綾取ラヴァーズ


一万打企画第三段です!














その日は朝から暑かった。





綾取ラヴァーズ





「あっつー」

扇風機の前を陣取った俺はだるーん、としたまま呟いた。
梅雨の中途半端な晴れ間はもともとの気温に湿気が加わって、通常の倍鬱陶しく感じられるから嫌いだ。
蒸れる感じが気持ち悪くていつもの帽子も脱いでいる。
タンクトップをめくって風を送り込んでいたら、はしたないです、と涼しい声がした。
と、同時に二の腕にピタリと冷たい感触。
何事かと振り返れば氷が入ったアイスコーヒーを蒼樹嬢が持ってきてくれたところだった。

「おー、サンキュ」
「福田さん、暑いのはわかりますがだらしなさすぎです」
「いーじゃん、俺の部屋なんだし」

そう返せばむぅ、とした顔をされた。
かわいい。
ゴムとピンであまり長くはない髪を器用にまとめた蒼樹嬢はいつもと雰囲気が違っていて、タンクトップのレースのワンピースに七分丈のレギンス、に俺の家のスリッパ、となんとも組み合わせが可愛らしい。
暑さで湧いた頭でぼんやり見つめていたら、受け取ったアイスコーヒーの氷がからん、と涼しげな音をたてた。

「クーラー、入れないんですか?」
「最悪なことに故障中だ」
「…電話はしたんですか?」
「した。さすがに死ぬ」

ふぅ、と蒼樹嬢がため息。
なんでこんなに彼女は涼しい顔をしていられるのか、心頭滅却すればなんとやら、か。
しかしよく見てみれば彼女の前髪も汗でちょっぴり湿っていて、ちょっと安心する。
独占していた扇風機の風をお客様にもわけるべく、首振り機能を作動させた。
ふわり、と蒼樹嬢のスカートが揺れたがレギンスが邪魔をする。おのれ。
なんてまたしても湧いた頭で考えていたら風が俺の髪をなぶった。
一瞬巻き上げられた髪がぱさりと肩に首に落ちたときの不快感といったら。
思わず眉を潜める。

「なぁ蒼樹嬢、ヘアゴム余ってるか?」
「…?ありますけど…」
「髪、結んで」

好きで伸ばした髪だがこんなときばかりは邪魔である。
くいと指で毛束を引っ張ってアピールすると蒼樹嬢はぽかん、としていた。

「髪、結ばれるんですか?」
「そー。暑くて気持ち悪い」
「構いませんが、でも私のヘアゴムは…」

何かを言い澱んだ蒼樹嬢に、なんでもいいからと告げれば彼女はちょっと笑った。
疑問を感じながらも、届かないから座ってくださいとの声に促され大人しく椅子に座る。
とてとてと離れていった蒼樹嬢はすぐに戻ってきて俺の後ろに立った。
失礼します、なんて前置きされてから何か固いものが頭皮にあたる。
わざわざ櫛を持ってきたようだ。

「低い位置でいいですか?」
「ああ。取り敢えず肌に触れなきゃいい」

髪を櫛でとかれる感触、そのリズムと、時折触れる蒼樹嬢の熱。
…ほんとは、髪くらい自分で結べるけど。
でもちょっと、たまには、甘えてみたくなってしまったのだ。
あんまり今日の彼女が可愛くて、暑いから。
気づけば開け放した窓から、先程までまったくの無風だったのに風が吹き込んできた。
心地いい。
そんな時間に、ひっそり目を閉じる。

「…福田さん?寝てしまいましたか?」
「…ん、起きてる」

若干寝そうだったけど、と目を開けて後ろを振り返れば蒼樹嬢が目の前にいた。

「できましたよ」
「ん、サンキュ」
「……」
「…んだよ?」

覗き込むように見つめてくる蒼樹嬢に面食らう。
くすくすと、彼女は笑って、細く白い腕が首に回された。

「…いえ、お似合いですよ?」
「…変な奴」

甘えるように抱きついてくる彼女にそっとキスをした。










それからどれくらい時間が経っただろう。
リビングでテレビを見ながらぐだぐだしてたら、蒼樹嬢が眠ってしまった。
そっとタオルケットをかけてやって時計を見る。
針は夕方と呼べる時間を指していた。
外の気温もだいぶ下がっただろう。

「…酒でも買いにいくか」

よっと、と立ち上がり、取り敢えずスウェットをジーンズに履き替えて、財布を片手に外へ出た。


…そしたら、なんかおかしい。


ちょうど下校時間なんだろう。中学生やら女子高生やら年齢不詳の方々がたくさん歩いてる。
が、何故か注目されているような気がしてならない。
中にはくすくす笑ってる奴もいやがる。
いったいなんだというのだろう。
…ちょっとイライラしてきた。


そんなタイミングでようやく近所の行き付けの酒屋にたどり着き、ふと店のガラスに映る自分と目があって…
あまりのことに、絶句した。










「ふっ、福田さん!その格好で外に出られたんですか!?」

帰ったら蒼樹嬢がものすごく慌てて飛び出してきて。
俺が沈黙したままニヤァ、と笑えば身の危険を察したのかぶるりと体を震わせた。

「…覚悟しろよ、蒼樹嬢」

俺の髪を束ねているゴムには可愛らしい小さな花の飾りがついていた。
そんな小さな悪戯をした目の前の獲物に、どうお仕置きしてやろうか。
とうに日が沈んで涼しい風が吹く部屋の中、取り敢えず言い訳をしようと開かれた口を塞いだ。












ぁゃ様リクエスト「蒼樹さんのヘアゴムで髪をくくってほしいとねだる福田さん」です!
なんとおいしいネタでしょう!(笑)
ゴムに花がついてて〜という細かいネタまで提供していただけましたが果たして生かしきれたかどうか…汗
皆様に楽しんでいただけたら、と思います!
リクエストありがとうございました◎







comment(0)


×

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -