ワイワイガヤガヤと騒ぐ部屋を前にため息をつく。
目の前の部屋…大広間ではどうやら宴会中らしい。
何かある度に宴会になるこの組織に所属しながらも、私は数える程しか参加した事がなかった。…まあ、理由はお面つけてるからだけど。
物を食べたりお酒を飲んだりするのに、素顔を見せずに行動する事は不可能で。
だから、今日みたいに擬態中しか参加しないわけだ。
(報告が宴会中っていいんだろうか…。)
今日は例のお偉いさんの息子さんと擬似デートしてきて、一応報告しなくちゃいけないのに、
局長副長共に、この騒ぎの中にいるらしい。
奴ら、羽目外すタイミングどうなってんだ。
…まあ、ごちゃごちゃ考えてても仕方ない。
もう一度、息を吐いてから襖をあけた。
「宴会中失礼します。ただいま戻りました。」
肩からサラッと落ちる綺麗な黒髪(残念ながら、ヅラ)をそのままに、フワリと華のように笑う(が、作り物の顔)。
一瞬にして静まりかえる大広間の間をぬって、土方さんの元へ。
「…久々に見るが、化けたな。」
「ふふっ、これが楽しくて化けてるようなものですよ。」
口元に手を当てて、上品に笑う。
後ろで徐々に騒がしくなる外野に振り返り手を振ると、酔っぱらい共は見事に湧き立った。
「ふっ、ちょろい。」
「おい、本性出てんぞ。
……今日、どうなった。」
「もう骨抜きにしてやりました。
リピート確実なんで、次の報酬もっと盛ってやってもいけるかと。」
そう言うと、土方さんは満足したのか気前良く盃と酒を取った。
「久々だろ。飲め。」
「はいな。では、いただきますー。」
クイッと盃を傾けて、喉を潤す。
いい酒だなあと思うけど、やっぱり私は安いお酒でも総悟さんと飲む月見酒が一番好きだ。
「…そろそろ帰ってきますよね?」
「本来なら、あと二時間は仕事だけどな。」
「あの人にしてはもった方ですよ。
ちゃんと朝焚きつけたんで、感謝してください。」
「なら、最後まで仕事させるようにしやがれ。」
チクチクささる小言を無視し、土方さんの前に置いてあった冷奴を箸でつつく。
…マヨネーズがかかってないのがあってよかった。
「…とりあえず、お前ら落ち着いたみてぇだな。」
「あぁ、ちゃんと鞘に戻りました。
というか、アレです。
くっついた系です。」
………。
「「「「「えぇえええええ?!!!!」」」」」
一拍置いた後で、うるさい叫びが木霊した。
みんな聞き耳立ててたのはわかってたけど、そんなに驚くこともないだろう。
泣き声が所々聞こえるが、夢から覚めて早く新しい恋でも探せと思ってしまう私はきっとヒロイン失格だと思う。
「人が疲れて仕事から帰っつーのに、おめーときたら堂々と浮気ですかィ。」
「おかえりなさい。
なんというか、絶妙のタイミングですね。」
後ろの襖からひょっこり顔を出す総悟さんの片手には、相変わらずの鬼嫁が握られていた。
「総悟、てめぇまだ仕事残ってんだろ。」
「文句は愛に言ってくだせェ。
この時間に帰ってきたら、ネグリジェ来て部屋で待ってますっつったんで。」
「あんたの耳どうなってんだ。」
朝、仕事終わったら月見酒しようと誘っただけで、そんな事一切言ってない。
ため息をつき、ゆっくり立ち上がると土方さんに頭を下げる。
「では、私達はこのへんで。」
「…総悟、明日覚えてろよ。」
「へいへい。」
そう言った後、総悟さんは一瞬後ろを向き、嫌な笑いを浮かべると
私の髪を書き上げ、耳の下辺りに口づけを落とした。
その瞬間、背後でいろんな叫び声が響く。
「…なにするんですか!」
「ここは地肌だろィ。
ただの虫除けでさァ。」
楽しそうに笑う総悟さんを軽く睨むけど、作られた顔の下はきっと真っ赤になっている。
うるさい心臓を手で押さえながら、この人には一生敵わないんだろうな、と悟った。
(…早く皮剥げ。その顔嫌いでィ。) (はいはい。)
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