自治会館清掃


「街の防衛は近所付き合いから!ってことでユウ君!自治会館のお掃除行くよ!」

「…なんで俺が…。」


なんだか嫌々というか渋々というかせっかくの休日を寝通ししようとしてたユウ君を無理矢理起こして無理矢理洗顔させて無理矢理髪結んで無理矢理朝食突っ込んで無理矢理自治会館に連れてきました!今日は私達が住む番地にある自治会館のお掃除です!近所の人たちが集まって自治会館を掃除するんだよ!相変わらずお父さんとお母さんは仕事があるので私達が親の代理です!っていうか私は小さい頃からやってるけどね!でも苗字が神田になって、ここに引っ越してからの自治会館お掃除は初めてなのです。地域の皆さん!初めまして!神田です!





おねえさんとユウ君
〜自治会館掃除〜




「おはようございます。」


そう言って扉を開けば最初に来たのは誰だコイツって感じの視線。そりゃそうだろうね!私も誰ですかあなたって感じだもん!知っている顔はご近所さんとかだけで、同じ番地に住んでると言っても初めてお会いする人はたくさんだった。で、「今日は親の代わりに来ました、神田です。」って頭を下げれば、誰だコイツって視線は止んで、「あぁ、あそこの神田さんね」って視線になった。良かった。家だけはバカデカイから「神田」の認識はあるんだ。私はほっと息を出して、それからまだ自治会館の入り口でまごついている我が家の長男を引っ張った。「ユウ君いつまでそうしてんの!」「…なんで俺がっ」と言いながら皆さんの前にユウ君を出した。で、「神田ユウでっす」て頭を掴んで頭を無理矢理下げさせた。すると、


「あらあらあらあらあら、」

「あなたが神田さん!」

「いやぁん、もう、いけめんじゃないの!」


と近所のおば様達の反応。おば様達、現金です。(ま、わからなくもないけどね!)体力も頭も顔も良いんで好きに使ってください、と言えばおば様達はイケメンなユウ君に目をキラキラさせて「じゃぁ高いところでも掃除してもらおうかしら!」と張り切ってユウ君の腕を(がっちり)掴んでそのまま奥へと行ってしまった。「ちょ、ま、お、俺はっ…」と流石におば様の腕は(ある意味)振りほどけなかったユウ君は私に助けの視線を送ったけど私はそれをにっこり微笑んで見送ってあげた。ユウ君!ご近所付き合いも長男の立派な役目なのだよ!お父さんの代わりにしっかりお役目を果たしておいで!


「さて…、何からはじめればいいですか?」


おば様達に拉致られた…違ぇ、連れて行かれたユウ君を見送って私は雑巾片手に近くのおば様に言った。おば様は「それじゃぁ、一緒に窓拭いてくれる?」と言ったので私は快く頷いた。窓の内側を雑巾で拭いて、外側を拭けば雑巾は真っ黒になった。うへぇ、さすが年に二度の自治会館掃除だぜ。…きたない…。


「えっと、ごめんなさい、どこの方なのかしら。」


一緒に窓拭きしているおば様が言った。赤いエプロンの優しそうな人だ。ひゅう、と換気のため開けている窓から冷たい空気が私の頬をかすった。さ、寒い…!


「あ、神田です。」

「あぁ、あそこのお宅の…!今日はお母さんの代理?」

「はい。母は仕事で来れないので、弟と一緒に来ました。」

「あらぁ、偉いわねぇ。うちの子なんてまだ家で寝てるわよ!」


あははははは、と笑いあったけど…。すみません。うちの子も起こさなければ寝ているつもりでしたよ!天使の寝顔に何度私の意志が揺らいだか…!だがしかし!そこは心を鬼にして!姉として!神田家の長女として!ユウ君を連れてきましたよ!今じゃきっと立派に会館掃除を手伝っている…!……はず。うん、たぶんきっと。


