▼さぷらいず(笠黄) *黄瀬っちが女の子です、先輩と初デートです。 苦手な方はご注意ください。 黄瀬は今、満ち足りた気持ちでベンチに座っていた。 にこにことなんでもないのに頬が緩んでしまう。 チラと向かい側にある店のショーウインドウに自分の姿が映って、にやけた顔と目があった。 頭の先から爪先まで、何日も前から何度もコーディネートを考えた。 化粧だって研究した。 全部、先輩に可愛いって、ちょっとでも思ってもらうために。 そうしてドキドキしながら迎えた待ち合わせの時間。 ちょっぴり不安の混じったまま先輩の様子を伺えば、ちょっと驚いたみたいに目を見開いた後、 …かわいいな、って。 はにかみながら笑ってくれた、それだけで世界が薔薇色になった。 そんなことを思い出しながら、ガラスに映る自分に笑いかけた。 今日は、本当に本当に幸せだね、って。 「なーにニヤついてんだ」 「わっ!先輩!!」 ちょっと待ってろと言って何処かに行ってしまった先輩が、まさか真後ろにいるだなんて思ってなくて、飛び上がって驚く。 そんな様子に苦笑しながらも、行くぞって手を差し伸べてくれる。 繋いで歩ける、その手が嬉しい。 「ねぇ笠松センパイ」 「んー?」 「今日は、ありがとうございました」 しっかり繋がった手に幸せを感じながら、家路につく。 少し紅が混じり始めた空。 もうすぐお別れしなくちゃいけないと思うと寂しいけれど、今日だって駄々をこねて付き合ってもらったのだ、これ以上先輩を困らせちゃいけないとぐっと我慢する。 「すっごく楽しかったっス」 滲み出る気持ちを素直に伝えると、ぴたりと先輩の足が止まった。 「…センパイ?」 どうしたの?と問いかければ、やんわりと繋がっていた手を離されて、代わりにポンと小さな箱が置かれる。 「やる。開けてみ?」 「えっ!?」 いそいそと開いた包みの中から出てきたものは。 「…これ…」 「欲しがってたろ?」 「どうして…」 「初めての記念だ」 ずっと自分が気になって見ていたヘアピン。 一言も口に出していないのに、まさか気づかれてたなんて。 大事にしろよ、なんてニカリと笑う先輩が眩しすぎてかっこよすぎて、クラリとする。 「でっ、でもセンパイ!私センパイに何も用意してない…」 「ん?」 こんなに素敵なサプライズをくれたのに、自分は何もできないのが嫌で、歩き始めようとした先輩を呼び止める。 あー…、なんて、先輩は何か考えるように明後日の方向を見た後、私に向き直った。 夕焼け空に照らされて、先輩の頬が赤い。 「…涼」 「……え?」 ふわりと、降ってきた感触。 反射的に目を閉じる。 一瞬で離れたそれは、確かに唇。 先輩の顔がさっきより紅くて、キス、されたのだと悟る。 「かっ、かか笠松センパイ!!?」 「うっせー、お返しもらっただけだ!」 行くぞ!なんて言ってすぐにそっぽを向いてしまって、ものすごい速さで歩き始めてしまったけれど、 先輩の手はしっかり自分の手を握ってくれていて。 色んなことがあったけど、夕焼けに染まりゆく街を早足で歩きながら、 やっぱり今日は幸せだ!! そう感じながら黄瀬は満面の笑みで、笑った。 さぷらいず (極甘だっていいじゃないたまには) |