正しい使い方



目指せ週一更新!
ということで頑張っております。
福蒼で前回と同じく名前ネタです。
しかし前回とはまったく違う感じにしてみました。
ラブラブいちゃこらな2人は書いてて非常に楽しいです◎











正しい使い方


仕事のキリがついた夜は福田さんの機嫌がとてもいい、と思う。
約束通り部屋に遊びに来てくれた福田さんを迎えたときも、リクエストされていた料理を出したときも、いつもよりちょっとだけ嬉しそうに笑ってくれた。
今だって浴室からシャワーの音に紛れて鼻唄が聞こえる。
その音とテレビをBGMに、ソファに腰掛けぱらりぱらりと雑誌をめくる。
一人暮らしは長いが、こんなふうに家の中で誰かの気配を感じるのが心地よいなんて知らなかった。
相手の機嫌がよいとこちらまでいい気分になる。
知らず知らずのうちに口元に笑みが浮かんでいることに気づいて更に笑みを深くした。

「蒼樹嬢、風呂ありがと」

声に振り向けばラフな格好に着替えた福田さんがこちらに歩いてくるところだった。
帽子の代わりにタオルを頭に乗せている。
彼なりの流儀があるのか、どれだけ勧めても私より先にお風呂に入ったことがない。
そんな律儀なところも好きだったりする。
濡れた髪が額に貼り付いていて、ドキリ とした。

「どういたしまして。ドライヤー、使います?」
「ん?んー、めんどい」

ずるりとタオルがずり下げられて、首にかかる。
彼の銀髪が濡れていて、蛍光灯の光を反射する。
水がぽたりと髪の先から滴っていた。

「ダメですよ、ちゃんと乾かさないと風邪ひきます」
「へーへー」

生返事をしながらソファに座る私の前にぺたりと胡座をかいた福田さん。
まったく乾かす気配が無いものだから一つため息を吐いて雑誌を置いた。
上体を倒し、首にかかったままのタオルを取り上げて再び銀色の頭をすっぽり覆う。

「もう…乾かす気ないでしょう福田さん」
「蒼樹嬢が乾かしてくれるからいいんじゃね?」

わしゃわしゃ彼の頭を拭いていたらクスクス笑う声がした。
むっとして少し手に力を込める。
いてっ、なんて言いながらもタオルからちらりと見える顔は微笑んでいた。
やっぱり彼は機嫌がいいらしい。

「子供じゃないんだから、自分でやってください福田さん」
「やだ」
「もう」

そろそろいいかな…と動きを緩めれば、すりとタオル越しに掌に頬を擦り寄せられた。
心臓が跳ねる。
咄嗟に離れようとしたら大きな掌に捕まって、ぐいと引き寄せられた。

「…福田さん?」

無言で、彼の唇が私の掌に触れた。
柔らかな感触がするすると移動していく。
擽ったさにふるりと震えればかぷりと、指先を口内に含まれて肩が跳ねた。

「や、です」
「ん?」

生々しい感触が指を伝って、赤い舌が肌の上を蠢く。
指を絡められて逃げ場を失った手、その甲に口づけられて。
自分より低い位置にいる彼が、口角を持ち上げてこちらを見上げてきた。
視線に絡めとられて動けない。
言葉を失って彼を見つめていると、それはそれは楽しそうに福田さんは笑って、ゆっくりと腰をあげた。
彼が体を伸ばして中腰になるに比例して後ろへと逃げる私。
しかし手は捕まったまま、後ろにはソファの背もたれ。
逃げ場はなく、結局袋小路に追い詰められただけ、で。
同じ目線になった彼に額を合わせられ、ソファの肘掛けと彼の腕に閉じ込められて身を竦める。

「蒼樹嬢」
「…はい」
「仕事頑張った俺に、ご褒美頂戴」

ニヤニヤ、笑うその顔はやっぱり楽しそうで、
でも瞳の奥に揺れる光は色を含んでいて。
クラクラする。

「…ご褒美も何も、私だって仕事を終えた身です」
「じゃあ蒼樹嬢にもご褒美やるよ」

クスクス笑う声にもクラクラ。
膝を割って彼の体が近づいてきた。
触れるところ全てが、熱くて。
流されないようにするのに必死で。

「慎んで遠慮します」
「つれねぇなあ」
「ろくなことにならなさそうですから」
「お?何想像したの」

覗き込んでくる瞳はもう笑っていなくて、押し黙る。
言葉を返せなくなった私を見て、彼はふと口の端を持ち上げて、背をしならせ耳元に近づいてきた。

「……なぁ、いいだろ?

…優梨子」

吐息と共に、いつもより低く甘く掠れた声で、いつもは呼ばない私の名前を囁いた。
ずるい。
絶対わざとに決まってる。
彼の声で名前を呼ばれれば簡単に私が堕ちることを知っているのだ。
ずるい、本当にずるい。

むっ、とした私は空いている手で思い切りその銀髪を引っ張って、得意そうに、やはり楽しそうにニヤニヤしている彼の顔を一瞬だけ歪めさせることに成功した。

「…福田さんのバカ」

彼は私の名前を切り札にする。
普段は絶対呼ばない。言うなれば出し惜しみ、だ。
大事なときにしか、名前を呼ばない。呼んでくれない。

「…ベッドまで運んでくれたらいいですよ」

それがもどかしいこともあるけれども、悔しいことに嬉しいとも感じてしまうのだ。

私の言葉にそれはそれは嬉しそうに笑った彼の首に抱きつけばふわりと軽くなる体に抱き上げられたのだと気づく。

「好き、優梨子」

完璧に彼の術中にはまってしまっている気がする。
…まぁ、それでもいいけれど。
高鳴る胸を誤魔化すように、仕返しと言わんばかりに目の前の耳に囁き返した。

「私も大好きです、真太さん」







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