▼真夜中の攻防(日月) 眠れない…。 じっと目を閉じていた伊月はついに諦めて瞼を開いた。 見慣れない天井、いつもと違う感触の枕、同じ空間に感じる自分以外の寝息。 そっと頭をもたげて回りを見回す。 水戸部も小金井も土田も木吉も、腹が立つくらいよく眠っていてため息を吐いた。 当たり前だ、みんな疲れてるんだから。 自分だってくたくたなはずなのに、妙に目が冴えてしまって眠れない。 月の光が優しく差し込む部屋の中、伊月は1人、息を殺してじっと天井を見ていた。 気が立っている。 合宿初日だからと、気合いを入れすぎてしまったか… ふぅ、と息を吐いてころりと転がり、隣に眠る人物を見る。 「…くそー。恋人が苦しんでるってのに」 腹いせに軽く足を伸ばして爪先を蹴った。 しかし身動ぎ一つしない、死んだように隣に眠る日向。 主将としていつも気を張っていて、自主練だって誰よりも遅くまでやっていたのを自分は知っている。 だから、こちらが眠れないから、といった我が儘で起こそうとは思わない。 ただ、なんとなくやっぱり寂しい。 「…ちょっとだけ…」 もそ、もそ…っと細心の注意を払い、伊月は体を動かした。 そぉ…と自分の布団を抜け出し、音を立てないよう日向の布団に潜り込む。 吐息が感じられるギリギリのところで動きを止めた。 様子を伺ってみるが起きる気配はない。 ほっと息をつき、伊月は体の力を抜いた。 「…日向のにおいだ…」 これなら寝れるかも…なんて。我ながらどうなんだろう。甘えすぎだ。 そうは思うがもう体が動きたくないと訴えてくる。 そっと、日向のTシャツの裾を掴んで目を閉じた。 「…え?」 「ん…」 しかし伊月はすぐに目を見開くことになる。 「わわっ、わっ!?」 今までピクリともしなかった日向の腕がおもむろに伸び、隣にいた伊月の肩をぐいと掴む。 そして思い切り引き寄せた。 置いていかれた足は日向のそれに絡めとられ、これまたぐいと引っ張られる。 気づけばあっという間に2人の体は密着し、伊月は日向に抱え込まれる形になった。 「ちょっ…え?日向、起きてる??」 「ん…」 「…じゅんぺー?」 下から覗き込むように見つめてみるが、規則正しい深い呼吸は変わらず、瞼が開く気配はない。 じゅんぺい?ともう一度呼ぶと、んぅ…とぐずる声と共により一層近くに抱き込まれた。 「…ん……しゅ…ん…」 吐息と共に名前を呼ばれ、びくりと体が震えるがやはり、相手が起きる気配はない。 「…寝ぼけてる?」 ドキドキと飛び出しそうなほど五月蝿かった心臓は、日向の気持ち良さそうな寝顔によって徐々に落ち着いていった。 くすり、と思わず笑みがこぼれる。 そっと胸に耳をつけてみればとくん…とくん…と優しいオト。 それに耳をすませながら、ゆっくりと伊月は目を閉じた。 「…おやすみ」 今度こそ、眠れる気がする。 近づいてくる睡魔におとなしく身を委ね、温かな体温と匂いを感じながら伊月は眠りについた。 翌朝。 真っ赤になった日向の悲鳴から誠凜高校合宿二日目が始まったそうな。 真夜中の攻防 (合宿捏造。そこはかとなくアダルティーなタイトルなのに全然違う(笑)) |