純風ラヴァーズ


一万打フリリク2つ目消化です!
なかなか進まず申し訳ありません(汗)












とんでもないダメ出しをいただいたネームを前に、蒼樹は唸り続けていた。
煮詰まって煮詰まって、煮詰まりすぎて頭がパンクしそうになってペンを放り出してため息を吐く。
その瞬間、自分をここまで追い詰めた張本人から電話がかかってきた。





純風ラヴァーズ





電話で福田が告げた用件に驚いて反論を返す間も無く、ぷつっとそれは切れた。
回転させすぎて鈍くなった頭ではたった今起きた出来事が処理できなくてフリーズする。
しかし耳に聞き慣れた重低音が響いてきたことで蒼樹は我に返った。

「えっ、えっ…?福田さん…??」

慌ててカーテンを開けて見下ろせば、マンションの前の公園に停められたバイクにヘルメットを被った見慣れた姿。

『今目の前の公園にいるから、降りてきてくれ』

先ほど告げられた言葉が嘘でも夢でもなかったことを知る。


つい2、3時間前。
いつものようにFAXで送ったネームに福田から怒涛のお叱りという名のダメ出しを受け、熱いバトルを繰り広げていた。
そのときのことを思い出しても別段いつもと変わった様子はなかったはず。
ただ、最近は減ってきていた直す箇所が今回はまるで最初の頃のように多かった。
だから明日までにネームを直してもう一度見せる!とお互い半ば勢いで約束をした、ぐらいが普段との相違点である。
だからこそ蒼樹の頭の中は?でいっぱいだ。
ふと時計を見上げれば0時を少し過ぎていて、ますます混乱は募るばかり。

『こんな夜中に約束もしていないのに…今までこんなことなかったのに…』

手にしたままだった携帯電話を思わずぎゅっと握って、もう一度眼下を見下ろす。
バイクのエンジン音もライトも消えていて、ただぽっかり灯った外灯が彼をぽつんと、夜の闇から浮き上がらせていて。
じっ…と静かに、こちらを見つめているように見えた福田に蒼樹の心臓は跳ね上がる。

『降りてきてくれ』

先ほどの電話の声は、彼にしてはどこか切羽詰まっていなかったか。
そう思った蒼樹は次の瞬間、すごい勢いで駆け出していた。







「おー、きたきた」

駆けつけた息も整わない蒼樹を見て福田は呑気に手を振りへらりと笑う。
その様子がいつもと変わらなさすぎて、拍子抜けしてしまった。

「…どう、されたんですか…こんな夜中に」

それでも今この時が、いつも会うような明るい時間でもファミレスでも無くて、
たまに2人で出かけるようになったどの時間帯とも違うことは確かだ。
外灯の明かりが逆光となり、おまけにヘルメットで影ができた福田の顔はよく見えなかったが、蒼樹の質問になんとなく纏う雰囲気が変わったのがわかった。


しばらく、2人の間に沈黙が落ちる。


さあぁ…と風が公園の木々を揺らし、遠くの通りを車が行き交う音がする。
しかし2人の回りだけ、時が止まったかのようで。
どちらともなく、視線をお互いから外した。





「…ふ、くだ…さん…?」





沈黙に先に根をあげたのは蒼樹で。
恐る恐る、名前を呼んでみる。
どうしてこんなに緊張するのだろう。
自分の爪先を凝視する。
ぎゅ、と握った拳も、絞り出した声も震えていたが。

「…蒼、樹嬢」

呼び返した福田の声も震えていて、思わず顔を上げる。
するとずい、と何やら紙袋を目の前に突き出されて、視界が隠された。

「誕生日、おめでとう」











「……え?」

言われた言葉に思考が、心臓が止まり、
ようやく絞り出した声は本当に微かなものだった。

「もう0時回っただろ。じゃあ、今日が蒼樹嬢の誕生日だ」
「どうして、知って…」
「ん?秘密」

彼の回りの空気がどんどん柔らかくなっていくのを、差し出された紙袋で視覚が失われた分、鋭くなった他の感覚で感じとる。
それに比例するように蒼樹の心臓の音は、胸を飛び出しそうなほど大きくなっていった。

「…ありがとう、ございます」

彼が、自分の誕生日を知っていた。
彼が、自分の誕生日を祝ってくれた。
彼が、自分の誕生日のためにわざわざ家の前まで来てこうして直接お祝いの言葉をくれてプレゼント、まで。

驚愕や感激や嬉しさや照れ臭さや…
それら全てが混じった複雑な感情のまま出した声は囁いたような声量だったが福田に確かに届いたようで。

「どーいたしまして」

そんな声が聞こえてきた。
胸がいっぱいになる。
ずっと差し出されたままだった紙袋に手を差しのべて受けとる。
ふわり、蒼樹の手に移った紙袋。
そっと覗き込めばリボンのかかった小箱が見えて、とくん、と胸が高鳴る。

「…福田さん、あの……っ!?」





顔を上げた蒼樹は言葉を失った。

「…降りてきてくれてサンキュな」

そう言って、福田はバイクのエンジンをかける。

「おやすみ」

ポン、と頭を一撫でし、体の芯に響くような重低音と共に福田が走り去った後も、蒼樹はしばらく動けなかった。
ぎゅうと、胸に抱え込んだ紙袋。
そっと額を触れる。


福田の唇が触れた額を。






高鳴る心臓と、熱くなる頬と、胸に広がるこの感情と。
突然垣間見えた彼の心の片鱗と、
もう隠しようがなくなった自分の心と予想外のプレゼントを、
胸に抱きながらいつまでも福田が立ち去った方角を見守る蒼樹の回りを、
柔らかな旋風が通りすぎていった。












スバル様からのリクエスト「福田さんか蒼樹嬢の誕生日話」でした。
今回は蒼樹さんの誕生日を付き合う前の2人に祝っていただきました!
頑張って男前な福田さん目指してみましたが…
今思うともっと甘々にしてもよかったような…
スバル様、ご期待には添えましたでしょうか!?(汗)
皆様にも楽しんでいただけたなら幸いです。
リクエストありがとうございました◎








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