クリスマスの幸福

*『憂鬱』続きの笠黄





黄瀬は今全力で走っていた。
手には小さな紙袋を握っている。
仕事が終わって疲れている体に鞭うって、先を急ぐのにはわけがある。

『起きててやるから、仕事終わったら連絡しろ』

不貞腐れて帰ってきた自分の家のドアノブに、引っ掛かっていた紙袋。
中には手袋とメモ用紙。
見慣れた文字を見た瞬間に駆け出した。
走りながらメールを送る、今から行きます!と。

嬉しさと驚きとが溢れだし、目的地であるとある家の外に立っている姿を見つけて愛しさが込み上げて、思い切り抱きついた。

「よ、おつかれさん」

冷たくなった体で自分を抱き止めてくれた先輩が、わざわざ寝ないで待ってくれていた先輩が、プレゼントを用意してくれた先輩が、
愛しくて愛しくて止まらない。

「先輩…、ありがと」

やっぱり黒子と緑間の言う通りだったのだ。

『先輩は絶対黄瀬くんを喜ばしてくれますよ、だってとっても愛されてるじゃないですか』
『…おまえなんかに勿体ない人なのだよ』

ありがとう2人共。

「どーいたしまして」

ぽんぽんと頭を撫でられて、擦り寄る。
ぎゅうと力強く抱き締められて胸が熱くなった。

「で、俺へのプレゼントは?」
「……へ?」

どうせ今年は仕事だから、クリスマスなんてないんだと思っていた黄瀬は笠松に言われて気がついた。

「あぁああっ!すみませんっス!!」

プレゼントを用意していないなんてなんという不覚!
あわあわと慌てる黄瀬に、しかし笠松はにやりと笑うだけ。
ぐいと胸元を掴み引き寄せ、よくわからない単語を発していた唇を、塞ぐ。
ふわりと舞い降りてきた雪が黄瀬の金髪に溶けた。

「…雪、降ってきたな」
「…はい」
「今日はうちに泊まってけ」
「!」
「それでチャラだ」

悪戯っぽく、嬉しそうに微笑む笠松に、頬を染めながら黄瀬は頷く。

雪の静かに降る聖夜は、色んな人を優しく包んでしんしんと更けていく。








(あと一つ!)










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