Unbrella(傘)

笠黄




微妙に背を丸めて、差し出される傘に入る。

「…先輩、俺が傘持つっスよ」
「いいって言ってんだろ」
「や、でも傘忘れて入れてもらってんの俺だし…」
「…俺のほうが背、低いからってか?」
「いやいやそんなこと思ってないっス!!」

なんてくだらないやり取りを繰り返してたら、あっという間に俺の家に着いてしまった。
いつもは先輩と帰っても一緒なのは分岐点までなのに。
今日は突然の雨で、傘を持ってなかった俺のために家の前まで送ってくれた。
ちょびっと肩が濡れちゃったけど、そんな優しさが嬉しくて、すぐ近くにあった温もりが無くなってしまうのがさみしい。

「じゃーな、朝練遅刻すんなよ」
「はいっス!ありがとうございました!!」

先輩の傘から家の軒先にパッと移動して振り向く。
するとそこには、踵を返した先輩の背中があって。

「っ!?センパイ!!」
「あ?」

びっくりした。
俺のいた側と反対側の肩が、俺なんかと比べ物にならないくらい濡れていて、制服の色が変色するぐらいぐっしょりで。

「先輩、肩…」
「あ?あー…」

きまりが悪そうに頬を掻いて、言葉を濁した先輩は急に俺に視線を戻す。

「おまえは濡れたか?」
「いえ、全然濡れてないっス!」
「ん。ならいい」

またな、なんて笑って手を振って遠ざかっていく先輩の半分濡れた背中を見つめながら、
すごくを傾けてくれていたのだと、気づいてしまったらどうしようもなく切ないくらい胸がときめいた。

「…先輩の天然タラシ」

悔し紛れに呟いた憎まれ口は雨粒と共に弾けて消えた。






Unbrella
(天然男前な先輩が大好物です)







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