▼クリスマスの誘惑 *『憂鬱』続きの火黒 「…で、黄瀬はどうしたんだよ」 「ちょっとだけ元気になって帰りましたよ」 ふぅん、と隣に並んで歩く火神は頷いたがありありと納得していないオーラが漂っていた。 それを楽しそうに見ながら、ふふっと黒子は笑う。 「何て言ったらあの鬱陶しいのが黙るんだ」 「それは秘密です」 「…ふん」 ちょっと拗ねたような気配を感じて、かわいいなぁなんて思いながらそっと大きな手を握った。 部活帰りの暗い道、すれ違う人はいない、聖夜。 刺すような空気の冷たさの中、ふと灯った温もりにぴくりと肩を震わせた後、火神はぎゅうと小さな手を握り返す。 「…なぁ黒子」 「なんですか?」 「うち、泊まってくか?」 どきり、跳ねた心臓に頬が熱くなる。 さっきまでの余裕はどこへやら。 俯いてしまった黒子を見て今度は火神が微笑んだ。 「明日も部活あるし、なんもしねーよ」 「……」 「ちょっとだけなら飯も用意してあるぞ」 「…バニラシェイクがあるなら」 「っし、買って帰るか」 照れ隠しに言った言葉でも、にかっと心から嬉しそうに笑われてほわっと黒子の胸が温まる。 はい、と呟いた返事は火神に届いただろうか。 繋いだ腕をくん、とひいて肩に額を預けた。 「Merry Christmas」 耳元で囁かれた甘い声と流暢な英語。 ぼん、と頬が熱くなったのは内緒。 (まだ続きます) |