屯所内に響いた例の音を聞きつけて、ここにいた隊士全員が駆けつけた。
勿論、その中には副長と沖田隊長もいて、事情を話した俺はしこたま殴られたわけだけど。
「で…、
あいつが愛なんだな。」
「た、たぶん…。」
煙草を吸いながら、倉庫内を見る副長にボコボコに腫れた顔で答える。
煙が消えた倉庫の周りには沢山の人集りができているが、誰も中には入らない。
…いや、入れないんだ。
隅の方で、肩からズレる隊服を掴みながら右手で苦無を構える…殺気むき出しの5歳ぐらいの子供のお陰で。
「…あの顔、間違いなく愛でィ。」
沖田隊長の言葉に副長がため息をつく。
唯一、彼女の顔を日常的に見ている彼がそう言うなら、きっとそうなんだろう。
誰もが、どーする?と顔を見合わせる中、沖田隊長はいつものポーカーフェイスで倉庫内へと足を進めた。
「…っ!!!」
その瞬間、苦無が飛んでくるが、彼は首を倒しそれを避ける。
お陰で、その後ろの俺の頬を苦無が掠っていった。
「俺らは敵じゃねぇ。 とりあえず、大人しく降参しなせェ。」
「……!!」
「大丈夫でィ。」
辺りが息を飲む中、隊長は愛の前にしゃがみ込む。
彼女は怯えているようでカタカタと体を揺らしていたが、頭を撫でられるとホッとしたのか、さっきまでの殺気は消えていった。
「愛ゲットだぜ。」
そう言いながら、彼女を抱っこする隊長に急いで駆け寄った。
さっきの反応といい、俺を怪訝そうに見上げる素顔状態の愛から、記憶はないものだと推測する。
にしても、
「……可愛いっ!」
何この子!凄い可愛い!!
目はパッチリだし、ぷっくりとした頬は赤みがさしていて、思わず突きたくなる。
俺と同様に群がる隊士達は、だらし無い顔を晒しながら、口々に質問を繰り出した。
ここどこだかわかる〜? 可愛いね〜おじさんの子にならない? こっちおいで〜
そんな質問達に、愛は隊長のスカーフをギュッ掴み、彼の胸に顔埋める。
「…愛?大丈夫でィ。俺がついてまさァ。
…チッ、怯えてんだろーが。
てめーら全員叩っ切ってもいいですかィ?」
彼女の顔を覗き込み、聞いた事もない優しげな声で話しかけた直後、
俺達に浴びせられる凄まじい殺気に身震いする。
「総悟そのへんにしとけ。
山崎!!とっとと効力調べてこい! !!」
「ぎゃあ!!」
一部始終を傍観していた副長が此方へ近寄ってきたと思ったら、愛の頭を軽く撫でた後、油断していた俺の足を蹴飛ばした。
思わず涙声になりながら、しゃがみ込むけど、目の前の三人を見て少しホッコリする。
…なんなんだろう。 彼女には申し訳ないんだけど、可愛い頃の君を見れた事と、だらし無い顔を浮かべる隊長と副長が見れて、なんだか少し得した気分になった。
(まだまだ続くよ!!) (さっさと行け!!山崎ィイ!!!)
← / →
|