この瞬間が、一番幸せ。






みの中で見る夢の色






うっすら開けた目がぼんやりした世界をとらえる。
部屋の中の薄暗さとひんやりした空気。
朝が、近い。
しかし眠気は依然として強く、どことなく朧気な意識でふわふわと漂っていた。
…まだ眠っていていいだろう。もう一度眠ろう。
そう思い目を閉じて、ぼんやりした頭で手を伸ばした。


「…む」


ふと違和感を感じて、とろりと溶けていた意識が浮上した。
寒い。
もぞり、体を動かす。
関節がぱきりと鳴った。
何かを探すように指がシーツの海をさ迷う。
いつもならすぐに届くはずの熱が、ない。


「………た、かお…?」


掠れた声がでた。
無意識にこぼれ落ちた単語。
そうして初めて、自分が感じた違和感の原因と探していたモノを知る。


「…呼んだ?真ちゃん」


背中側から声がかかって、ぴくりと肩が震えた。
ころりと寝返りをうち先程よりも頑張って目を開ける。
高尾が、何事もなかったかのように蓋のあいたペットボトルを持って立っていた。
おはよ、なんて呑気に笑うその顔に少しだけイラつく。
たかお、もう一度、今度は意思を込めて名を呼べば奴は律儀に近づいてきた。


「ん?どったの?」


ぎしり、高尾が手をついたせいでベッドが軋む。
伸びてきた腕をぐいと引っ張った。
うわ、という間抜けな声と共に奴は布団にダイブ。


「真ちゃん?なんか機嫌悪いの?」


鼻をさすりながら高尾はごそごそと布団にもぐってきて、いつもの位置に収まった。
温かい。
パズルがぴたりとはまるように消えた違和感、同時に眠気がやってくる。


「…たかお」
「ん?」


髪を撫でられる感触がくすぐったくて、逃れるように胸に顔を埋めた。
驚いたのか高尾の心音が早くなる。
いい気味なのだよ。


「真ちゃん?」


非常に癪で認めたくないが、自分自身が無意識のうちに証明してしまったのだから言い逃れはできない。
隣に温もりを感じ、こうして微睡むことが気持ちよいと感じてしまう。
隣に高尾がいることが、当たり前になっている。


「つぎからは、俺がおきるまでよこになっていろ。ばかめ」


どくん、と目の前の心臓が跳ねた。
え。え、それって…とわたわたと高尾が慌て出すが言葉を返すのも億劫で、ぐりと額をその胸に押し付けた。


「も…真ちゃん可愛い。大好き」


きゅうと抱き締められた。
少し苦しいが嫌な気はしない。
可愛い、だけ余計なのだよ…。
それだけなんとか声に出した気がするが曖昧だ。


微睡みの中では全てがあやふやで淡い色をしている。
世界と自分との境界線が消えていく。
隣にある温もりが自分に同化して、ふわふわと、温かく溶けていくようだ。
心地よくて擦り寄る。
より一層柔らかくなった気配に、ゆっくりと自分は意識を手放した。


「おやすみ、大好きだよ」


ふわり、と髪にキスが一つ落ちてくる。
この瞬間が、一番幸せ。









たまには甘える真ちゃんを。




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