さぷらいず(笠黄)

*黄瀬っちが女の子です、先輩と初デートです。
苦手な方はご注意ください。














黄瀬は今、満ち足りた気持ちでベンチに座っていた。
にこにことなんでもないのに頬が緩んでしまう。
チラと向かい側にある店のショーウインドウに自分の姿が映って、にやけた顔と目があった。

頭の先から爪先まで、何日も前から何度もコーディネートを考えた。
化粧だって研究した。
全部、先輩に可愛いって、ちょっとでも思ってもらうために。
そうしてドキドキしながら迎えた待ち合わせの時間。
ちょっぴり不安の混じったまま先輩の様子を伺えば、ちょっと驚いたみたいに目を見開いた後、
…かわいいな、って。
はにかみながら笑ってくれた、それだけで世界が薔薇色になった。

そんなことを思い出しながら、ガラスに映る自分に笑いかけた。
今日は、本当に本当に幸せだね、って。


「なーにニヤついてんだ」
「わっ!先輩!!」


ちょっと待ってろと言って何処かに行ってしまった先輩が、まさか真後ろにいるだなんて思ってなくて、飛び上がって驚く。
そんな様子に苦笑しながらも、行くぞって手を差し伸べてくれる。
繋いで歩ける、その手が嬉しい。


「ねぇ笠松センパイ」
「んー?」
「今日は、ありがとうございました」


しっかり繋がった手に幸せを感じながら、家路につく。
少し紅が混じり始めた空。
もうすぐお別れしなくちゃいけないと思うと寂しいけれど、今日だって駄々をこねて付き合ってもらったのだ、これ以上先輩を困らせちゃいけないとぐっと我慢する。


「すっごく楽しかったっス」


滲み出る気持ちを素直に伝えると、ぴたりと先輩の足が止まった。


「…センパイ?」


どうしたの?と問いかければ、やんわりと繋がっていた手を離されて、代わりにポンと小さな箱が置かれる。


「やる。開けてみ?」
「えっ!?」


いそいそと開いた包みの中から出てきたものは。


「…これ…」
「欲しがってたろ?」
「どうして…」
「初めての記念だ」


ずっと自分が気になって見ていたヘアピン。
一言も口に出していないのに、まさか気づかれてたなんて。
大事にしろよ、なんてニカリと笑う先輩が眩しすぎてかっこよすぎて、クラリとする。


「でっ、でもセンパイ!私センパイに何も用意してない…」
「ん?」


こんなに素敵なサプライズをくれたのに、自分は何もできないのが嫌で、歩き始めようとした先輩を呼び止める。
あー…、なんて、先輩は何か考えるように明後日の方向を見た後、私に向き直った。
夕焼け空に照らされて、先輩の頬が赤い。


「…涼」
「……え?」


ふわりと、降ってきた感触。
反射的に目を閉じる。
一瞬で離れたそれは、確かに唇。
先輩の顔がさっきより紅くて、キス、されたのだと悟る。


「かっ、かか笠松センパイ!!?」
「うっせー、お返しもらっただけだ!」


行くぞ!なんて言ってすぐにそっぽを向いてしまって、ものすごい速さで歩き始めてしまったけれど、
先輩の手はしっかり自分の手を握ってくれていて。


色んなことがあったけど、夕焼けに染まりゆく街を早足で歩きながら、
やっぱり今日は幸せだ!!
そう感じながら黄瀬は満面の笑みで、笑った。





さぷらいず
(極甘だっていいじゃないたまには)








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