、音を拾ってしまうのか、わざと音をたててやれば審神者が体を捻って膝丸から逃げようとした。もちろん膝丸はそんな審神者を捕まえるようにして、胸の先を指先で摘まみ、くりくりと捏ね回した。

「あっ、あぁっ……!」

膝丸の下で審神者がびくびくと反応し、先まで手入れだのなんだのと喚いたのに呆気なく喘ぐ姿に膝丸は小さく笑う。

「余所見をするからこうなる」
「し、してな、い……っ」

布団に額を預け、余所見などしていないと首を振る審神者に膝丸は眉を寄せた。

「している。……――俺が戻ってきてから、君は、ずっと」

うんざりと口にしつつも、何処か寂しさを滲ませたように膝丸が言った。そして審神者の白い背中に唇を乗せ、柔い胸を揉みしだきながら赤い痕を残していった。
少し吸うだけで簡単に痕がつく白い背中へ、膝丸だけが咲かすことを許されている赤い花を次々に散らしていく。

「んっ……ぅっ」

胸に触れつつ、もう片方の手で審神者の腰をそっと持ち上げる。膝丸の唇は持ち上げた腰を辿っては、高く上げさせた尻の合間へと埋まった。

「ひ、ぁ…………っ!」

膝丸の鼻先が触れた途端、審神者の腰がびくりと震えて逃げ出そうとしたが、それは膝丸が掴んだ手により叶わなかった。
膝丸が舌を伸ばし、足と足の柔らかな部分を少しだけ舐めると、審神者の体は跳ねるように強く震えた。

「い、やぁ……! やだぁ……っ!」

普段なら決して許してくれない場所へと顔を寄せると、審神者が膝丸の口淫から逃げようと腰を振った。
小さな尻が目の前でひくひくと動き、誘っているわけではないのだろうが、膝丸からすれば誘い以外の何ものでもない。
審神者の視界を塞いでいるのを良い事に、膝丸は口淫を続けた。

「やぁ、んっ……、ひ、ざまる……っ、だめ……っ」

何度も聞かされる「駄目」や「やだ」の言葉に膝丸は眉間に皺を寄せるも、やめる気には到底ならなかった。なるつもりもなかった。

「……俺につまらぬ嫉妬を抱かせるからこうなる」
「え……? っあ、やっ、だめぇ……っ!」

下着を指でずらし、膝丸の言葉を聞き返そうとした審神者の秘部へと膝丸は吸い付いた。

「……あぁっ!」

柔肉を左右に開き、ひくつく小さな入口に口付けると、中から甘い蜜がとろりと溢れてきた。舌先で拭ってやれば、蜜は膝丸の舌に滑らかな感触を残してはすぐに溶けてしまう。もっと蜜を感じたくて、膝丸は大胆に舌先を伸ばした。

「あぁ、んっ、……ん、ひあっ……」

審神者の足と足の間に顔を更に埋め、奥に潜む小さな粒を舌で撫でると審神者の腰が高く上がった。審神者はかき集めるようにして敷布を掴むも、追い掛けて蜜を舐める膝丸の舌に指が滑る。

「ここが好きだろう、君は。これを可愛がれば、君はすぐに駄目になる」
「んーっ! はぁ、い、いやぁっ、あぁっ」

舌先で優しく撫でるも、審神者に走る快感は強すぎるらしい。無意識に逃げようとする体を捉えながら膝丸は弱い場所を可愛がった。

「も、もう、いいっ……、もういい、からぁっ……」
「嫌だ」
「あぁあっ……!」

じゅう、と音をたてて吸い付けば、審神者は蜜のように甘い声を上げて達した。布団へと顔を埋めるようにして達した審神者へ、膝丸は追い打ちをかけるようにして溢れる蜜を舐め取った。渇いた喉を潤すようにして審神者の愛液を味わう。

「はぁ、もっと君を味わいたい。……寄越せ」
「……っ、やだやだ、だめっ、ひざま、んんぅっ……!!」

膝丸は審神者の体を向き合うように転がし、足を左右に開かせては再度熟れた秘部へと吸い付いた。審神者の手が膝丸の頭を掴むも、すぐに膝丸の舌により力を奪われ、その指は膝丸の髪を撫でて終わってしまう。

