うさちゃんリンゴ



久々の更新ですみません!
明日は弓月は卒業式です。
ついにモラトリアムが終わってしまう…
基本ビビリで環境変化が苦手な私にとって、今までいた環境が完璧で心地よかった分新たな生活が恐怖でたまらないですが、区切りは区切りです。
明日は楽しんでこようと思います。

今回は風邪ネタ福蒼です(王道!)
二人はできてます(笑)
ではではどうぞ◎↓










うさちゃんリンゴ


頭が重くて、ぼんやりする。
あぁなんだかふわふわもする。
一昨日の夜から予感はしていたが見て見ぬふりをしていた。
昨日なんとか仕事のノルマを達成し、気が抜けたのがいけなかったのかもしれない。
見事に体温が上がってしまった。
一人暮らしで、漫画家のように時間に追われる職業で生計をたてる以上体調管理だけはと特に気を配っていたのに。
どうしてよりにもよって今日…と蒼樹紅は体温計を睨みながらため息を吐いた。
なぜなら今日はとある人と会う約束があったから。
今日の予定を空けるために昨日頑張ったというのに。

「どうしよう…」

ベッドから抜け出て顔を洗うまではしてみたが、それだけで体が悲鳴をあげる。
関節が痛く、とても長時間動き回ることはできなさそうで。
でも約束している人には会いたい。
頑張って着替えよう、そう思って動こうとしたら激しく咳き込んで、別の懸念がうまれた。
どうしよう、うつしてしまうかもしれない。
相手も自分と同じ職業の人間だ。もし風邪をうつしてしまったらきっと仕事に支障がでる。それだけは避けないと。

これは泣く泣く断るしかないのか…
タイミングの悪い自身を呪いながらメールをうった。
隠しても仕方がないから、風邪をひいて動けないことと、うつしたくないから今日の約束はキャンセルして欲しいということを説明して、送信。
送信完了画面が白々しく自分を笑っているような気がした。
あぁ、今日はもう会えないのか…
そう思うとぼんやりと視界が霞む。
今度は熱じゃなく、涙で。
熱がでてただでさえ心細いのに、楽しみにしていた約束をキャンセルして会いたいと思っていた相手に会えない、なんてひどすぎる。
しかもメールが返ってこない。

「…怒ってしまったかしら…」

そう思うとますます居たたまれなくなって、もういいや寝よう、と半ば自棄になって布団に潜った。








ピンポーン、と遠くで音がした気がして目がさめる。
気分は最悪だった。明らかに体温があがっている。
苦しい息で時間を確認しようと携帯をとれば、不在着信とメールが一件ずつ。
慌てて確認したらそれは今日本当なら会う予定だった人でメールはただ一言。

『あけろ』

急いで体を起こすも頭痛と咳でうずくまってしまってタイムロス。
そろそろと進んで、恐る恐る玄関のドアを開ければそこに憮然と立っていたのは。

「…ふくださん…」

会いたい会いたいと思っていた恋人、で。
安堵からか会えた嬉しさからかまたちょっぴり視界が霞んだ。

「ひでぇ声」

くすり、と福田さんは苦笑する。

「思ったよりひどそうだな。ここで話してても体冷やすし、中、あがるぞ」

ドアノブにしがみつくように立っていた私の肩を優しく抱いて家に入ると、福田さんは後ろ手にドアを閉めた。
呆然と見上げた視線から私の複雑な心境を読み取ったのだろうか、もう一度苦笑して彼は、

「うつしたくないとか、そんなつれないこというなよ。こういう時こそ頼れよな」

そんな優しいことをいうものだから、思わず思い切り、抱きついてしまった。








それからは驚きの連続だった。

はじめは気づかなかったが福田さんは大きな袋を提げていて、何かと聞けば、

「一人暮らしで風邪ひいたとき一番困るのは、飯だろ」

と言ってスポーツドリンクを出して頬にぺたっとくっつけられた。

「あ、そだ。熱は?」
「…朝は37.8℃だったんですが…」

今はお昼を回っていた。
ぺたり、とベッドに座らされ、たまたま枕元にあった体温計を渡されたのでおとなしく熱を測る。
その間、彼は買ってきてくれたらしい食料を机に並べていく。
ことり、と真っ赤な林檎が机に転がったのを見たときはなんだか意外な気がした。

