▼炭酸水の味 福蒼更新です。 夏らしいことしなかったなぁ今年は… って管理人がしみじみ後悔しているため2人に夏っぽいことさせてみました◎ ↓ カランコロンと心地よい音が石畳に響く。 少し慣れない足元に注意しながら薄暗がりの道を歩いていると、大丈夫か?と声が降ってきた。 「大丈夫ですよ」 見上げたところにある顔に笑いかければ、危ないから、と手を握られた。 炭酸水の味 近くの神社で祭りがあるから、たまには夏らしいことしようぜ!って言い出した福田さんに賛同して福田組で夏祭りに行くことになりました。 香耶さんも一緒に行くということで、彼女に誘われるまま浴衣に身を包み、ちょっと慣れない下駄を履いて集合場所へ。 一番に出会ったのは、一番見てもらいたいと思っていた人でした。 「お、蒼樹嬢!早いな」 にこにこと、どうやらご機嫌な福田さんは私を見つけて手を振ってくれた。 残念ながら彼は浴衣を持っていないから、と普段着だったが、それでも鼓動は早くなる。 「福田さんも早いですね」 「言い出しっぺが遅刻するわけにいかねーからな」 「他の方は?」 「まだ来てないぜ」 そっと隣に立って彼を見上げる。 背の高い彼の向こう側に朱に染まる鳥居が見えた。 「……」 「?どうかしましたか?」 じっと見つめられる視線を感じてドギマギしたが、彼はニカっと笑って何でもないと言った。 よっぽど機嫌がいいみたいです。 「にしてもあっちぃなぁ」 夏の名残の暑さは残暑と呼ぶには酷すぎて、福田さんのこめかみから汗が伝って落ちた。 持ってきたうちわを、すっと差し出す。 「福田さん、使いますか?」 「お、サンキュー。…って蒼樹嬢のが暑いだろ」 「まぁ…暑くないとは言えないです」 ハンカチで鼻から口元を押さえた。 うっすらとかいた汗を吸いとり、パタパタと扇ぐ。 頑張って化粧をしたのに、このままじゃ汗で落ちてしまいそう。 恥ずかしくなって少し俯いた。 蝉がどこか遠くで鳴いていて、夕焼け空に溶けていく。 「…お、」 「?」 「ちょっと待ってな」 ぱっと駆け出していった福田さんの背中。 それがついさっきまでもたれていた鳥居にぴとりと寄り添う。 触れた肩からじんわりと、熱が浸透してくる気がした。 このまま2人きりで、お祭りに行けたなら。 他の人たちに対してとても失礼な考えが浮かんで、慌てて頭を振った。 チャリ、と簪が耳元で鳴る。 「…っきゃ!!?」 ぴとりと俯いていた頬に冷たくて濡れたものがあてられて、悲鳴が漏れた。 それに被さるような笑い声、目の前に差し出されたのは透き通った水色の硝子瓶。 「福田さん…?」 「ほら、ラムネ。ちょっとは涼しくなるだろ」 ぴとぴとと瓶で頬を叩かれて、にやりと笑われた。 その悪戯にムッとなって、ラムネ瓶を取り上げる。 濡れた頬をハンカチで押さえ、ぽそりとお化粧がとれちゃうじゃないですか…と、俯き加減で呟いた。 「化粧なんか必要ねーじゃん」 「……ぇ?」 聞こえた声に思わず顔をあげる。 思っていたより近くに福田さんの顔があった。 「化粧なんかしなくても、蒼樹嬢は……――」 一際大きく鼓動をうった胸の音は、福田さんに聞こえてしまったでしょうか。 不自然なところで言葉を切って、じっと見つめられて、目をそらせない。 先に視線を外したのは、ふっ…と柔らかく微笑んだ福田さんでした。 プシュっと軽快な音がして、溢れ出す透明な泡。 手を伝っていく冷たそうな液体を払い、封を開けたラムネ瓶を差し出してくれた福田さん。 ありがとうございます…とおずおずとそれを受け取った。 頬が赤いのは夕焼け空のせいにしてしまおう。 頬が熱いのは夏の名残の暑さのせいにしてしまおう。 こくりと飲んだラムネはとてもおいしかった。 しばらく待つとみなさんが集合場所にやってきて、そのころにはもうまわりは薄闇で。 「じゃあ行きましょうか」 高木さんがそう声をかけたのをきっかけに、ぞろぞろとみんなが動き始めた。 カランコロンと心地よい音が石畳に響く。 少し慣れない足元に注意しながら薄暗がりの道を歩いていると、大丈夫か?と声が降ってきた。 「大丈夫ですよ」 見上げたところにある顔に笑いかければ、危ないから、と手を握られた。 驚いて福田さんの顔を覗き込めば、さっきみたいにとても柔らかく笑っていて、繋いだ手がとても熱くて。 私も何も言わずに、その掌を握り返した。 「わざとはぐれちまうか…」 最後尾をゆっくり歩きながらあなたがそう言って笑うから、私はそっと繋いだ手を引っ張った。 2人でそっと足を止めて人波に消える。 お囃子の音が、夏の名残の空に吸い込まれていった。 |