「ひ、ぅ……っ、だめ、お、おかし、く、なっちゃうぅ……っ」

達したというのに構わず続けられる愛撫に審神者はがくがくと震えたが、膝丸は震える太腿を抑え込み、蜜で濡れた花弁を丁寧に舐め取っては花芯を擽った。弱々しい声を上げる審神者へと膝丸はふっと笑いかけるのだが、審神者はその吐息でさえ反応を見せていた。

「おかしくなっていい。俺がずっと見ていよう」
「ひっ、や、やだぁ……」
「嫌なことなどない。おかしくなる君を見るのは俺だけだ」
「ん、んぅっ……!」

膝丸だけが審神者のこの姿を見られるのだ、と剥き出しの花芯を指でつつくようにして撫でた。指の腹が触れるたび、小さな粒がひくひくと浮き沈みを繰り返す。

「……あ、ん、あぁっ」

そしてその指に誘われるようにして、審神者はまた高みへと持ち上げられてしまう。達すると同時に、中から蜜がとろとろと流れ出ては膝丸がそれを舐め取った。

「ひぁ……っ、お、おねがい、膝丸、もう、舐めないでぇ……っ」

小さな手で頭を押し返されつつ懇願され、膝丸はそっと顔を上げる。涙を浮かべているであろう審神者の目が帯で見えないのが残念だが、拘束されたような格好にこれはこれでいいと目を細める。
膝丸が帯を解いてやらねば何処にも行けない審神者は、まるで奥深い場所で一人囲われているようだった。誰の目に触れず、触れさせず、そこにいる審神者はさぞかし窮屈で可哀想な事だろう。しかし、審神者に向ける膝丸の表情は可哀想なものへと同情するものでもない、陶然とした笑みだ。
審神者を膝丸しかいない場所へと囲うことができたのなら。そんな愚かなことを想像しては、膝丸は一人熱を昂らせた。

「舐めるのが駄目ならばどうする。中に戻そうか」

言いつつ、膝丸は自身の前を寛がせた。はち切れんばかりに滾ったものをずるりと取り出し、審神者の足を抱え直しては濡れそぼった蜜口へとそれを添えた。

「……っ」
「全て拭いきれるか……」

すぐにでも突き刺したい欲を押し込み、膝丸はかたく膨らんだ先で審神者の蜜を拭い、その蜜を小さな入口へと押し入れた。鈴口が吸い込まれるように審神者の中へと入ろうとしたが、膝丸はそれを握っては離した。口と口から、透明な糸が引く。

「あっ……は、あ……」

熱を突き付けた瞬間、審神者の体に緊張が走ったのを膝丸は知っていたが、素知らぬ顔で再度蜜を拭っては入口を擽った。くちゅくちゅといやらしい音をたてて。

「はぁ……あっ、あぁ……」

膝丸はそれを何度も繰り返し、審神者の息が上がっていくのを目の前で眺めた。熱を小さな穴にあてがうだけで審神者の体が強張る。しかし離れると同時にふにゃりと力が抜けて切なげな声が零れた。膝丸の匙加減で審神者の体がどうにかなってしまいそうで、膝丸の下肢がぞくぞくと戦慄いた。

「ひ、膝丸……」

いたぶるような愛撫に審神者が物足りなさそうな目で膝丸を見た。と言っても目隠しをされて審神者の目は見えないのだが、膝丸には目隠しの向こうの審神者がどんな目をしているのか、手に取るように見えていた。
浅く息をする審神者の耳元に唇を寄せる。

「ん、どうした?」
「んっ……」

耳元で囁くようにすれば、審神者の耳がかっと赤くなる。思わず耳朶に噛み付きたくなるのを必死に堪え、膝丸は審神者の返事を待った。

「……れ、て……」
「なに?」

聞こえない、と擽るように耳元で返すと、審神者の息がまた上がっていく。

「い、れて……」
「入れてだけではわからん。何をどこにどうされたいのか、はっきりと言いなさい」

くちゅ、と大きく膨らんだ先を小さな入口に押し当てる。審神者の入口が膝丸を求めてひくついているのを感じながら、笑みを浮かべた顔を寄せる。
すると、審神者はまるで逃がさないとばかりに膝丸へとしがみ付いてきた。突然首裏に回った腕に膝丸は目を見開くも、耳元で聞こえた可愛らしい息遣いに目尻を下げる。

「いれて、ほしい、の……、私の、中に、膝丸を……」
「いれて? 入れてどうする。入れたままでいいのか」
「やぁっ、い、いっぱい、擦って……、奥まで、膝丸が、欲しいの……」

