不協和音(高緑)




ぬぐいされない違和感に、妙に胸がちくちくする。
笑っているその顔は、いつもと変わらないのに。


「…何かあったのか高尾」
「ん?なーんもないよ?」


にこり、笑う顔。
提供される話題。
さりげなく配られる気遣い。
それはいつもと変わらないはずなのに。
違和感が、小さな刺となって胸に突き刺さり訳のわからない焦燥感が沸き上がる。
不協和音が自分を追い立てる。
たまらず足をとめた。
数歩遅れて立ち止まる、少し前にある背中を見て。


「……嘘だ」


ぽそり、呟けばぴくりと小さく肩が揺れる。
真ちゃん?と。
こちらを振り返る目が揺れていることに、気づかないとでも思ったか。


「嘘を吐くな、高尾」


じっと、真っ黒なその瞳を覗き込むように。
体の横に垂らした拳に自然と力が入る。
睨むように見つめていたら、だんだんと高尾の体から力が抜けていって、貼り付けられていた笑みが消えた。


「俺を誤魔化せるわけないだろう」


俺に、嘘を吐くな。
そう言えば高尾は、ふっと、諦めたように息を吐いた。


「…真ちゃんには敵わないなぁ」


ちょっとね、いっぱいいっぱいになっちゃって。
とぽそりと呟いた高尾は困ったように笑った。


「ありがと真ちゃん、心配してくれて」


そのまま踵を返した高尾の腕を、思わず掴んで引き止める。


「あ…」


無意識の行動に、自分自身も驚く。
強く掴んだ自分の手と驚いたように固まっている高尾の顔を交互に見比べて。
しかしここで手を離すのは間違っているような気がして、すがるように手に力を込めた。


「…真ちゃん」


時が止まったかのような沈黙の中、先に動き始めたのは高尾で。
掴んでいた腕から力が抜けていき、半分だけこちらを向いていた体がすべて自分の方に向き直る。
手を離すことは相変わらず出来ずに、動けずに。
ただ見つめていたら、無理矢理表情をつくることをやめた高尾がゆっくりと近づいてきた。
とん、と肩に衝撃と伝わる熱。

「…しばらく、このままでいい?」

何もしないから、と。
肩口に額を乗せたまま言う高尾の腕はだらりと下に垂れていた。
それを見て、どうしようもない気持ちに駆られてぎゅっと、その体を抱き締めた。


「…バカ尾のくせに」
「ん?」
「…バカはバカらしくしていればいいのだよ」


気のきいたところの欠片もないそんな言葉に、高尾は小さく吹き出した。
いつもより弱々しく絡み付いてきた腕の代わりに、自分の腕に力をこめる。


「…ありがと、真ちゃん」
「…ふん」


いつもと違うと調子がでない。
だから、早く、早く元に戻れと。
どちらがすがり付いているのかわからないくらい抱き締めあった。

互いの心臓の音が溶け合い、体温が同化するくらいになってようやく顔をあげた高尾の表情を見て、心から安堵したのは秘密だ。






(へへ…)
(…何なのだよ)
(俺ってやっぱ愛されてるな〜って)
(…調子にのるなバカ尾め)







不協和音
(飄々とした高尾のちょっとした変化を見逃さないのはきっと緑間だけだと信じています)







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