疾走ラヴァーズ



一万打企画リクエスト、まず一つ消化です◎
企画部屋にも挙げさせていただきますが一応こちらでも…
くろ様リクエストの「ヤキモチをやく福田さん」です!
ではではどうぞ↓














人混みを掻き分けて必死に足を進める。
待ち合わせ時間に遅れそうで大変だ。
半ば小走りで進んでようやくたどり着いた目的地。
そこには彼が座り込んでいて、こちらに気づいて笑いながら手を振ってくれた。





疾走ラヴァーズ





「いつもより遅かったじゃん」

合流して歩き出すなり福田さんがにやりと笑った。

「毎回待ち合わせ10分前にはついてるくせに」
「な、なんで知ってらっしゃるんですか!?」

顔が熱くなるのを感じながら隣を見上げればただ福田さんはふふん、と得意気な顔をして笑っているだけで。
お見通しだ、と言われているようで恥ずかしくて下を向く。
そうしたらポケットに入っていた彼の手がゆっくりと自分の手を取る様子を目撃してしまった。
手をつなぐのはまだ数えられるくらいしかしたことないけれど、私がこんなにもドキドキする事を簡単にできてしまう福田さんがちょっと憎らしい。
ちらりと目を上げて見ると「何かあったのか?」と聞いてくる。
まだ話題が続いていることを知って慌てて答えた。

「た、担当の山久さんが電話をかけてきて…その対応をしていたらいつもより遅れてしまったんです」
「担当?仕事か」
「まぁそれがメインだったんですけど…」

こんなときに限って最近の出来事やら何やらの世間話をされて、しかもそれが長くて…
なかなかキリがつけられなかった。
そのせいで予定が大幅に狂ってしまったのだ。
少し恨めしい気持ちになって頭に浮かんだ担当の顔にため息をつく。
すると突然、繋いでいた手にぎゅっと力を入れられて驚いた。

「…世間話、ねぇ…」
「え?」

一瞬、ほんとに一瞬だけ福田さんの表情が変わったような気がしたが。
聞き取れなかった言葉に首を傾げている間にニカッと笑って、取り敢えず腹減ったな!と言ってきた彼が余りにも普段通りだったから。
気のせいかな、と思うことにした。
握る手の強さもいつも通りに戻っている。

「そうですね…何か食べますか?」


今回こうして福田さんと二人で何処かに行くのは三回目で、つまり手を繋ぐのもそれくらいの回数しかなくて。
絡まった力強い指に自分のそれを絡めるのがどうしても恥ずかしくていつも私の手は中途半端。
慣れない私をいつもいつも福田さんが引っ張ってくれる。
だから緊張はするけど安心はしていた。
今回も隣で福田さんが笑っている。それだけで私は嬉しくなる。


何処かこのへんでいい店知ってるか?との問いかけに答えようと口を開いた瞬間だった。
肩にかけた鞄の中の携帯が鳴り響く。
慌てて家を出たためマナーモードにし忘れていたのだ。

「あ、すみませんっ」
「…ん」

焦って腕をひいた私の手が彼の掌から離れる。
引っ張り出した携帯のディスプレイは着信を示していて、相手は

「…平丸先生?」
「………平丸先生??」

ぴくりと福田さんの眉が動いた。

「なんで平丸先生から電話なんかくるんだよ」
「時々かかってくるんですよ」

それは他愛もない内容だった。
次の新年会は出席するのか、とかこの画材が切れたのだがどこで購入すればよいか、とか…
それはほんの2、3分で終わってしまう短い会話で、月に一度かかってくるかどうかという頻度。
今回もそうだろうか、ならば早く終わらせてしまおうと福田さんに断ってから電話を取ろうとした。

「もしも…」

し、と言おうとした瞬間、携帯を持っていたはずの手が軽くなる。

「よォ平丸先生、久しぶりだな」
『!?そ、その声は福田先生!??どうして蒼樹先生の携帯に…』
「あいにく取り込み中なんだ。またな」

そう言うとぷつん、と福田さんは電話を切ってしまった。
あまりのことに何が起こったかわからず呆然としている私の手に返ってきた携帯の電源は落とされている。
ふん、と鼻息を荒らげて歩き出した彼はまるで一仕事終えたとでも言いたげな顔で。

「な、なんてことするんですか福田さん!!」

ようやく我に返って浮かんできたのは憤りより戸惑いだった。
彼は決してこういう礼を失した行動をする人ではないのに。
慌てて追いかけるも福田さんは止まってくれなくて、追い付けない。
両手はポケットに突っ込まれたまま。

急に不安になる。
二人でいるときに彼がこんなふうになることは初めてだ。
いつも私の歩幅に合わせてくれるのに。隣を歩いてくれるのに。

「待ってください!」

どんどん人を追い越して、先を行く福田さんに声は届いているはず。
それなのに縮まらない距離に胸は焦るばかり。
大通りからそれた人気のない道に入った彼に追きたくて駆け出そうとした瞬間だった。

「きゃっ!?」

段差になっていることに気づかず躓いて前のめりになる。
転ぶ!そう思った体はぐいと引かれて何か温かいものに強かに鼻を打ち付けた。

「ふ、福田さん……??」

目の前にあるTシャツに、福田さんに抱き締められているのだと知る。
込められる力が強くて苦しい。
もう大混乱だ。どうしてしまったのだろう。

「…蒼樹嬢は、丸くなりすぎ」
「え?」

肩口に乗せられた額。
そのせいかくぐもってしまっていたが確かに福田さんの声が届いた。

「もっと男に警戒心持てよ…」

腕の力は強くなるばかりで痛いくらいだが、反して声は弱々しくて。

「…他の男の話なんかするなよな」

消え入りそうな声の直後に一層力を入れられて、思わずうっ、と声が出てしまった。
それに気づいたのか我に返ったように福田さんが体を離す。

「わ、悪ぃ蒼樹嬢!」
「……福田さん、焼きもち、ですか?」
「!!」

ぼんっと音がするくらい顔が真っ赤になった後、バツが悪そうに目をそらす。
福田さんのそんなところ、初めて見る。
何故だろう、勝手に電話に出られて無視されて、痛いくらい乱暴にされて、怒ってもいいくらいなのに。
この胸に広がっていく温かいものはなんだろう。

「福田さんでも、妬いたりするんですね」
「…うっせ」

これでも不安だらけなんだよ、と漏らされた言葉に驚く。
あんなに余裕そうに見えたのに。
そんな彼も私と同じなんだ。
そう思うと胸がいっぱいになった。

「福田さん」
「…んだよ」
「大好きです」

ぎゅっと、その手を握る。
初めて自分から彼に触れた。
こんなに自然に言葉が出たのも、初めてだ。

「これからは、二人でいるときは携帯の電源を落としますね」

にっこり、目の前で目を真ん丸にしている彼に微笑みかける。
目を白黒させていた福田さんはまたほんのり頬を染めて明後日のほうを向き、あーとかうーと唸った後、

「遅いっつの」

俺はずっとそうしてた、と告白した。
どうしよう、愛しさが止まらない。

「あーもう!腹減った!飯食うぞ!」

ぐいと目元をずり下げた帽子で隠し、福田さんは私を引っ張って歩き始めた。
歩調は早いままだったけど、手はしっかり繋がれている。

「は、早いです福田さん!」
「うっせー走れ!」
「ひどい!」
「蒼樹嬢が悪い!」
「…福田さん」
「あ?」
「大好きです」

ぴたり、と止まった彼にようやく並ぶ。
覗き込めば赤くなった頬で睨まれた。

「…知ってる」

繋がれた力強い指を、今度は負けじと握り返した。












こんな感じで…
余裕ぶってる福田さんですが本当は欠片も余裕がないっていう。
蒼樹嬢が10分前に待ち合わせ場所に来るのを知ってるのは福田さんが15分前にその場所付近に来てるからだよ!(どうでもいい裏設定)
あれだけ綺麗な天然彼女だったら誰だって不安になるよ!仕方ない!
最終的に男前蒼樹嬢になってしまった(笑)
焼きもちやく福田さん、うまく書けたでしょうか?
お気に召しましたら幸いです!!







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