聞いているこちらが可哀想になるくらいの弱々しい声で懇願され、膝丸ははち切れんばかりに硬くなっている熱を審神者の入口に少しだけ埋める。

「やぁん……、ん、も、もっと……」

意地悪で先だけ入れてやれば、審神者がむずかるような声を上げた。そんな審神者の声を聞けただけでも十分持っていかれそうだが、やはり果てるのなら審神者の中がいい。

「いいだろう。他ならぬ君の願いだ」

花弁を掻き分け、小さな入口を押し広げて膝丸は審神者の中へと突き入った。

「あっ……あぁっ!」
「……っ」

ずぶりと入れた中は膝丸を溶かすように熱く蕩けきっていた。その熱に形を奪われぬようすぐさま奥まで突き入れたくなるのだが、膝丸は少しずつ中へと熱をしまい込む。狭い道をずぶずぶと押し広げ、中を膝丸でゆっくりと蹂躙していく。

「ん、……あぁ……」

すると、押し込んだ熱量に審神者の腰が浮き上がる。いや、膝丸が審神者を求めて持ち上げてしまっているのか、それとも審神者が無意識に持ち上げているのか。どちらか判断はつかなかったが、互いに深いところを求めあっているようで、膝丸は心が満たされた。

「あっ……ひ、膝丸……帯、取って、ほし、い……おねがい……」

中に突き入れている最中、審神者が甘い声でそう強請った。

「ひざまるの、かお、見えないの、やだぁ……」

外したとしても、どうせ恥ずかしいだと何だのといつもは顔をそらすくせに、まったく見えないのは不安らしい。
可愛らしいお願いに膝丸は熱を半分くらい埋めたままの状態で動きを止めた。そして審神者の手を取り、それを布団へと縫い付けるようにして自分の指を絡めた。
簡単に抑え込めてしまう可憐な手を膝丸は好いていた。この手を取るのは後にも先にも自分だけだと、縫いつけた手を見下ろす。すると、膝丸の脳裏に瑠璃色の目をした男が現れた。男は膝丸が縫い付けた審神者の手をするりと解いては、そのまま連れ去るかのように審神者の手を取った。

「――君が、もう余所見をしないと誓うのなら」
「……よ、よそみ……?」

一体何のことだと不思議そうにする審神者に膝丸は眉根を寄せ、埋めた熱をずるりと引き抜く。すると、審神者の中が抜いてくれるなと蠢き、膝丸を引き留めるように入口が締まった。

「ひぁっ……しゅ、……する……っ、する、からぁ……っ」
「本当に」
「んっ、本当っ……よそみ、しない……っ。膝丸しか、見ない、からぁ……っ」

余所見の本当の意味を知らないくせに、と膝丸は顔を顰めながらも、口にされた言葉に心動かされ、審神者の中へと再度熱を打ち込んだ。

「あぁんっ……!」
「……くっ」

快楽に流されて訳がわからなくなる審神者にもっと約束を取り交わしたいのに、いつもより素直に求めてくる審神者に我慢がきかない。いや、ここまできてしまうと膝丸の方も一つになることを優先してしまう。

(悔しいくらいに、気持ちが良い……、溶ける……)

ごつっと奥に切っ先を押し込み、ぎちぎちと締め付けられる審神者の中に息を詰めながら膝丸は固く結んだ帯を解いた。解いた審神者の目元は涙で濡れており、膝丸を見るなり口付けを強請った。

「ひ、ざまる……、キス、欲しい……、して」

膝丸の目を見て、審神者が安堵したように目を閉じた。

「……君が俺を望むのなら、いくらでもくれてやる」

こんな口付けの求め方をされて拒めるものなどいない。膝丸は返事と共に口付け、審神者の体を抱き締める。
そのまま審神者の上体を抱き起こし、膝の上へと乗せる。唇を重ねたまま、膝丸は審神者の体を小さく揺すった。

「あっ、お、おく、が……」
「いっぱい、擦れるだろう?」
「ん、ん……っ、おく、ごつごつ、いって、る……っ」

膝丸の目を熱く見詰めながら審神者は喘いだ。幼く喘ぐ審神者が愛らしく、膝丸の熱は中でどんどんと膨らみ、硬くなっていった。
溶けだした飴玉のような目で膝丸だけを映す審神者の目に酔いしれつつ、膝丸は最奥を優しく突き上げた。