「あぁ、もう雑巾が真っ黒ね。洗ってくるから、あっちの窓のカーテンを取っててくれるかしら。」

「あ、はい。ありがとうございますっ」


いい人だ…!と感動しながら私は言われた窓の前に立った。………うん。まぁ、届かないよね。そこらへんにあった椅子を拝借して私はカーテンを取った。カーテンって結構外しづらいよね。外したカーテンはクリーニングに出すから金具を取って、畳んで、まとめて置いておいた。おじ様達が「大丈夫かい?」と聞いてきたので「大丈夫でっす!」と元気良く返事したら「いやぁ、若いねぇ」と言われた。いやいや、ジャージ姿で雑巾持っていかにも掃除しに来ました的なおじ様達には負けますよ。気合が違うよね。気合が。と、ジャージ姿のおじ様達に気を取られているとグラリ、少し椅子の上でバランスを崩しそうになった。


「う、わ、」


お、おお、落ちる、かも…、と椅子の上でぐらぐらと揺れていると、ぎゅ、と腰に手が回った。大きな腕だ。私の知ってる、腕だ。


「あぶね、何やってんだよ。」


と、私の腰を支えてくれたのはもちろん、


「ゆ、ゆう君…!」


(掃除機を持った)ユウ君で、ユウ君は「このカーテン取ればいいのか?」と言って少し背伸びをしてカーテンを取ってくれた。おお、さすがユウ君。椅子も使わずカーテンを取って見せた。さすが177センチ。(まだまだ伸びてるそうな。)


「高いところは他の人にまかせろ。お前じゃ怪我するだけだ。」

「し、しつれいな…!この野生のダスキンである私に…!」

「掃除代行サービス以前に椅子から落ちそうになってる奴が何言ってんだよ。」


べちっと額を叩かれた。ぬ、ぬぅ…。叩かれた額を抑えてユウ君を睨めばユウ君は「しっかりしろよ神田家長女」と言って笑った。くっそ!このイケメンめ!無駄にかっこいいんだよチクショー!どんなに言われてもこの笑顔されたら許してしまうではないか!


「あ!神田さんいたいた!こっち!机運んでくれるぅ!?やっぱ若い人じゃないと無理みたいよぉ!」


と最初にユウ君を拉致…違ぇ、連れてったおば様がユウ君に言った。微かにユウ君が舌打ちしたのを私は聞き逃さなかったよ!ユウ君は腕を捲くって「今行きます」と言って掃除機を私に持たせた。あ、ちょ、私、まだカーテンの金具取るのとカーテン畳むのと、まとめて置くのと、また窓を拭くという作業が残っているのだが…、とユウ君を見上げた。すると、


「あんま無茶すんなよ。」


ふ、と換気をして冷え切った私の頬に温かい、優しい唇の感触がほんの一瞬、ふってきた。


「っ〜〜〜!?!?」


がたんっと驚きのあまり今度こそ椅子から落ちそうになったけど、またユウ君が腕を取って支えてくれた。なななななな、いいいい今、ちゅ、ちゅちゅちゅ、自治会館でっ、そ、掃除…!そうじちゅうにちゅう…!ほっぺにちゅ…!!

慌てて周りを見渡せばその瞬間は誰も見ていなかったらしく、椅子から落ちそうなった私を見て「あらあら大丈夫!?」とちょうど雑巾を洗って戻ってきたおば様が心配してきてくれた。え、あ、ちょ、ちょっとだ、だいじょうぶじゃ、な、いです。「神田さぁん!?」待ちきれないとばかりにユウ君を呼ぶ声が聞こえてユウ君は「またな、」と言って私の頭に手を置いて行ってしまった。


「あら、かっこいい人ね。どこのお宅の人かしら?」

「か、かんだ、です…。」

「え?」

「わ、私のおとうと…です。」

「あらぁ!かっこいい弟さんね!」


と声を上げたおば様を隣に、私はチュウされたほっぺに手をあてた。おば様に「あら、顔が赤いわよ?」って言われたけど、これはきっと、換気中、開けた窓の冷たい空気にやられた、とでも言っておこう。うん。ぜったいにそうだっ!





おねえさんとユウ君



御近所付き合い。









(こんな若い人がいたら近所パトロールも安心ねぇ!)

(…なんで俺っぐぁ…!)

(喜んでやるそうです!)

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