俺の主(3/3)


「……ええ? 僕に斬って欲しい?」
翌日。審神者は二振りにひどい態度を取ってしまったこと、恥ずかしながら膝丸と髭切の関係にヤキモチを妬いたことを素直に髭切に伝え、謝罪をした。
「もう、自分が審神者としても人としても情けなくて……。こう、すぱすぱっと斬って頂けないでしょうか……」
そこで、対面に座る髭切へと深々と頭を下げ、どうか煩悩ごと切ってくれないかと審神者は頼み込んだ。
「斬るって言ったって…………、何で? 何を?」
「それは……、髭切の太刀で、私を……」
「どうして」
そんなことをしたら死んでしまうだろうに。意味が分からないと目を丸くさせる髭切に審神者は顔を上げ、自身の胸元をぎゅっと握り締めた。
「……こ、こんな欲深い私は、いつか鬼になっちゃうんじゃないかと…………」
他人に嫉妬とかよくないよ。鬼になっちゃうからね。
……とは、髭切の言葉だ。
その通り、いつか膝丸への思いを拗らせていずれ鬼にでもなってしまうのではないかと審神者が言えば、髭切は大きな目をこれでもかとばかりに見開き――、笑った。
それはもう、大きな口を開けて。
「ひ、ひげきり!」
笑いごとではないと審神者は声を上げたが、髭切は涙を浮かべるほど大笑いした。息をするのも辛そうに腹を抱えた髭切は突如降った笑いに涙を拭っては、審神者を見上げた。
「ふっ……、ごめっ……、お、おもしろいことを言うね、主は」
「馬鹿にしてる……?」
「ううん、違うよ……。ふふ、可愛くて」
「……馬鹿にしてるね……?」
大真面目に話したことを笑い飛ばされ、審神者はひくりと頬を引き攣らせた。
しかしそんな審神者の顔を髭切は両手で包み込み、こつりと額を合わせた。
「こんな可愛い鬼、僕は斬れないよ。……だいたい、君の抱えるそれは鬼の抱える嫉妬にも満たない。僕が斬る鬼というのはね…………」
「――君」
不意に、部屋の外から声が掛かる。
声の方を見れば、そこには膝丸が立っていた。膝丸は部屋の中へと入るなり、向き合うようにして座る二人の間を割って審神者の腕を取った。
「厨へ一緒に来てくれないか。人参のグラッセの作り方を教えてくれ」
「え……、いいけど……、膝丸はまた厨当番なの?」
「今日は昨日追い出された分だ」
「な、なるほど……。わかったわ、ちょっと待って」
膝丸に腕を取られた審神者は立ち上がり、髭切も審神者に触れていた手をぱっと離しては膝丸を見上げる。その目は楽しそうにも鋭く光り、膝丸を見詰めていた。
「おや……、噂をすれば、かな」
「……何か言ったか、兄者」
「いいや。何でもないよ」
髭切は離した両手を見送るように振って、部屋の外へと向かう膝丸と、連れ出される審神者を見送った。二人の足音はすぐに遠くなり、残された髭切は小さな笑みを浮かべながら一振り呟いた。
「嫉妬とかよくないよ。鬼になっちゃうからね」
それは誰に呟かれたものなのか、誰も知る由もない。

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