「あっ……、だめ、中、そんなに、したら……」
「目をそらすな」
「んっ……、あぁっ……やだ、そんな、みない、で……あ、あぁっ……」
「言っただろう、俺以外を、見るなと」

余所見から、俺以外に話が変わっている。それでも、俺から目を離すな、とばかりに見詰めてくる熱に焦がされ、審神者はひくんっと腰を打って達した。

「あっ……、あぁ……っ!」

ぎゅうぎゅうと容赦なく締め付ける中に膝丸がなんとか堪えようとするも、達した審神者がとろんとした目で膝丸を見詰めては唇を合わせてくる。
ぴったりと触れ合う肌と絡み合う汗に膝丸は勘弁してくれと思うも、審神者から求められる唇を拒む理由など欠片も見当たらない。

「ふ……ぅっ」

審神者を抱き締めながら、まだ熱を放っていない自身をぐりぐりと押し付ける。

「あっ……それ、だめ……また、きちゃ、う……」
「いい。何度でも」

何度でも気をやらせて、膝丸がいないと駄目だということをこの体に教え込ませねば。
膝丸は上体を後ろへと倒し、審神者の体に両腕をまわしてはきつく抱き込み、下から中を突き上げた。

「やっ、あぁっ、し、下からは、だめ……っ」
「君はこうされるのが、好きだっただろう」
「ひぅっ……、だめ、これは、だめ、だめなの……っ」
「良いの間違いだろう。我慢するな」
「あぁっ……、だめ、また、い、いっちゃ、う……」

下から突き刺すように腰を打ちつけ、抱き締め、身動きを封じた審神者に何度も何度も自身を打ち込む。肌のぶつかる音が激しく響き、その音が響くたびに膝丸の熱が弾けたがって大きく膨らんでいく。

「はっ……」

膝丸は指が食い込むほど審神者の尻を鷲掴んでは激しく突き立てた。

「あっ、ひ、ざまる……んっ」

すると、審神者が膝丸の肩に唇を乗せ、口付けるようにして膝丸の肌を擽った。触れた場所から、審神者の柔らかい唇が、熱が、愛しさが流れ込んでくる。

「んっ、すき……っ、膝丸、好き……」

愉悦に流されているだけだとわかっていても、審神者の口から零れる言葉は膝丸を愛しさで満たした。膝丸は審神者の何気ない一言でこんなにも気を狂わすというのに、それを満たすのも、また審神者のこんな何気ない一言なのだ。
近侍を外すなど、簡単に膝丸を手放すようなことをする審神者を憎く思いながらも、また愛しい、可愛いと思う審神者を強く求めてしまう。大事にしたいと思うのに、審神者を前にすると感情の箍が外れるばかりだ。
心の底から惚れてしまうと、もうどうしようもなくなるらしい。

「……俺が、君へ毒を流しても、か」

あの時、審神者の側から離れたくない気持ちを吹き込んだ唇を撫でると、審神者がその指に小さな唇を押し当てる。指先に触れる審神者の唇が温かい。

「んっ……、いい、膝丸なら、何されても、いいの……っ」
「またそのような……。もう少し、考えてから言葉にしなさい」
「して、る……っ、してる、もん……っ」

どこかだ! と叫びたくなるのを膝丸は熱に込める。大きく腰を引き、一際強く審神者の中へ自分を突き刺した。

「ひっ……あぁ……っ!!」

最早悲鳴のような声を上げて達した審神者へと、膝丸も勢いよく熱を放った。限界まで我慢した白濁を注ぎ、これでもかというほどに審神者の中を穢した。膣の中で満ちていく自身の熱にどうしようもない安堵感が生まれ、これは俺のものだと、他にあげるものなど髪一本もないのだと、膝丸は審神者を抱き締めた。

「俺を思うのなら、俺を側に置いてくれ……」
「ん……」

快楽の波に揺蕩う審神者へと囁くも、審神者の意識はだんだんと眠りへと沈んでいく。返事をさせるまでまだ突き上げてやろうかとも思ったのだが、ふと、優しい温かさを感じた自分の体を見下ろしては膝丸は止めた。溜息が込み上げる。
激しい情交にあちこちに巻いていた包帯が緩んでいた。外すと、包帯に隠されていた傷が何処も血を止めては直りかけていた。まるで、いつの間にか審神者に手入れをされていたかのように……。
審神者との行為に耽っていたのは自分だけなのかと、膝丸は切なさと愛しさで頭がおかしくなりそうだった。

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