「飯は?」
「まだです…」
「食べれるか?」
「ちょっとなら…」

タイミングよく体温計が鳴ったので取り出して見れば、それを覗き込んだ彼と同じように顔をしかめてしまった。

「38.5℃…」
「…薬、飲んだか?」

ふるふると頭を振ればちょっと高い位置からため息。

「飯、つくってやるから。それ食べて薬飲んで、今日は寝とけ」

ぽんぽんと頭を撫でられる。
なんとなく申し訳なくてもぞもぞしていたら、おでこにピタっと、ひんやりしたものが。

「ひゃっ!つめたっ…」
「ほら、体冷やすから布団に入ってろ」

なんとぴったりな商品名をつけたのだろうかと、おでこに貼り付くものを撫でバカなことを考えながら枕に顔を沈めた。

そのままぼんやりと福田さんの気配を目で追う。
何回か行き来している互いの家は、そう広くないためもうだいたいを把握している。
そのためか動きに迷いがない。
てきぱきと物を移動させキッチンへと彼は消えた。
その手際のよさにちょっと感動する。
そしてしばらくすると漂ってきた匂いにまたびっくりする。

「蒼樹嬢、起きれるか?」

更にしばらくして戻ってきた彼が持ってきたのは、梅干しがのった真っ白なお粥と、

「…うさちゃん林檎…」
「おぅ。熱でぶっ倒れてめそめそするゆりこちゃんにはちょうどいいだろ」

にやり、笑われた彼に涙で目が潤んでたのがばれていたり本名を呼ばれたりしたのが恥ずかしくて真っ赤になる。
もともと熱で真っ赤だったろうからばれはしないだろうけど。

「…福田さんも料理できるんですね…」
「失礼なやつだな。こんなん料理に入らねぇよ」

悔しくて反撃してみるもちょっと喋るだけで喉が痛む。
半身を起こすのも辛いが福田さんが手伝ってくれた。
口に入れたお粥は塩加減がちょうどよくて美味しい。
でも三口しか食べられなくて、それが残念でせっかく作ってくれたのにと悔しくなる。

「食べれるだけでいいから」

そう言ってくれる彼の視線がいつもより優しい。
すっと手元からお粥がさげられ、代わりに爪楊枝で刺したうさちゃん林檎を差し出された。
促されるままに口を開き、彼から直接、林檎を食べさせてもらう。
しゃり、という音と甘い果汁が口の中に広がって、おいしかった。
果汁がかかったのか、ぺろりと指を舐めた福田さんの舌の赤さにゾクリとする。
…熱でおかしくなっているのかもしれない。

「…薬、持ってくる」

すっと立ち上がった彼の服の裾を掴んでしまったのはほとんど反射で、自分でもびっくりした。

「すぐ戻るから」

苦笑されて居たたまれなくなり、すぐに指を引っ込める。
本当に子供みたい、彼に甘えっぱなしで。
やっぱり熱でおかしくなってしまったのかしら。
宣言通りすぐに戻ってきた彼を、しかし見上げることができなくて俯いていたら顎をくいとあげられた。

「!」

降ってきたのは唇、で。
驚いて身をひこうとしても叶わず、わすがに開いた隙間から先ほど見た彼の舌が、入ってきた。

「っ!…んぅ」
「看病料だ」

なんて言いながら彼は水の入ったコップを渡してきた。
口移しされたのは錠剤で。
にやにやする彼を恨めしく見ながら嚥下する。
いそいそとベッドに横になれば、ようやく、ほっとした気がした。

「…たまにひく風邪もいいですね」
「あ?」
「色んな発見がありました。あと、福田さんが優しいです」

バカなこと言ってないで早く治せ、と叱られたけれども本当にそう思うんだから仕方ない。

「今日は泊まってってやるよ」

そう言って、やはり優しく柔らかく笑って頭を撫でてくれた彼。
それが嬉しくてその手を握る。
熱を言い訳に、今日は甘えることにした。開き直りだ。

「…福田さんも一緒に寝てください」
「………。
風邪、治ったら覚えとけよ」

はぁ、とため息を吐きながらも布団に入ってきてくれた彼に抱きついて、目を閉じる。
髪を撫でてくれる振動が心地よくて、よく眠れそう。

「ふくださん…」
「ん?」
「ありがとう…ございます…」

次は、私が看病しますから。
そう思いながら意識を手放した。

「おやすみ」

優しく柔らかな声が、遠くで聞こえた気がした。









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