▼嘘ついたらはりせんぼん うっかり続けてしまいました。 『ゆびきりげんまん』の後編かつ福田さんverです。 蒼樹嬢視点でもよかったかも… 嘘ついたらはりせんぼん 死ぬもの狂いで仕事をした。 何回カレンダーを確認しただろう、どれだけネットで調べたことだろう。 だがしかし、予定は空いたはいいけども何処にいけばいいのか皆目検討もつかない。 いや、夕飯を食べる飲み屋だけは見つけた。 チェーン店とかじゃなくて、ちょっと洒落た、でも背伸びしすぎない、用意してある酒も幅広い店。 問題は、そこに到達するまで、だ。 今まで女と付き合ったことはある。 東京に来てからだって女ができなかったといえば嘘になる。 しかし、あの手のタイプは初めてなのだ。 今時珍しいくらい恋愛に奥手で、恋に恋するところのある天然美女と接点を持つことなどなかったのだ。 しかも今の自分たちの関係を一言で表すなら、 「…微妙」 これにつきる。 俺としては一歩先に進みたい。 しかし彼女が負った傷の深さを考えるに、先に進むのはどうしても躊躇われた。 ようやく信頼してもらえたというのに、再び関係が壊れてしまうような気さえして珍しく弱気になった。 そんな矢先に、彼女からまさかのメールが来たのだ。 『よろしければ、招待券をいただいたので一緒にフィギア展に行きませんか?』 今までネームの直しで外で会うことはあった。 福田組の集まりだったり、たまたま街で出会ったり、というのはあったが、こうして、漫画以外の用事で彼女から声をかけられたことは無かったのに。 嬉しすぎて飛び上がりそうになるのをこらえ、カレンダーを見て愕然とした。 なんてこった、こんなときに限ってカレンダーが予定で真っ赤。 正直、かなり凹んだ。 なんとか1日だけでも空かないかと考えるも、ちょうど安岡の長期休みと重なっていてどうにもならなかったのだ。 それでも諦めきれなくて、彼女に直接、今度は俺から誘うと約束したのだ。 喜んでくれた、と思う。 矢継ぎ早に『嘘ついたらいやですよ?』と念を押されたときは思わず微笑んでしまった。 彼女のその一生懸命さが嬉しかったのだ。 だが。 「…しゃあねぇな…」 夕食にと選んだ店に予約は入れてある。 そろそろ彼女の予定を聞かなくてはいけないだろう。 安岡がいないことをいいことに、広げて散らかしたパソコンからプリントアウトした紙の山や雑誌。 もちろん行き先の候補地だ。 だがもううだうだ考えるのも疲れた。 彼女に何がいいか正直に聞こう。 それが一番確実だ。下手に嫌なところに連れていくより喜んでくれるだろう。 …すべてリードしたかったが、仕方ない。今回だけは目をつむって電話をかけることにした。 『…もしもし?』 「おぅ、蒼樹嬢。久しぶりだな」 あの電話以来、忙しいと言った俺を気遣ってかやりとりはメールやファックスだけだった。 だから声を聞くのは久しぶりだったりする。 「この前電話で話した件なんだが…」 『はい!』 心なしか彼女の声が明るくなった気がして、やはり嬉しくなる。 だが今から言うことはやはりいささか情けなくて、言い出すのに少し躊躇う。 おかしな間を不信に思ったのか、蒼樹嬢が恐る恐るといった様子で呼び掛けてきたので、仕方なく口を開いた。 「蒼樹嬢、悪い」 『…え?』 「実は…」 『…………いやです』 「…は?」 急に暗く硬くなった彼女の声に疑問符が浮かぶ。 てかまだ何も言ってないんだけど… 「蒼樹嬢?」 『いやです。忙しくて行けなくなった、とか聞きたくないです』 「え?」 『約束したじゃないですか、嘘ついたらいやですって言ったじゃないですか』 「ちょっと待て」 泣いてるんじゃないかと思うくらい沈んだ声、怒るというより拗ねたような口調。 おおいに慌てた。 彼女は何か勘違いしてる。 たとえ勘違いでも好きな女を泣かせてたまるか。 「もう店、予約してあるんだけど」 『………え?』 「3月25日、空けとけよ?」 『は、はいっ……でもさっき悪いって…』 「それは、前フィギア展の代わり探しとくって言ったのに、見つけられなかったことを悪いって言おうとしたんだよ!」 しばらくの沈黙の後、ほぅ、と、電話越しにもわかる明らかな安堵のため息。 『すみません…私ったらすっかり…』 「ばぁか、約束しただろが。俺が嘘つくようなやつか?」 『……』 「何で黙るんだよ」 くすくす、ようやく、電話の向こうで笑ってくれて安堵する。 そんなに一緒に出掛けられなくなるのが嫌だったのかよ。 聞こうとして飲み込む。 彼女の先ほどの取り乱し様から十分にそれはわかったから。 「で、どこ行きたい?」 『え?』 「さっきも言ったろ、店はとってあるけどそれまでの時間が空いてるんだよ」 『…どこでもいいんですか?』 「ああ。ほんとはそっちも決めたかったんだけどな」 情けないが素直に暴露して彼女の答えを待つ。 なかなかに長いこと待ったと思う。 少々心配になって声をかけた。まさか彼女に限って電話中に寝ることはないと思うが… 「……蒼樹嬢?」 『…海が』 「え?」 次に聞こえたのはまったく予想外の答えで。 『海がみたいです。福田さんのバイクから』 一瞬思考が停止して、徐々に、じわじわと顔が熱くなっていく。 つまりそれは俺の後ろに乗りたいってことで。 「…蒼樹嬢」 『はい』 「わかった。3月25日、必ず空けとけよ?」 『福田さんこそ』 くそ、すっげぇ嬉しい。 顔を手で押さえるもきっと赤いことだろう。 そんな俺にとどめの一言が。 『嘘ついたら、嫌ですよ?』 これで好きになるなって方が無理だろ。 |