SEVENTH HEAVEN(3/3)


本丸が解散する時の話だ。
初期刀と髭切を見送ったあと、もう何も誰も残っていない本丸には、近侍の膝丸と審神者だけがいた。
いよいよ膝丸も見送るとなったその時、陛を降りて庭へと出た膝丸が暖かい春風に白緑の髪を揺らして振り返った。


「本丸を解散したあと、審神者はここでの記憶を消すか消さないか、選ぶらしいな」


君はどうするのだ、そう訊ねられ、審神者は陛の上で困ったように笑った。


「たくさん、たくさん悩んだのだけど、やっぱり、消してもらおうかと」

「何故」

「そうね……。皆が……、膝丸がいない世界なんて、寂しいもの。皆との思い出を思い出しても、そこに皆がいなければ私は寂しくて泣いてしまうもの」


皆がいない世界などまるで別世界のようで、生きている価値を見出だせるかわからない。そう告げると膝丸は小さく笑った。君はよく泣くからな。そう言って、今も流れる審神者の涙をそっと拭った。


「主。……君に、願いがある」

「……?」

「……記憶は、消さないでくれ。このままでいて欲しい」

「え……」

「約束しよう。必ず君を迎えにいくと」


あまりの突拍子もないことを言い出した膝丸に審神者は涙を引っ込めた。
そんなことが可能なのだろうか。
迎えにいくと言ってもどうやって。
そんな言葉が思い浮かぶも、目の前の自信たっぷりな笑みに、この膝丸なのだから、なんだかできてしまうのかもしれないと審神者は思ってしまう。
風に取られた審神者の髪を、膝丸が優しくすくって耳にかける。乱れた髪を指先で整えるようにして額を撫でられ、審神者は甘く切ない思いで胸が苦しくなった。


「君に再び相見えたとき、また君と一から関係を築くのは面倒だ。……初めて会った時のように、顔が怖いと逃げられては堪らんからな」

「あ、あれは……っ」

「それに、会えなかった分、再会したら君をすぐ抱きたい。離れていた日数分だ。だから、ずっと俺を好きなままでいてくれ」

「………………」


なんて、勝手なことを言われているのだろうか。
会ってすぐに抱きたいなど、すごく破廉恥でとっても我が儘だ。
会える確証などないのに、それでも膝丸をずっと、一生好きでいてくれなど……。
それなのに、好いた男にそう言われれば、その男に見も心も奪われた女は頷くしかない。


「はやく……はやく迎えに来てね……」

「ああ、君の涙が枯れぬ内に。むしろ君が俺に気付く前に、俺が君を見付けよう」

「約束、約束だよ」

「ああ、約束だ」


そう言って膝丸は審神者の腰を抱き寄せ、二人は口付けた。
本丸の庭に咲く、大きな桜の木に見守られながら二人は誓ったのだ。
再び巡り会って、一つになることを。
頬に触れたのは涙だろうか、それとも桜の花びらだろうか。
触れた唇がそっと離れたあと、本丸には審神者一人になっていた。
桜の花びらが舞い散る中、審神者はまだあたたかな感触が残る唇にそっと指先をあてる。


「……膝丸」


――次、その名を呼べる日はいつかしら。
そう目を閉じて、その日を待つ。ずっと、ずっと。


SEVENTH HEAVEN

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