メルトハニー(福蒼)

ブランク約一年ゆえにまずは軽くリハビリを…
福蒼で超短いです。
福田さんが静かに悶々としてます。












メルトハニー






月がぼんやり浮かんでいた。
そんな月をぼんやり眺めていた。
そんな俺を咎めるかのように、自分の頭よりいくらか下からくしゃみが聞こえた。

「わり、ぼけっとしてた。中、入るか」
「いえ、大丈夫です」

夜10時のファミレスの駐車場、今日も明日も平日だからか人はいない。
安っぽい看板の下に立ってマフラーを巻き直す彼女はこんなところには不釣り合いなほど、可愛い。
と、最近思うようになった。

「月、私も見たいですから」

そういって、泣きぼくろのある目元を緩ませる。
コートの袖から少しでている白い指をぎゅっと握ってしまいたくなって、
そんな衝動をおさえるために俺の手はダウンのポケットにねじ込まれたまま。

「そか」
「はい」

もう一度見上げた月はまんまるい満月。
うまそ、なんて呟いたら笑われた。

「じゃあ、これからホットケーキでも召し上がってください」
「やだね、20歳越えた男がホットケーキだなんてカッコ悪ぃ。ガキみたい」
「お似合いですよ」
「言ったな」

クスクス、笑う声が耳にくすぐったい。
衣擦れの音、もう一度盗み見た指先はやはり白くて華奢で、
月を見上げる彼女の瞳はまるで蜂蜜とバターが蕩けてからまったみたいにとろりとして見えて、

「…蒼樹嬢」
「はい?」

こちらを見た彼女は、もうほんとに、あとちょっと近づけば触れられるというのに。

「中、入るか。冷えた」
「そうですね、風邪をひいてしまわれたら大変です」

月、綺麗でしたね。
ファミレスのドアを開けてやった俺の目をのぞきこむように微笑んだ彼女の、
寒さで少し赤くなったその頬にキスを。
衝動を飲み込む俺のざらついた心を知ってか知らずか

(きっと彼女は気づかない)
(彼女は俺を信用してる)

綺麗な栗色の髪を揺らして、俺の前を颯爽と通りすぎるのだ。



(そして俺はそんな彼女に触れられない)



冷えた指先は固まったまま。







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