▼Loss time(無駄な時間) 高緑 確かに焦っていた自覚はある。 あいつらに負けて以来、自分に自信を無くしていたのかもしれない。 もっと、もっと強く。 そう思っていた矢先がこれだ。 「真ちゃんは真面目すぎ」 「……」 仰向けに寝た更衣室のベンチ。 床に座り込んで目線を合わせた高尾が苦笑する。 「ぶっ倒れたら、意味ないっしょ」 「だが…」 「みんな心配してたぜ」 「…」 こうしている時間すら惜しい、と思った。 動かない体が悔しい。ボールに触れたい。 そう思ったのが顔に出たのだろうか、高尾がいつになく真剣な顔で、覗き込んできた。 「真ちゃん」 無駄な時間なんて、ないんだよ。 優しく髪を撫でる掌、 力強い瞳に声。 それらに圧されて何も言えなくなる。 「こうやって真ちゃんがぶっ倒れたのだって、体が休めって言ってるからなんだよ。今は、真ちゃんにとって必要な時間」 「高尾…」 「俺だって真ちゃんが心配だからここに付き添ってるの。だから俺にとっても必要な時間」 一人で背負うなよ、と諭すような口調に、すぅ…と何かが溶けていった。 「…高尾」 「ん?」 「首が痛い」 一瞬きょとんとした高尾だが、すぐに理解したらしくはいはいと笑いながら膝を提供してきた。 眼鏡を外され、横を向いて高尾の腹に顔を埋める。 ゆっくりしたリズムで髪を撫でられて、眠くなってきた。 タイミングよく寝てもいいよ、との声が降ってきたのでおとなしく目を閉じる。 無駄な時間なんてない、か… 高尾の言葉は俺の胸に染み渡り、久しぶりに、心から安らげる気がした。 Loss time (vs誠凛後。たまには器の大きな高尾を) |