Loss time(無駄な時間)

高緑




確かに焦っていた自覚はある。
あいつらに負けて以来、自分に自信を無くしていたのかもしれない。
もっと、もっと強く。
そう思っていた矢先がこれだ。

「真ちゃんは真面目すぎ」
「……」

仰向けに寝た更衣室のベンチ。
床に座り込んで目線を合わせた高尾が苦笑する。

「ぶっ倒れたら、意味ないっしょ」
「だが…」
「みんな心配してたぜ」
「…」

こうしている時間すら惜しい、と思った。
動かない体が悔しい。ボールに触れたい。
そう思ったのが顔に出たのだろうか、高尾がいつになく真剣な顔で、覗き込んできた。

「真ちゃん」


無駄な時間なんて、ないんだよ。


優しく髪を撫でる掌、
力強い瞳に声。
それらに圧されて何も言えなくなる。

「こうやって真ちゃんがぶっ倒れたのだって、体が休めって言ってるからなんだよ。今は、真ちゃんにとって必要な時間」
「高尾…」
「俺だって真ちゃんが心配だからここに付き添ってるの。だから俺にとっても必要な時間」

一人で背負うなよ、と諭すような口調に、すぅ…と何かが溶けていった。

「…高尾」
「ん?」
「首が痛い」

一瞬きょとんとした高尾だが、すぐに理解したらしくはいはいと笑いながら膝を提供してきた。
眼鏡を外され、横を向いて高尾の腹に顔を埋める。

ゆっくりしたリズムで髪を撫でられて、眠くなってきた。
タイミングよく寝てもいいよ、との声が降ってきたのでおとなしく目を閉じる。

無駄な時間なんてない、か…
高尾の言葉は俺の胸に染み渡り、久しぶりに、心から安らげる気がした。






Loss time
(vs誠凛後。たまには器の大きな高尾を)







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