「ェエエエエ!!!」
近藤さんの野太い声が響く。
耳を抑える私と無言で煎餅を齧る総悟さん。 …そして、この部屋の主である土方さんは、諦めたようにため息をついた。
今からちょうど30分前。 働き詰めの土方さんを気遣った近藤さんがお菓子を持って、此処を訪れた。
そのときに偶然、任務報告をしに来た私と始末書を提出しに来た総悟さんとバッタリしてしまい、近藤さんに『トシを休ませようぜ!大作戦』のメンバーに入れられた訳だ。
まあ、作戦内容は土方さんの部屋で私達3人が寛ぎ、休憩せざる負えなくなるという至ってシンプルな物だったのだけど、どうやら目の前の二人はその作戦をまるっきり忘れてるみたいで。
「イヤイヤイヤお父さん許しませんよ!! そんなはしたない!!!」
「いや、それが潜入捜査ってやつですよ。」
ガッツリと世間話にのめり込んでいる近藤さんと横になり寛ぎまくる総悟さんに内心ため息をつきつつも、もう別にいいかな、サボれるし、ともう大分諦めかけていた。
「そもそも女で潜入してるのに、接吻ぐらいしないと、怪しまれますよ。 まあ、接吻っていっても粘土越しですけどね!」
「お前一応聞くが、身体売ったりしてねェだろうな。」
私と同じく諦めて、煙草を吸う土方さんが此方を睨む。
さっきからの話題は私の潜入捜査について。 潜入中何をしてるかは言ってなかったなあと思って、言葉を選びながら喋ってたんだけど、思いの外食いつきがよくて、ちょっと驚いた。
「してません出来ません。 私そこんとこの技は教えてもらってないので、避けてます。ボロが出るので。
でも逆に大変なんですよ!身体売らずに懐潜り込むの!」
「俺全く知らなかったよ…! トシ!愛ちゃんの任務内容改めよう! 危ないのは全部ザキにやらせよう!」
そう言う近藤さんに土方さんは私の報告書を見直し出す。
退さんに同情して慌てて話題を変えようとしたとき、座っている私の膝を総悟さんが寝ている足で突ついた。
「接吻して、なんも思わねェの。」
寝ている総悟さんの表情は前髪が邪魔して伺えない。
「…別になんとも。任務ですので。 そういうくノ一的な技が習得できるなら、目的の為に身体を売る事も抵抗はないです。」
素直な自分の言葉をぶつけた。
彼に対しては、言葉とか選んだりできないのはなんでだろう。
私の言葉を聞いた近藤さんと土方さんは目を伏せる。
…嫌な空気にしてしまった。
「いや、まあ!大丈夫ですよ! くノ一の技習得する予定もする時間もないですし! いつものようにのらりくらりやっていきますよー!」
そう言うと、「無理はしないでねェエエエエ!!」と泣きそうになりながら近藤さんが私の両手を握り締める。
さっきから表情が読めない総悟さんは相変わらずだけど、土方さんからは「報告書には結果だけじゃなく過程も書いとけ」と忠告されてしまった。
形は違うものの心配されてるのだと、今まで考えられなかったものを感じて、嬉しさで少しむず痒くなってしまったのは秘密である。
これでも一応忍です (総悟さん、貴方はなんて思いましたか?)
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