ビタースイートチョコレート



福蒼ですよ!
悩む蒼樹さんです。

sssの更新が楽しすぎてうっかりこっちより活性化してしまいそうなので頑張ります(笑)








ビタースイートチョコレート



電話でネームを直してもらっていたら『埒があかない!』ということになり、いつものファミレスに集合。
回りの目はお構い無しの大音量にうっかり自分もつられてしまって居たたまれなくなる。
いつも通りのいつもの光景。

「福田さんといるとペースが乱れます…」

ふぅ、とドリンクバーのカップを傾けてため息をつく。
中身はすっかり冷えきってしまったブラックコーヒー。
その舌触りに少し眉をひそめる。
そーか?なんてとぼけたように言う彼の喉が少し枯れているのがおかしかった。

「うわ、すっかり冷たくなってやがる」
「長い時間お説教されましたから」
「あんたが中々パンチラの見せ方を習得しないからだろ」

まっずいな冷めたコーヒー。
なんて言って一気に飲み干した彼はそのままの勢いで立ち上がって手を差し出す。

「え?」
「コーヒーがいいか?」
「持ってきてくださるんですか?」
「あんたのだって冷えきってんだろ?」

ついでだ、ついで。という彼に甘えて温かいココアをリクエストした。
ドリンクバーに向かう長身な背中をぼんやり見ながら、変わったなぁとふと思う。

いつの間にか彼と顔を合わせていても平気になってしまった。
以前はその『いかにも』な容姿や口調に辟易していたけれど…
辟易していたはずだったけれど。
彼の行動がその信念に裏打ちされたものだということを知ったのはあのボイコットの一件からだった。
仲間思いの人なんだということを知ったのも。
彼の揺らがない信念は私自身共感のできるものだった。
このとき初めて、自分が第一印象から相手を決めつけて頑なにそのイメージを通そうとしていることに気がついた。

彼は積極的に人と関わろうとする。
自分のよいと思うものを人と共有しようとする。
そのためには相手とぶつかる労力を辞さない。
そして相手の言い分を理解したら認めることができる柔軟さがある。
私とは正反対。
その事実に気づくことができたのは、つい最近。
私は頑なに他人を拒んできた。
様々な人を自分とは違うと決めつけて視界から消していた自分が恥ずかしく、もったいないことをしてきた、と思う。
実際人は素晴らしいものをもっている。
私なんかでは想像できないくらいの1人1人の才能を。
それに気づくことができたのは、

「なーにぼんやりしてんだ?」

相変わらず言葉遣いは乱暴なこの人のおかげ。
だと思う。

「福田さんは意外とまめな方だなぁとぼんやり思っていました」
「意外とは余計だろ」

彼が持ってきてくれたホットココアは両手でカップを包み込むととても温かかった。
優しい人だな、と思う。
私のことだって嫌いだと言っていたのに、
中井さんだってもう知らないって言っていたのに(これは後から真城さんに聞いた)、
結局最後は助けてくれる。

あのままだったら私は、本当に、人を信じることができなくなりそうだった。
初めて人と話すことが楽しいと、人との出会いの喜びを感じはじめていた自分の心を閉ざすところだったのを、
颯爽と現れた彼が救ってくれたのだ。
(あのときのセリフは少しどうかと思うけど)

「…福田さんは」
「あ?」
「…なんでもないです」
「なんだよ気になるだろ」

どうして私なんかを助けてくださったんですか?
そう聞こうと思ったのに、聞けなかった。
どうして?
何かが私にブレーキをかける。

「……」
「ん?」

私の言葉を待っていてくれる彼に、やはり聞くことはできなくて、まったく違う話題を提供した。
彼は怪訝に思うでもなくそれに答えてくれた。
案外盛り上がったその話題をしかし私は覚えていない。

どうして自分は聞けなかったのか。
それは答えを聞くのが嫌だったから。

「お、もうこんな時間」
「え?」

見ればファミレスの時計は17時を過ぎていた。

「す、すみません!まだ原稿途中だったんでしょう?」
「あーいいって、指示全部安岡に出してきたし。ファミレスに来いって言ったの俺だし」
「でも…」
「だぁから、気にすんなって」

ぽんぽん、頭を撫でられて肩を竦める。
明るい店内で頬の赤さがばれていないか心配だった。

彼の掌は、とても大きい。

そそくさと立ち上がってコートを着て、会計をすませる。
いつもドアを開けていてくれる彼に目で会釈して、小走りで飛び出した外は寒くて身震いをした。
ずり落ちたマフラーを直す。

ここからうちまで、彼はいつも送ってくれる。
どれだけ大丈夫だと言ってもついてきてくれる。
そんな優しさが嬉しい。
自分の家が見えてくると悲しい。
もうすぐお別れ。
そう思うと胸がぎゅっとなる、なんて。

そんな自分を振り切って、お礼を言おうと振り向いたら、灯り始めた電灯と、藍色と紫と橙色が混じった綺麗な空の下に彼はいつになく神妙な顔をして立っていた。
ドキリとする。
胸がやけるようで声がでない。

「じゃ、またな。ネーム直しとけよ?」

バイクのエンジンがかかる。
私の頭をぽん、と撫でてくれた掌が離れて、
行ってしまう、それなのに、

「…はい」

声が震える。
行ってしまう、行ってしまうのに。

「っまた、電話してもよろしいですか!?」
「あ?!あったりまえだろ!」

じゃーな、そう言って爆音と共に小さくなっていく背中。
お礼をいい損ねたことにふと気づく。
あたりが静まり返っても、体に残った重低音の響きが消えない。

答えを聞くのが怖かった。
『仲間だから』なんて、福田さんにとっては当たり前かつ重要な理由。
それに満足できなくなっている自分。
だから聞けなかったのだ。
私はきっと、福田さんが好き。
彼といると楽しい、笑ってくれると嬉しい、声がもっと聞きたいと思う、会いたいと思う。
でも気持ちを確かめるのが怖い。
彼にまで拒絶されてしまっては、私は、私は、
本当に、本当に壊れてしまうから。





ポケットに入れていた携帯が突如振動して、慌ててかじかむ指でそれを取り出す。
メール?彼からだ。
高鳴る胸にせかされて、開いた画面には短い文。


『原稿途中でも、会いたくなったから呼び出したって言ったら、怒るか?』


心臓が止まるかと思った。





貴方が好きなのに、
好きですと言えない、
そんな臆病な私を許してくれますか??









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